サポーター


 夕食を済ませ宿に戻ってきた俺達は、店主に一人の男を紹介される。

 ラウンジでお茶を飲んでいる男は三十分くらい前に来たらしい。色黒の中肉中背

 で歳は三十五歳くらいだ。恐らくサポーターの件だろう。組合でしゃべった若い

 サポーターと違い、落ち着いてる。


 「ケイゴさん あちらの方がサポーターの件でお話があるそうです」

 「わかりました」

 俺は、テレジアとケイナも同席させる事にした。


 「どうも 『スガーク冒険組合』の掲示板を?」

 「ああ どうも ハインツと言います そうです 掲示板を拝見しました」

 「という事は サポーター依頼を請けてもらえると?」

 「条件に文句はありません 通常の倍の日当で雇ってもらえ 戦闘もしなくて

 良い 逆に気味悪いくらいですよ……いくつか質問させてもらえませんか?」

 「かまわないですよ どうぞ」

 「ケイゴさんは何の為に『隠遁の森』へ?」

 「…簡単に説明すると『宝探し』ですよ」

 「……なるほど」


 「…俺も質問いいですか?」

 「ええ どうぞ」

 「魔法レベルはいくつですか?」

 「私は青です レベル3です」

 「レベル3でサポーターですか? 冒険者には ならなかったんですか?」

 「……一応 登録証はありますが 特典が魅力で登録したに過ぎないんですよ」

 「なるほど」

 「もうひとつ質問いいでしょうか?」

 「どうぞ」

 「この小さな子も同行するのですか?」

 「ええ……まあ 問題ありますか?」

 「あ…いいえ 少し危険なのではと思いまして……」


 「わらわの事は気にするな お前よりは強いからのう」

 「えっ?……」

 「あっ!いや こらケイナ 駄目じゃないか 大人の人にそんな口聞いちゃ 

 すいません ほら 謝りなさい」

 「……いやじゃ…」

 「あっ いや 別にいいんですよ ちょっと驚いただけです…」

 「本当にすいません 後で言って聞かせとくんで」


 「ケイゴさん 出発は何時になりますか?」

 「一応 後二日~四日の滞在する予定してましたが都合は悪いですか?」

 「いえ 特に問題ありませんよ 食料の買出しやセーブストーンのインストール

 で一日は欲しいとお願いしようと思っていましたが日数に余裕ありますね 

 問題ないです とりあえず 二日後こちらに昼前に伺うとい事で」


 そう言ってハインツは帰った。

 「……どう思う? テレジア」

 「うーん 難しいわね まだわからないわね」

 「だよな……それよりもケイナ どうしてあんな事言うんだ?」

 「俺達に言うのは別にして 他の人にあんな事言っちゃ駄目なんだぞ」

 「……」

 「まあまあ あたしから言っとくから ね ケイナちゃん」

 

 ケイナはふくれっ面をして、そっぽを向いてる。


 「あのハインツって人『隠遁の森』ってわかってるのに落ち着いてたわね」

 「ああ それも気になったんだ でもあんまり詮索ばっかしててもな……」

 「そうね ちょっとあたし 組合に行って掲示板から剥がしてくるわ」

 「依頼か? ああ頼むよ」


 テレジアはサポーター依頼を取り下げに組合へ行った。


 「さあ ケイナ 部屋に戻ろう」

 「……」


 (…まーだすねてるのか)

 

 俺は、後ろからケイナの脇をくすぐった。

 「わっ ケイゴ! やめて やめて!」

 ケイナは笑いながら転げまくった。そのまま抱きかかえ部屋へ戻った。


 部屋でケイナとじゃれ合っているとテレジアが帰ってきた。


 「ただいまー」

 「おかえり!」


 ケイナが玄関までかけ寄って行く。テレジアはそれを見てケイナの手を握り一緒

 に部屋の中へ戻る。


 「……ケイゴ なんか変なのよ…」

 「どうした?」

 「依頼の取り下げをしている間 冒険者が何人かいたから聞いたのよ……」

 「うん なにを?」

 「ハインツなんて知らないって言うのよ……」

 「知らない?……」


 「そうなの 『スガーク』で活動しているハインツというサポーターなんて

 知らないって言うのよ? サポーターもいたから聞いたけど知らないって」

 「……」

 「彼 冒険者登録してるって言ってたから 『冒険者』のハインツで聞いても

 答えは同じなのよ……」

 「ここのサポーターじゃないんじゃないか?」

 「これは一般的な話だけど サポーターって自分の住居がある場所以外で仕事を

 請けたりしないものなのよ その辺 はっきりしないと少し心配だわ……」

 「…わかった 次に来た時ハッキリさせよう 心配するな 大事なものを預ける

 んだ 信用できないのに 荷物を預けるなんて無理だしな……」


 ―― 二日後、昼前


 カランカラン

 宿の玄関が開かれた音がした。俺達はラウンジでお茶を飲みながらハインツが

 来るのを待っていた。ハインツが約束の時間通り尋ねてきた。


 「こんにちは みなさん お揃いで」

 「やあ ハインツさん どうぞ」


 俺はハインツを俺達が囲むテーブルへ招く。


 「ハインツさん 仕事の打ち合わせをする前に質問が出来たんで いいですか?」

 「ええ 構いませんよ?」


 ハインツは動じる事も無く、質問に何でも答える様子だ。


 「あなたは何処の人ですか? ここ『スガーク』の冒険者やサポーターはあなた

 を知らない もちろん『冒険者』としてのあなたもね」

 「……聞いて回ったんですか?」

 「たまたま数名に聞いただけだ 答えられないのか?」

 「……」


 ハインツは黙ったままお茶を飲む。


 「ハインツさん……俺達と一緒に行動するなら嘘は無しだ! 大事なものを一時

 とはいえあなたに預けるんだ 素性を言えないなら この話は無しだ」


 「……ふぅ… 参りました…… わたしの負けです 全てお話しましょう……」


 そう言うとハインツは、両手を上げて自身の事を語り出した。


 「わたしは首都『オリオスグラン』に住居があり拠点にしているサポーターです

 専門は遺跡探索を請け負った冒険者達のサポートです わたし自身考古学を

 若いとき少々かじっていました 冒険者のサポーター以外に考古学者と直接契約を

 結んでいます」


 ハインツは話を続けた。

 「ケイゴさん カインの名をご存知ですよね?」

 「カイン? 考古学者のカインさんか?」

 「…ええ カイン=ヒューゲル 彼はわたしの直接契約を結ぶ考古学者と同時に

 学生時代からの友人です……」

 「なんだって?」「なんですって?」


 俺とテレジアは一瞬、お互いの顔を見た。


 (ハインツはカインと知り合いだったのか)


 「カインさんと知り合いだったの?」


 テレジアが驚いた様子でハインツに質問した。


 「ええ あなたの事もカインから伺っていますよ とても素敵な女性だと」

 「えっ! 嫌だあ…そんな 素敵だなんて!」


 (お前は何をモジモジしてんだよ!社交辞令もわかんねーのかよ……)


 ハインツは目を輝かせ、思い出し笑いをし続けて言った。


 「もちろん『タウマス遺跡 最新層』の話……聞いてますよ」

 「その話も知っているのか…」

 「ええ カインは興奮しながら話してくれましたよ 『最新層』の情報公開は

 まだですが 時期に国中が知る事になるでしょう その為現在『タウマス遺跡』は

 立ち入り禁止になっています」


 ハインツは続けた。


 「わたしは彼の話を聞き ケイゴさん あなたにとても興味を持ちました。偶然

『スガーク冒険者組合』であなたを見て興奮しました……」

 「……興奮ですか…」

 「あっ いや…変な方の興奮じゃありませんよ…とにかく詳しい話も聞きた

 かったし何でもいいからお近付きになりたかったんです 正直今回の依頼も一切

 報酬なんかいらないくらいだったんですが 警戒されては 元も子もない……

 わたしもカイン同様に道は違えど『新たな発見』を期待する者で今回の

『隠遁の森』調査に 胸が踊らされます」


 「なんだ……余計な心配してたみたいだな 俺達は ハハ」

 「本当よ! ケイゴは疑り深いんだから あたしははじめっから信用してだけど」

 「……お前なあ…」

 「ケイゴさん これがわたしの素性です どうです? この話は無かった事に?」

 「いや…すまなかったハインツさん 是非サポーター依頼の件 お願いします」


 こうしてハインツが『隠遁の森』探索の再調査に加わった。


 「早速仕事の話だ これを見てくれ 今回の調査ルートなんだけど……」


 ケイゴは地図を広げハインツにコース説明をはじめる。ハインツは真剣に地図を

 眺め意見を交わす。


 「ああ そうなんだよ サポーター依頼は一週間の設定で募集したんだけど」

 「なるほど でしたら後から出た二週間コースの案でもわたしはかまいませんよ 

 実際な話『隠遁の森』への調査なんか何時まで待ってもチャンスがこないでしょう

 から わたしとしては是非お願いしたいところですね…もちろん報酬は一週間分

 だけで構いません」

 「そうしたら? ケイゴ」

 「テレジア…」

 「二度手間よ さっさとこの調査を終わらせて 目指せ『メザーレイク』よ!」

 「次の探索は『メザーレイク』なのですか?」

 ハインツは一瞬驚いた顔をした。 


 「まあ 一応……」

 「一応って何よ! 絶対何かあるわ!」


 しばらくハインツは考え込んで口を開いた。


 「……『メザーレイク』か…ケイゴさん あなた方は非常に『勘』がいいという

 かなんというか……『メザーレイク』の情報 わたしも少しだけあります 今回の

 調査が終わり落ち着いたら情報交換しませんか?」

 「えっ? 本当?」

 「ええ と その前に『隠遁の森』攻略しましょう!」

 「ああ!そうしよう」

 「うん!」

 「おー!」


 ケイゴ達は旅の準備を整え、数日後『スガーク』を出発した。ケイナにせがまれ

 大量のペロペロキャンディーを購入して……

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