お熱いおふたりさん

発条璃々

第1話

 夏が過ぎても、太陽は燦々と輝いている。

 海には人気がないが、ひと組のカップルがパラソルを立てて、寛いでいた。


「ねえ、スイカ割りしようよ」

「疲れる」


「ねえ、かき氷食べようよ」

「もう売ってない」


「ねえ、サンオイル塗って」

「狼になりたくない」


 不毛のやりとりが二人の間で交わされる。


 際どいビキニに身を包んだ、褐色肌の少女。

 競泳水着の日焼けあとが妙に艶かしく肌を演出している。


 少女はふて腐れながら、横目で海を眺めた。

 少女は吸血鬼の家系である。

 よって、海や川など、街を区分する境界線は渡ることができない。

 カナヅチである。

 それを克服しようと、市民プールに足繁く通うも、来場客の男性は魅了され、ライフセーバーですら虜にしてしまい、出禁を食らう。

 仕方なく、会員制のジムのプールで、女性インストラクターに習う日々だ。

 日焼けは、市民プールに通っていた際にできたものである。


 隣の少年は、青白い顔をして、肌も日焼けすらしていない雪白の白さだった。

 今日も完全武装。

 長袖に長ズボン。サングラスに帽子、日焼け止めはたっぷりと塗りたくっている。

 少年は人狼の家系だった。

 だが、7人兄弟姉妹の末っ子。

 誰よりも甘やかされて育ったため、ろくに変身することもできない。

 そして、変身すると貧血を起こすので、極力したくないという人狼とは思えない非力さだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る