異世界契約 ― ROCKERS ―
一水 けんせい
契約の章
プロローグ
「フゥー…」
今は深夜の二時、テレビの前に布団を敷き、その布団の上で深夜アニメを
観ながら煙草を吸っていた。部屋の電気はつけていない。
奥の部屋には妹の由佳が布団の中で、うとうとしながら眠たいのを我慢し、
こっちを向いてテレビを観ていた。
今年、高校受験だ。あまり目立たない大人しい妹だ。
部屋の一番奥には、お袋がテレビとは真逆の押入れ側を向いて寝ていた。テレビの
明かりが嫌だったのだろう。お袋は近所のスーパーで働いている。俺が小学校低学
年の時にはすでに働いていた。最近は咳き込んで熱を出したりする事も度々ある。
親父は俺が中学上がるのと同じくらいに離婚した。博打好きな駄目親父。幼少の
頃は、可愛がってくれていたらしいが記憶に無い。写真は、わずかだか十数枚
残っていた。俺を抱えニコニコしている写真もあったが、正直どうでもいい。
(明日も仕事だ……もう寝よう……)
深夜アニメも終わりテレビを消した。布団に潜り込み、足をひらがなの『く』の字
の様にして横になる。
「…お兄ちゃん、おやすみ」
「……あぁ、おやすみ」
妹との、何時ものやり取りだ。お互い、小さい時からの癖になっているのだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――
数日後、珍しく早い時間に仕事を終え原付バイクで家路に向かう。今の仕事は
「水道屋」だ。 きつい肉体労働だが保険もあるし体の負担も慣れた。しかし、
仕事内容の割に見返りが乏しい。
……金の事を考えると辞めたくなる。ぶっちゃけ
だが、嫌なやつと口を聞いて仕事する訳でもないし仕事さえ覚えてしまえば楽と
いえば楽な話だ。まして、いくつも職を転々とした俺が使ってもらえるだけ
マシな話しだ……
―――――――――――――――――――――――――――――――
以前は手のつけられない不良で喧嘩ばかりの毎日。中学の頃は回りに敵無し
髪を金髪に染め、町では他校の生徒、学校では先輩から教師まで手当たり次第の、
やりたい放題だった。ただ、数名の『仲間』と一人の『老人』だけには
心を開いていた。
帰宅途中、通っていた中学校を横切る。グラウンドの奥に見える、草木に水を
やる用務員の長島さんを見つけた。歳は六十歳後半くらいかな?いや、もっとか?
気さくで話しやすい爺さんだった。中学に通っていた頃は、暇潰しや愚痴をこぼ
しに行くと長島さんは決まってインスタントコーヒーを出してくれた。
俺は、用務員室のソファーに座り、出されたコーヒーに砂糖とミルクを自分で
入れスプーンでかき混ぜる。脇には長島さん自作のハンモックが吊るしてあり、
ハンモックに揺られながら小説だろうか?本を読んでいる長島さんを良く見かけた。
『今日はどうした?』長島さんが自分のコーヒーを左手に持ち、煙草を咥え
ながら話しかけてくる。何故か、長島さんとは馬が合った。可笑しな話だ、中学生
と老人がコーヒーを飲みながらペラペラ楽しそうに話しているのだから。
それが中学時代 俺の日常だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ビィビッ!
親指でクラクションを鳴らし、バイクのアクセルを戻して右手のひらを、長島さん
の方に向け軽く手を伸ばした。それに気がついた長島さんはニコッとして、左手に
ホースを持ち、水を巻きながら軽く右手をあげた。
(明日は仕事が休みだし、ウイスキーでも買って一緒に飲むかな。)
今夜の予定が出来た瞬間だ。少し一方的ではあるが・・・
ガラガラガラッ
玄関に入るなり
「お兄ちゃん、おかえり」
学校のジャージを着て体育座りをしながらテレビを観ている由佳がいる。
バイクの音で俺を認識しているのだろう。お袋はまだ帰ってない。
「ただいま」
靴を脱ぎ真っ直ぐ風呂場の前に向かい作業服を脱ぐ。脱いだ作業服はそのまま
洗濯機の横にある、洗濯籠へ放り込む。続けて風呂に水を溜める。いつもは、今日
より一~二時間は遅い時間に帰宅するので大抵は風呂が沸いてる状態だ。今日
みたいな日は滅多にない。スゥエットに着替え、テレビとテーブルを調度正面に
挟んで座り一緒にテレビを眺める。
(そろそろかな……)
テレビを観出して三十分経った頃か、風呂を沸かしにモソモソ立ち上がろうと
すると、由佳も同時に立ち上がり炊飯器のスイッチを入れた。
(研ぎ荒いは、すでにやってたのか)
そんな事を思いながら風呂場で水を止め、ガスに火を付け沸かしはじめる。
そうこうしているうちに、お袋が帰ってきて晩飯になる。食い終わると風呂に
入り、出かける準備をする。風呂から出て、ドライヤーで頭を乾かし着替える。
(どうせ長島さんのところだ、適当でいいか)
ジーパン、Tシャツに長袖シャツ 準備完了。
―――――――――――――――――――――――――――――――
何も言わず家を出る。まあ、何時もの事だ。十九にもなって、一々家族に行き先
を伝えるものでもないだろ。少し遠回りになるがディスカウントショップで買う事
にする。氷、二袋とウイスキー二本、後はつまみかな。適当にチーズや柿ピー等を
買い物籠に入れ、レジで支払う。
「ありがとうございました!」
店員に支払いを終え店を出る。テクテク歩くと学校が見えた。
(用務員室は……)
明かりがついている。俺は正門を乗り越えグランドを横切り用務員室へ向かった。
コンコンッ
扉を二回ノックする。
「……誰だ?開いてるぞ」
長島さんの声がした。
(おっ、いたな)
少しニヤリとしながら俺はドアノブを捻り、扉を開けた。
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