他種族出会い系~異界の地雷を踏み抜け!~
石獅子
プロローグ ものぐさ男のサイト探し
付き合うまでの駆け引きが嫌いだ。
高校生のころから異性の恋人が欲しいとは思っている。しかし、異性との出会いに切っ掛けを要したり、友達から始めたり、周りの協力を得たりなど、煩わしくてしかたなかった。
俺はそのような探り合いなどなく恋人が欲しい。特別美人だとか、スタイルが良いとか、性格が良いとか、そんな高望みはしない。ただ、俺と同じように付き合うまでの過程をすっ飛ばしたいと願う女性が良い。
恋人という関係から始まり、相性が良ければ人生の相棒に。そうでなければ別れて次の恋人へ。そういった煩わしさなど欠片もない、恋愛とは程遠いパートナー探しとしての関係を構築したい。
そんな思いのまま、俺は大学生になった。さらに一年経ち、二期生となっても望ましい関係は築けない。
業を煮やして、俺はとうとう出会い系サイトに手を出すことを決めた。恋人を作ることが目的の場なら、きっと俺とこころざしを同じくする人がいると思ったからである。
ところが出会い系サイトでは、俺のような若い男は思いのほか敬遠されることを知った。
サイトを利用している女性はたいがい二十代後半から三十代であり、同年代との付き合いを希望している。例えば俺から気が合いそうなので会いたいと申し出ても「年下はちょっと」と女性側から遠慮がちに断られてしまうのだ。
そうでない女性がいたかと思えば、それは利用者を装った悪質な業者であったり、金銭を目的とした近寄りがたい人種であったりした。
いくつかのサイトを巡ってみたが、良い結果は得られない。サイト巡りに辟易し始めたころ、とあるサイトで気になる出来事が起こった。
そのサイトでは気になる相手にメール形式でメッセージを送ることのできる機能がある。一回の利用ごとに男性は有料で女性は無料と、出会い系サイトにはよくある形式の集金機能だ。
その機能を使い、俺に送られてきたのが以下の文章である。
『人間以外の女性が多数います! よければこちらにも登録しませんか?』
上記の後にアドレスであろう文字列が並び、それ以降にメッセージは送られてこない。
出会い系サイトで別のサイトへと誘導されることは多々あることだ。たいていは金ばかりかかる悪質なサイトへの誘いであるので、気に留める必要もない。しかし、この時ばかりは引っかかった。
人間以外という意味不明な文句。さらにそれが多数いると続けられているせいで、輪にかけて意味が分からない。
サイト巡りに飽きてきたところであったので、遊び半分で俺はついついそのアドレスをクリックした。
パソコンの画面に表示されたのは、シンプルな作りをした『種族交流会』というサイトだった。初めての方用と登録済みの方用と枠組みされており、初めての方用という部分にはサイトの説明が記載され、登録者の声という別枠もある。
「ここのおかげで初めて恋人ができました」(エルフ・♀・2000歳)
「ここで出会った人間の女性と今年の××月に結婚します!」(淫魔・♂・年齢不明)
「付き合い始めて一年になります。出会えてよかった」(獣人・♀・5歳)
登録者の声にはこれらのような紹介が多数あった。どれもこれも記した人物が架空の存在ばかりで、きっとこれはジョークサイトなのだろうと見当をつける。
また、サイトのトップに作り物にしてはよくできた猫耳を生やした女性の写真が貼ってあり、登録者の声も相まって、ジョークサイトにしては凝った作りをしているものだと感心した。
画面をスクロールしていくと、利用登録用の枠組みが表れる。他の出会い系サイトと違わず、性別、ニックネーム、生年月日、主な住処、利用目的を入力すれば登録できるらしい。
俺は少しばかり迷ったあと、このジョークサイトに登録することを決めた。少々危機感が足りないかもしれないが、登録した結果どのような画面に飛ぶのか興味があったのだ。
性別は男。ニックネームはモノグサ。××年××生まれ。××県住み。利用目的は恋人探し。
上記を入力し、登録のリンクをクリックする。するとメールアドレスとパスワードの登録画面が表示された。それらも入力し終ると、長ったらしい利用規約が表れる。怪しげな文章がないことを確認し、利用規約に同意した。
『登録ありがとうございます! あなたの目的にそった相手へ、自動的に紹介が送られました。後にご確認ください』
その文章の下に『ホームページへ行く』というリンクが張られた画面に飛ばされる。そこで俺は呆気にとられた。
「あれ、年齢は確認しないのか」
思わず独り言を漏らしてしまう。出会い系サイトは利用する場合、自分が十八歳以上であることを証明しなければならない。たいていは保険証や免許証の生年月日を写真に撮って送るものだ。
年齢の確認がないサイト、それはつまり合法ではないということだ。たいした情報を書いてないとはいえ、非合法なサイトに登録してしまった。
直前まであった興味は失せ、悪質な業者の思惑にのってしまった不快感が湧いてくる。溜め息を吐き、俺はホームページを覗かずにブラウザを閉じた。
すっかり出会い系へのやる気が失せて、衝動的にパソコンの電源も落とす。部屋にある置き時計を見ると、午後六時を示していた。一時間後にはバイトが入っている。バイト中はご飯を食べる時間もないので、今の間に食べておかなければならない。
非合法なサイトのことなど頭の隅に追いやって、俺は早めの晩飯に取り掛かるのだった。
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