――― 焚き木にあるような枝木を集め、キャンプに戻るとテレジアの姿が無い。


 「テレジアー! どこだー!」

 俺は大きな声でテレジアを呼ぶ。返事が無い……


 (まさか……ヘルハウンドに……)


 一瞬、頭を過ぎったがここで争いの形跡はなくテレジアの荷物も……あれ?

 テレジアの荷物が無い。周りを見渡すと岩陰にテレジアのリュックが置いてある。


 (あいつ、こんなところに荷物置いてたか?……)

 

 リュックに近ずこうと二~三歩、歩いた時、テレジアが岩陰の裏から

 顔だけ出して


 「ストップ!」


 顔を真っ赤にして一言だけ言った。


 「何がストップだ お前が居なくなって心配したんだぞ だいたい何でそんな

 ところでじっとしてんだ?」

 「……」

 「ははーん ションベンしてたな?」

 「違うわよ! シャワーよシャワー! とにかくこっちこないで! 見ても

 駄目だからね!」

 「シャワー? どうやってシャワーなんか出したんだ?」


 俺は後ろを向いて座りテレジアに話しかけた。テレジアは着替えの最中だろうか

 リュックをゴソゴソしながら答える。


 「簡易シャワーよ 組み立て式で てっぺんの容器に『ウォーター』を入れて

 高いところに吊るすのよ 容器の底は穴がたくさん開いててホースも繋がるように

 なってるの どう? いいでしょ?」

 「ああ いいなそれ 終わったら俺も使っていいか?」

 「いいけど高いわよ?」

 「は? そんなこと言うのか? ……もう俺一人で出発しちまうかな……」

 「わっ わかったわよ 冗談でしょ! もう 本当ケイゴは意地悪なんだから」

 「ハハハ テレジアが俺から金取るなんて言うからさ」

 「はい 着替え終わったわ 使っていいわよ」

 「おっ サンキュー」


 (セットされた簡易シャワーか……これはいいな)


 そう、この『異世界』では魔法が使える。二年前から魔法を蓄積できる石

『セーブストーン』が鉱山から採掘されるようになり住人達の生活は一変した。

 国も、有能な学者を集め補助金まで出し研究をさせる力の入れようだ。


 俺は岩に服をひっかけシャワーを浴びる。腕や顔を洗いながらテレジアに

 話しかける。


 「なあ! これ 簡易シャワー 大量生産して商売したらいいだろ?」

 「売れないわよ 長旅してる人なら みんな思いつくもの」

 「そっか 残念だったな ハハハ これ 水じゃなく お湯だったら最高だな」

 「そうよねえ ああああ お風呂に入りたいー」

 「テレジア 何か拭くもの貸して」

 「もう いい加減 身の回りの物は持ち歩きなさいよね はい これ」

 「はいはい わかりました テレジア姉さん サンキュー」


 テレジアは乾いた手ぬぐいを貸してくれた。体を拭きホースの水で洗い絞って

 テレジアに返した。料理しているテレジアの正面に俺は座る。


 「ねえ ケイゴ 町に戻って次の旅に行く時 試しにサポーター雇わない?」

 「サポーターねえ……荷物持ってくれるのはありがたいけど 俺達に必要か?」

 「パーティーメンバーだって 今回みたいなSクラスの『魔獣』が出る探索だと

 あと二人くらい欲しいところよ?」

 「そんなもんなのかねえ……」


 (分け前やサポーターに払う金をケチって雇いたくないんじゃない…俺の「事情」

 を知られたくないだけなんだよ……ぶっちゃけ『異世界』の金なんか余計に欲しい

 わけでもない その日、生活できるだけの金さえあれば俺的には全然オッケー

 なのだから……俺の「事情」とは、この『異世界』から『ケリュケイオン』と呼ぶ

 オーパーツのような不思議な模様をしたものを持ち帰る事。帰れるのは『異世界』

 に来て三十日に一度帰れる。その日を逃すと、また三十日後となる。ただ帰れるの

 ではなく、指輪に細工された模様と同じ魔法陣が『異世界』に点在すると説明を

 受けたが……中々お目にかかれない。とにかく、その魔法陣にリングを翳す事で

 帰れるシステムで、『異世界』との行き来が可能だ。

 とりあえず半年契約でサインしたのだが……持ち帰れたのはまだ、一つ…… 

 報酬の五百万円を手にしただけだった)


 「次から考えるか サポーター」

 「うん そうしようよ さあ そろそろ出来たわよ キノコスープと蒸かし芋」

 「美味そうだな」

 「でしょう フフン!」


 俺は、セーブストーン『フラッシュ』を使い、辺りを照らした。松明たいまつの代わりと

 いったところだ。そして、ちょっと褒められて上機嫌のテレジアと飯にした。


 飯を済ませた俺は、地図を開いて次に行く探索場所をピックアップしていた。

 テレジアは食器や鍋の洗い物をしている。


 (やっぱ『隠遁の森』の調査が終わったら『スガーク』に戻って『ツキジナーク』

 の西手の辺りを調査するか…それとも、首都『オリオスグラン』に向かって

 しばらくは情報収集するか……むーん)


 「なあテレジア ここの調査終わったら行きたいところってあるのか?」

 「え? なになに? 次の場所?」


 洗い物途中で、すっ飛んできた。俺の横に座り地図を覗き込む。

 タンクトップに短パン、ブーツ。そして今はかぶっていないがトレードマークの

 テンガロンハットがテレジアの普段、着こなすファッションで実は俺も気に入って

 たりする。黙っていれば可愛いのに……


 「次にあたしが行きたいのは 断然『メザーレイク』よ!」

 「……なんで?」

 「フフン! メザーレイクには『地下洞窟』が存在するって噂なのよ!」

 「噂か……漠然としすぎてるな もっと詳細な情報が欲しいかな」

 「メザーレイクの水源に縦穴があるって話なの そこが入り口だかは確証はない

 んだけど冒険者がパーティーで降りたらしいのよ すると 見たことないような

『魔獣』がたくさんいて すぐ引き返したそうよ 絶対何かあるわ!」


 (目がキラキラしてるな……テレジア……でも、お前さん……そんなに『魔獣』

 がいるところ行って平気なの?)


 「ここが終わったら首都に向かわないか? 一度カインさんに会って話を聞いて

 みようと思うんだが どうする?」

 

 カインとは、以前依頼を受けた『タウマス遺跡』の探索調査の依頼主で、普段は

 各遺跡の再調査や『首都 オリオスリオン』で研究している考古学者だ。


 「オッケー あたしはそれでいいわ やっぱりきちんと準備して挑まないとね!」


 (挑むねえ……本当に『魔獣』に挑んでくれるんですか?テレジアさん……)


 ガサガサッ

 「! 何かいるな?」

 「ひっ……またヘルハウンドなの!?」


 俺は、立ち上がり『フラッシュ』を持って照らすと影が見える。


 「ヘルハウンドだ ……丁度四匹さっき対峙した群れかもな 前に二匹 後ろに

 二匹いる」


 すると手前のヘルハウンドの一匹が少し前に出てきて、その場をグルグル回りだ

 した。なんだ?


 「なんだお前等? ついてこいって事なのか?」


 俺が、そう言うと前の二匹は後方の二匹に合流した。人の言葉が通じるのか?


 「そんな訳ないでしょ! 早く追っ払っちゃってよ!」


 耳がキンキンする……イラッとする『テレジアタイム』


 「どうする? ついて行ってみるか? テレジアはここで待ってるか?」

 「えっ?行くの? 嫌よ! ついて行くのも一人で待つのも!」

 「んじゃそこにいろ 俺は行ってみる」

 「待って! 嫌よ あっ あたしもついて行くわよ! 置いて行かないで!」

 

 俺達は武器だけ持ち、荷物は置いたままヘルハウンドの後を追う。ヘルハウンド

 は、距離が開くと停止して距離が縮まると動き出した。そんな行動を十分くらい

 続けると、急に何かに怯え走り出し暗闇の中へ消えてしまった。


 「ちょ ちょっと! あいつ等いなくなっちゃったわよ! 何なの一体! もう

 帰りましょ 早く!」

 「…ああ 何だったんだろう…… 引き返そう」


 引き返そうと後ろを向いた瞬間、頭の中に何か入り込んできた。


 〈……臭いのう……人間? 人間の匂いか? この森に人間が入ったのか?〉

 

 確かにそう聞こえた。人に対して『人間』と語るには、語った本人は人間では

 無いという事なのか?もう一度振り返ると、その答えはすぐに出た。

 『フラッシュ』を照らした先にはヘルハウンドの五倍はある巨大で全身が真っ白

 く瞳が紅いオオカミがいた……


 (くそっ! これか……まんまとヘルハウンドに嵌められた!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る