第三色
第三色 ①
普通は気に留めたりはしないのだが、今回ばかりは違った。
その先にいたのが、
少し距離があるところからでも、琥珀がニンゲンの子供だと分かる。
青鈍は琥珀と梔子の元へまっすぐ歩いて行った。
「梔子、その子供はニンゲンのように見えるのだが?」
梔子にそう尋ねると、琥珀へ視線を向ける。
「青鈍、巡回お疲れ様。そうよ、この子は琥珀って言ってね、ニンゲンの子なの。二週間くらい前にこの街に来たのよ」
梔子が、その名前と同じ梔子色の髪を揺らしておっとりと答える。
琥珀も名前を名乗ってから、頭を下げた。
青鈍は困惑した顔を二人に向ける。そのまま再び梔子へ尋ねた。
「梔子、この琥珀という子はお前が面倒を見ているのか?」
梔子は内心ドキリ、とした。琥珀の面倒を見ているのが
梔子が琥珀に視線を向けた時、
「えっと、僕……」
「そうよ。あたしがこの子の面倒を見ているの」
慌てて琥珀が言いかけたことを遮った。けれど、あながち間違ってはいない。七両が仕事で出かけている夜間は彼女が琥珀を預かっているからだ。
同じ集合住宅に住む住人たちが交代で面倒を見ている。(もちろん昼間は七両が見ている)
だが、青鈍はまだ眉間にシワを寄せて、疑うような視線をこちらへ向けている。少し考えてから、
「ニンゲンの子供が外の世界から来たという情報はなかったはずだが?」
「ええと、ここ最近忙しくてまだ報告が出来ていないの。青鈍から報告しておいてくれないかしら?」
「そんなこと出来るか! 今日、仕事は休みなのか?」
「ええ、まあ」
「なら、今からでも
「え? 今からですか?」
琥珀は驚いて、聞き返した。
「何か問題でもあるのか?」
青鈍が琥珀に顔を向けると、彼はあきらかに困った顔で、
「七両が洗濯するから手伝わないと……」
「あっ! ちょっと、琥珀!」
梔子が慌てて琥珀の口を塞ぐ。その瞬間、琥珀はしまったと思った。
恐る恐る見上げると、青鈍の顔つきは一層険しくなっている。
「どういうことだ、梔子? 七両は
梔子は身を縮こまらせながら、琥珀へ視線を向けた。琥珀も申し訳なさそうに彼女を見た。
※※※
「七両? あたしよ、
梔子が七両の部屋の引き戸を叩く。
「どうした?」
七両は玄関に向かい、引き戸を隔てたまま彼女へ声をかけた。
「あのね、今……」
梔子が言いかけた時、それを遮るように、
「七両、ニンゲンの子供を置いていると聞いたぞ。そのことについて詳しく聞きたい」
青鈍の鋭い声が聞こえると、七両の顔は険しくなった。
琥珀は不安そうな顔を引き戸へ向けている。
七両は眉間にシワを寄せながら、引き戸越しに青鈍へ、
「ニンゲンの子供がいることで何か問題でもあるのか?」
「ニンゲンの子供がいるのは確かに目立つが問題はそこではない。おい、いい加減開けろ!」
七両は小さく舌打ちをすると、引き戸を乱暴に開けた。
「お前、何で琥珀といんだよ?」
七両は苛立った様子で青鈍へ問いただす。
「梔子と談笑しているのを見かけた。それよりもだな……」
「談笑くらいするだろ? お前は他人の会話にまで首突っ込む気か? お前と話している暇なんかねぇよ。仕事に戻れ」
「何だ、その態度は?」
ぞんざいに扱われた青鈍の顔には怒りが露わになっている。当然といえば当然だが、七両はそんなこと気にも留めていない。
「猩々緋の元には明日行ってやる。その時に琥珀も連れて行く」
七両は琥珀の腕を掴むと部屋の中へ入れた。引き戸を閉めようとした時、
「青鈍さん、
「何? どこの茶屋だ?」
「
「分かった、今行く!」
青鈍は慌ただしく階段を下りて行った。
その場に三人が残される。
「行っちゃったね」
呆然と青鈍たちが走って行った方を見ながら琥珀が呟く。
「七両、ごめんね。上手く誤魔化そうとしたんだけど」
「別に気にしてねえよ、そんなこと」
「えっと、僕はショウジョウヒとクカクチョウの所に行けばいいの?」
琥珀が尋ねると、
「お前、混ざってるぞ。
一画の区画長の名前が
「みんなからヒショウさんって呼ばれているのよ。区画長より親しみがあるからって」
続いて梔子が説明する。
「なんだ、そういうことか」
「七両、ヒショウさんに琥珀のこと話してないの?」
「ああ。別に一人増えようが二人増えようが変わんねぇだろ。だが、青鈍にああ言った以上行かない訳にはいかねぇからな」
「七両、報告って何を報告するの?」
琥珀は不安そうな顔で彼を見上げる。
「別に心配いらねぇよ。お前がこの街に来たことを伝えるだけだ。それに青鈍たちと違って、うるさくないしな」
翌日、琥珀は七両に連れられて区画長の元へ向かった。
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