『9月21日』の奇跡
ソラ
第1話 宮本雅の『9月21日』 エピソード1
夏休みの生活リズムも抜けた秋。
周りの木々は、「まだ風に負けるわけにはいかんわい」とでも言っているように、青い葉を何枚か残して凛と立ち尽くしている。紅葉にはまだ早いけど、私はこんな夏の余韻を残す秋が大好きだ。
乾いた風が吹き、少し伸びてきた髪の毛と制服のスカートを揺らす。ふわふわ風の流れに乗った葉が、今度は川の流れに乗って私より前をさらさらと行く。川の片隅で水遊びをしていた鳥が、ぱっと空に羽ばたき太陽の光を浴びる。
何でもない、いつもの帰り道。
そして、大きく広がった空に一機の飛行機。そんな風にぼんやりと景色を眺めていると、数歩前を歩いている友達の一人が後ろを振り返る。それに引かれるように、二人、三人の顔がこちらを向く。そして、最初の一人が、立ち止まって私の名前を呼ぶ。
「みやびーー?」
そのまま、遅れをとった私に何をしているのか、と聞く。
「なにしてるのーー??」
私は小走りする。急いで見せる。笑顔を浮かべる。
「ごめん、ごめん」
もう、とちょっとむすっとした顔をして、でもそれは怒っているわけではなく、少し頬を膨らませる私の親友の紗那絵は本当にかわいい。
周りの友達とも話をしながら、いつもの駅に向かう。
駅も変わらず、ちょっと人が多くいて、少しだけ騒がしい。
電車の発車時刻を知らせる電光掲示板には【遅延】の文字が浮かび、人の多さの理由がわかる。だけど、駅員さんの話によれば電車は定時の発着時刻の運行へと徐々に流れを回復していて、私たちの乗る電車も数分の遅れがあるくらいだと言う。
「えー、電車遅延してるのぉ」
紗那絵は近くにいた駅員さんに声をかける。
その駅員さんは顔を見る限りまだ若く、他の乗客にぺこぺこと頭を下げた後だった。
「電車、どのくらい遅延してるんですか」
「もう、回復してますので、上下線ともに2~3分程度です。次の電車がすぐに来ます。ご迷惑をおかけしてすみません」
帰りの電車の方向が違う私は、みんなに別れを告げてホームへ向かう。
電車が参りますので、黄色い線まで――
電車が来る合図のアナウンスが耳の横を通り過ぎた。
黄色い線の内側より少し手前。駅員が気に留めない、ぎりぎりのラインで電車の来る方向を見ながら、少し立ち止まる。
ここで私は、スーツ姿の若い男性とすれ違う。
肩が少しだけぶつかって、体の重心がホームから離れていく。
そして、私は落ちる。
司会に映る景色が、向かってくる電車の顔と下に敷かれた線路を繰り返し行き来する。
やっぱり、私は落ちた。
やがて目を覚ますと、そこはいつも朝を迎えるベッドの感触がある。
枕元に置いたスマホを見ると、『7:05 9月21日 月曜日』と表示されていた。
3回目の9月21日がやってきた。
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