第六色 ②
「先生、
「どうした? 忘れ物か?」
「目の前で子供が倒れたんで連れて来た。診てやってくれ」
「子供?」
露草は慌てて外に出ると、目の前には
顔色は悪く、青ざめている。
「分かった。診察室に布団が敷いてあるだろう。ひとまず、そこへ」
「先生、
「悪いが、緋楽は入れられん。ここで待機させるか、台帳に戻してくれ」
そう言うと少女を背負って、診察室へと向かった。
「
七両は台帳を捲っていく。
琥珀は残念そうな表情を浮かべた後、頷いた。今日も強い日差しが照り付けているのだから仕方がない。本当は台帳に戻して欲しくなかったのだけれど、琥珀はその気持ちを押し込んだ。
※※※
少女は敷かれた布団に寝かされた。
露草が言うには、恐らく能力の使い過ぎによる疲労だろう、ということだった。夏日の暑さも関係しているのではないか、とも。
「能力を使いすぎると倒れるんですか?」
琥珀が尋ねると、露草は頷いた。
「まあな。体力が持たなくなるからな。だが……」
「先生、この子供何か変じゃねえか? 俺たちともニンゲンとも違うぜ?」
七両が呟く。
「なんだ、お前気付いていたのか?」
「まあな」
「え? 何が?」
琥珀が首を傾げていると、七両が少女の耳を見るように言った。
「あれ? 人間の耳だ。じゃあ、この女の子人間なの?」
「さあな、まだそこまでは分かんねぇよ」
そう言うと、露草へ声を掛けた。
「先生」
七両はさきほど琥珀が拾った紫色の紙を露草へ渡した。
「これは……」
言いかけた露草に七両は小声で、
「子供の目が覚めたら、確認してくれ。恐らく、想像通りのはずだぜ?」
そう言った後、琥珀の名を呼んだ。
「そろそろ帰んぞ。これ以上いても仕方ねぇからな」
「えっ? うん……」
琥珀は眠っている少女へ顔を向けた。ぐっすりと眠っている。
七両の方を見ると、彼は既に立ち上がっていた。
琥珀も慌てて立ち上がった。
※※※
目を覚ますと、視界に入ったのは紺色の着物を着た男のヒトの後ろ姿だった。髪も薄い青色で、一目で
辺りを見回してみると、薬品が入ったビンや包帯が並んだ棚が見える。
自分の記憶を辿ろうとしたけれど、思うように頭が働かない。
そのままぼーっとしていると、男のヒトが振り返った。
「ああ、目が覚めたか?」
男のヒトはそう言うと、少しずつこちらに近付いて来た。
「私は露草といって、この養生所の医師だ。ここに来た時のことは覚えているか?」
「さっき男のヒトに話しかけられた。紅い髪の男のヒト」
「あの男は七両と言うんだ。一緒にいた少年は琥珀と言って、ニンゲンだよ」
「ニンゲン?」
少女が驚いて起き上がるのを見て、露草は手を出して彼女を制した。
「お前さん、名前は何というんだ?」
「
「珊瑚。目覚めて早々で悪いが、これに見覚えはあるか?」
露草は屈んで珊瑚と目線を合わせてから、さきほど七両から渡された紫色の紙を見せた。
「それ……」
珊瑚に渡すと、
「これは能力を抑える時に使う物だ。私が気になったのは、紙の色と書かれている文字だ。これは
紫紺の名前を聞いた時、彼女の顔が強張った。目の前にいる露草から視線を外す。
「その紙を持っているヒトなら、あたし以外にもいるはずよ?」
「確かに、小さい子供を持つ親なんかは持っているかもしれないな。能力をまだ上手く扱えないから、これを使って封じるんだ。能力が暴走しないように。だが、お前さんは……」
露草が言いかけた時、珊瑚は突然布団を引っ張って頭まで被ると横になってしまった。
これ以上は何も聞きたくないし、話したくもない。露草に対する明らかな拒絶が見て取れる。
珊瑚は布団を被ったまま、そこからぴくりとも動かない。
露草は溜息を吐くと、屈むのをやめた。
「話したくないなら今はいい。ゆっくり休みなさい」
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