僕の愛した人たちへ
笠井 玖郎
*
僕の愛した人たちへ
僕は君が好きでした。
今でも忘れられないほどに。
黒を好んだ背の低い君は、僕の一番の片想い。
幼い頃から傍にいて、今となってはこの感情さえわからない。
近くて遠く、恋しくて虚しい。複雑に融け合った感情を、もう分けることは叶わない。
それでも執着だけは強くて、君の幸せを願えない。
手に入らないと、わかっていても。
僕は君が、好きでした。
ふわふわと、羽のように舞う君は、決して叶わない恋心。
家族ぐるみで付き合って、それでも僕は、伝えない。
一番近くにいたはずの、僕の理想の女の子。
イデアは僕の中にあり続け、君に似た人を探してしまう。
それでも僕は、君にだけは伝えない。
君の幸せを妨げないように。
少し背の高い、柔らかな笑みの君は、僕の青春時代の想い出。
時に見せる毒にどれほど僕が酔わされたか、きっと君は知らないだろう。
無意識に、不用意に、僕の空間に踏み込んだ君。
それがどれだけ僕を惑わしたか、いつか君に伝えてやりたい。
君は何と言うのだろう。笑顔で僕を躱すだろうか。いつも翻弄されるのは僕の方。
友人のラインを踏み越えなかった自分を、僕は少し悔やんでいる。
赤がよく似合う君は、僕の一番の未練。
君と言葉を交わしてから、多分僕は惹かれていた。
告げるべき言葉を飲み込んで、言わないと決めた選択は、正しかったのかと自問する。
少しだけ、ほかの人より近くにいた君。
どうか早く、僕の手の届かないところに。
言えなかったという免罪符を手にする僕を、人はきっと笑うだろう。
それでも僕は、こう言おう。
幸せになってくれたらいいと。
僕の本心を握りつぶして。
僕の愛した人たちへ 笠井 玖郎 @tshi_e
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