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 「だいたいカインがいる建物までは歩いて十五分でしょうか 途中に店屋とか

 食堂もあります 他の町に比べると少しだけ高いんですがね…ハハ…」


 俺達は石畳の道を歩き町の中心部へ向かう。石を積み上げられて建てられた大き

 な施設がいくつもあり目に止まる。


 「…気になりますか?」


 ハインツが俺に尋ねる。


 「ええ 何の建物なのかなあって 程度ですけどね ハハハ」

 「あれは実験場です」

 「実験場?」

 「ええ 『蓄積アイテム』セーブストーンの実験場なんです あまり知られて

 いませんが私達が使っているセーブストーン以外も存在するのです」

 「セーブストーンに他の種類が?」

 「そうです 研究者が耐久性や安全性を調べています なんの呪文で蓄積

 出来るのか 条件は 解放は といった辺りまで調べる施設です」

 「なるほど……セーブストーンの研究施設か…」

 「数がそれほど産出されていないようで もし市場に出回るとしてもまだまだ先

 でしょうね セーブストーンは完全に国の管理下に置かれていますから」

 

 いきなりテレジアが一軒の店を指差し興奮してしゃべりだした。

 「ねえ ケイゴ! そこのお店に寄りたいわ!」

 「何の店?」

 「服よ! ふ く !」

 「……またか…あれほどあるのにまだ買うのか?…」

 「いいじゃない 服くらい 男にはわかんないのよ! いいでしょ?」

 「……早くしろよ」

 テレジアとケイナは店にすっ飛んでいった。


 「…もう 勘弁して欲しいわ……」

 「ハハハ ケイゴさんも大変ですね」

 「……ハインツさん この町に学校はありますよね?」

 「ええ もちろんあります 学校? もしかしてケイナちゃんですか?」

 「…ええ まだテレジアとケイナには話してないんですけどね 出来ればケイナ

 に教育を受けさせてやりたいなと思っているんですよ…」

 「…なるほど 色々難しいですね……」

 「難しいとは?」

 「いえ 学校自体に入る事は簡単です 誰でも勉強を受けられます しかし…

 ケイナちゃんが大人しく ケイゴさんやテレジアさんから離れて学校に

 通いますかね? 難しいと言ったのはその事です」

 「…確かに」

 「私が言うのもあれですが もう少し慎重に考えたほうが良いかもしれません…」

 「そうですね…もう少し考えてみます あっ この事は内緒に」

 「ええ わかりました」


 (まずはテレジアと相談してみるか……なんて言うだろ…)


 「そうだ ケイゴさん 今テレジアさん達が入ってる店の裏側が宿屋地区です

 見に行ってみたら良いのでは? その間にカインの様子を見て来ますから ここで

 待ち合わせにしましょう」

 「そうですね では 後で」

 「あっ まだ宿は決めちゃ駄目ですよ 宿泊費を聞くだけにしといて下さい」

 「了解!」


 ハインツと別行動を取る事にした俺は、向かいの店にいるテレジアとケイナを

 迎えに行った。店の外から中の様子を伺うと、ケイナの着替えを手伝うテレジアと

 鏡に写った自分をみてニコニコしているケイナ。

 (ケイナも女?雌か…やっぱり可愛いとか言われたいのかな……教育を受けさせ

 中身も成長して欲しいし色んな事に興味もって欲しいが……俺の我儘わがままなのかな…)


 時間がいくらあっても足りない状態なので店に入り急かす事にした。

 「……まあだ かかるのか?」

 「あっケイゴ! ねえこれ 可愛くない? あたしが『トヨスティーク』で働い

 ていた時の制服に似てるでしょ? やばい…可愛すぎるわ これ!」

 「……早く買うなら買っちゃえよ この店の裏辺りが宿屋地区らしいから

 見にいこうぜ」

 「あっ それならケイゴ一人で行ってきちゃってよ まだかかるわ」

 「……」


 そう言いながら別の服を見出した。ケイナも新しい服を着れると思いテレジアに

 ついて回る。

 俺は一人で見に行く事にした……ああなってしまったテレジアを引っ張っていく

 のは至難の業だ。一人でサクサクと回ってきた方が早い。


 店の裏手に行くと、宿屋ばかり立ち並んでいた。どこも立派な造りになっていて

 いた。利用者も貴族や軍関係者、さっきハインツに聞いたセーブストーン研究者も

 いるだろう。俺は表から分かる範囲で宿泊代を調べてみた。


 『一泊 お一人様 金貨一枚銀貨二枚』『一泊 お一人様 金貨一枚銀貨四枚』

(高すぎるだろこれ! いや…これがなのか……もう少し中心から遠の

 くと安くなるのかもしれないな)

 俺は少しはずれまで歩く事にした。ポツリポツリと金貨一枚以下の宿屋が現れ

 はじめた。その一軒に入って直接聞く事にした。


 チリンチリン

 宿屋のドアを押して入るとすぐ右側にカウンターがある、中には制服を着た女の

 人が立っている。恐らく受付だろう。


 「すいません ちょっといいですか?」

 「いらっしゃいませ ご利用ですか?」

 「良ければ利用します 金額を知りたいので いいですか?」

 「はい お一人様ですか?」

 「いいえ 三名です あと子供と……姉です」

 「三名様ですね 一部屋でよろしいのですか?」

 「はい かまいません」

 「三名様 一部屋ですと…金貨一枚と銀貨九枚となります」

 「……申し訳ない また今度きます」

 「はい ありがとうございました」


 俺はこんな事を繰り返し、ようやく金貨一枚と銀貨八枚の宿屋を探した。時間も

 時間なので、とりあえず一旦戻り皆と合流する事にした。買い物をしていた店に

 行くと二人の姿が見えない。すると、ケイナの声がした。


 「ケイゴ こっち!」

 隣にあるパン屋のオープンカフェでミルクを飲んでいた。テレジアは、お茶に

 ケイナから少し貰ったミルクを混ぜてミルクティーにして飲んでいた。

 「安いところあったの?」

 「三人で金貨一枚と銀貨八枚が一番安いところだったわ……」

 「ご苦労様 とりあえずケイゴも お茶頼む?」

 「いや ハインツさんと合流しないと…まだ来てないか じゃあ お茶頼んで

 くれよ」

 俺はハインツと別れた場所を見て、まだ来てないのを確認すると椅子に座りお茶

 にした。


 「……なあテレジア 部屋っていくらで借りれるもんなんだ?」

 「色々あるから いくらって言えないけど…この辺では高いと思うわ」

 「そうだよな……ちょっと離れて安いところあると良いんだけどなあ」

 「そうよね 金貨二枚払って宿に泊まるなら少し離れたところに自分達の部屋が

 あった方がいいわ 何ならあたしも出すからね!」

 テレジアが笑顔で、そう言った。

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