第48話 生け捕り


 ―― 翌朝、今日からマジックボアの『生け捕り』が始まる……


 俺達はオットーの荷台にロープや鉄パイプを積み生息地に向かう。

 当然、ポーターであるオットーとソフィアは危険な区域外で待機させておき現場

 には俺とテレジアの二人だけで入る事になる。


 林の中に進むとテレジアが足を止め指を差す。


 「…ケイゴ ストップ 居たわ マジックボアいたわよ」

 「何処だ?」

 「二時の方向よ」


 言われた方を見るとマジックボアが後ろを向いて伏せている。目を凝らして

 見ないと分からないだろう。


 「テレジア 凄いな…… 言われなきゃ分かんなかったぞ」

 「フフン! あたしはビノールの森で育ったのよ? 森の中なら お手の物よ」

 「なんだ? ビノール村はそんな田舎なのか?」

 「わるかったわね 田舎で! そんな事より打ち合わせ通り行きましょう」

 「ああ」


 俺はテレジアに、持ってきたロープを渡すとテレジアは丈夫そうな木の上に

 登り輪っかを作ったロープを垂らした。


 「じゃあ 行ってくるぞ」

 「気をつけてね」


 ザッザッザッ

 俺は捕獲武器を肩に担いで真っ直ぐマジックボアに向かって歩いて行った。

 気がついたマジックボアは立ち上がり地面を前足で蹴り上げ威嚇行為を始めた。

 突進してくるマジックボアをかわしながら後ろに後退する。何度か攻撃をかわし

 た次の瞬間、捕獲武器で後ろ足を叩いた。


 ボキッ! ブゥオオオオッ!

 骨が折れたようだ。マジックボアは足を引きずり距離を取り直して再び突進し

 てくるが、足を痛めて動きが半減している。俺は捕獲武器を上下反転させ、牙用

 の筒で突進してきたマジックボアの牙に捕獲武器を嵌めた。


 ビリッ ビリリリ

 青白いプラズマを発生させ始めた。俺は腰からぶら下げた、おまけで作って

 もらった筒だけ付いている道具を外すと、もう一本の牙へ差し込んだ。

 俺は二つの牙に差し込んだ道具を両側へ開いた。すると、痛いのか苦しいのか

 マジックボアが口を開き始めた。


 (ここだ!)


 俺は、無詠唱「ボム」を口の中へ打ち込んだ。


 ドゴォン! ブゥゴオオオオ!


 マジックボアは泡と血を口から吐き、その場に倒れた。


 「テレジア 輪っかもってこい!」

 「…う うん」


 テレジアは側まで来ると輪っかの部分を俺に放り投げた。俺は、輪っかの部分

 を口に嵌めギチギチに縛り上げた。手と足も縛り上げる。


 「よし オットー達を呼んでくれ」

 「わかった!」


 テレジアは走ってオットー達の待機場所に向かった。


 (出来れば牙を処理したいが……次回は大ハンマーも持ってくるか)


 俺は運搬時に危ないと思い、牙を処理する事を考えた。


 「ケイゴ! お待たせ」

 「荷台に積んだ 鉄パイプを持ってきてくれ」


 俺達全員で、なんとかマジックボアを荷台に乗せて昨日契約した取扱店の

 ノーラばあさんの店に向かった。店の前に着くと俺は店のドアを開け叫んだ。


 「おーい ノーラばあさん 俺だ ケイゴだ! 一匹持ってきたぞ」

 

 すると、奥からノーラばあさんの声が聞こえた。


 「裏に回してくれ 裏で皮を剥ぐ」


 俺はオットーに裏に回すように言うと店の中から裏に回った。そこには、

 マジックボアの皮を剥ぐ台が用意されてあった。


 「ケイゴ マジックボアをここに乗せて手足と首をロックするんだ」

 「そんなの契約に無いだろ 聞いてないぞ?」

 「ここまでが契約じゃ! ツベコベ言うな」

 「チッ わかったよ」


 ノーラばあさんは捕獲したマジックボアを見て質問してきた。


 「こいつが怪我してる場所は 後ろ足一本だけか?」

 「あと口の中だな」

 「これは良いぞ」

 「そうなのか?」

 「ああ 他のやつらは傷を付けまくりじゃ 矢も使って穴だらけにしたり」


 何でも、加工の時点で傷みが激しい部分は使い物に為らないらしい。

 俺は手のロープを外しロックをかけ、次に足にかけ最後に首をロックした。


 キリキリキリ クルクルクル

 

 台の脇に付いたハンドルをノーラばあさんが回すと腹ばいで固定されていた

 マジックボアが二本足で立ち上がってように縦になった。


 「……どれ はじめるとするかね」


 ノーラばあさんは両手首と両足首、最後に首と切れ味鋭いナイフでグルリと

 一周するように刃を立てる。血は一切出てこなかった。俺は側でジッと作業を

 見ていた。テレジア達は見ないように別の方を向いているが時折、こちらの作業

 の様子を見ては嫌な顔をして、またそっぽを向くを繰り返していた。


 ノーラばあさんは首元にナイフを中てるとスゥーっと股関節の辺りまでナイフの刃

 を入れた。次にノーラばあさんはヘラを手に取ると器用に肉と皮の間に差し込み皮

 を剥いでいった。

 

 「……凄いな これが職人か」


 俺は感心のあまり、つい声に出してしまった。


 「何十年やってると思っている」


 ノーラばあさんは答えた。


 「さあ 終わりだ 処理して『魔石』を持っていきな」


 そう言うとノーラばあさんは店の中に戻ってしまった。


 「こっちみんなよ お前ら」


 俺は捕獲武器でマジックボアの頭を殴った。声を出す間も無くマジックボアは

『魔石』を残し消滅した。俺はショルダーポーチに『魔石』を入れ店に入った。

 ノーラばあさんは金貨七十枚をよこすと


 「次は夕方頃かい?」

 「いや そんなかからんだろ マジックボアさえ見つければすぐだよ」

 「そうかい じゃあ準備だけはしとくから 気をつけてな」

 「ああ じゃあまたあとで」


 俺達は飯を買い一旦、宿に戻った。

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