No Face

啄木鳥

No Face

ピンポーン…。


『はーい』


「すいませーんをさっきこのアパートの下で生徒手帳を拾いましてぇ」


『………。あぁ、ありがとう。あなたは確か…』


「やだなぁ、何度か大学ですれ違ってますよ。」


『そう…だったよね、まって。今開けるから』


ガチャリ。

鍵の開く音がした。

ドアノブが下がる。

少女が顔をだす。


「わざわざありがとうね。…せっかくだから、あがってく?」


「え、いいの?じゃあ遠慮なく、おじゃましまぁーす」


「お湯を沸かしたところなの。コーヒーのめる?」


「わざわざありがとう。のめるよ。ここに手帳おいとくから」


「うん…」


お湯が、注がれる。

立ち込める湯気がコーヒーの薫りを鼻腔に運ぶ。


「ところで…"顔無し"の話題、知ってる?」


「…!えぇ…あたし、その手の都市伝説が割と好きでね。」


「みんな好きだよねぇ、この話題。殺した人に成りすまして、何食わぬ顔で生活しては次の標的をって殺人鬼でしょ?しかも相手は女ばっかりって言うしさ。」


「……。」


「……。」


「…はい、コーヒー」


「ありがとう、いただきまーす」


「……。」


「……。」


沈黙。


-

--

---


「うん、不味いね。」


「な…え?」


「ん?そんなに不思議?やだなぁ、対策済み、ってことだよ。こんなちゃちな睡眠薬なんかさ」


「……そんな」


「私がここに来た理由、分かってんでしょ?」


「そんな…いつから気づいていたっていうの…」


「そんなの、普段の行動でバレバレ。」


「そんな…これじゃ私の計画が」


「…予定が狂ったって顔だね?うん、最高。」


「……嫌、いやあ!!死にたくない!」


「はぁ…あなただって、よく知ってるでしょ?あなたは死ぬけど、誰も気づかないから、安心してね。それにすぐ終わるよ、私慣れてるから」


「……………………。」


「……………………♪」


再びの、沈黙。

コーヒーの薫りはもうしない。

むせかえる、人の匂いだけ。

-

--

---


「やれやれ、私の真似して殺しなんてやってたみたいだけど阿呆らしいわ。あげく私本人に成り代わるために殺しの計画たてるなんてさぁ」


少女がぶつぶつと何やら呟きながら夕食を食べている。

レタスの上に綺麗に並べられた10本の指や、薄くスライスされた眼球、乳房をサイコロ状にカットして焼いたステーキ。

それらを頬張りながら、少女はなおも文句をたれている。


食事が終わると、グラスに注がれた赤黒い液体をのみほして"顔無し"は言った。


「ごちそうさま。黒法師 翼ちゃん。今日から私が翼ちゃんよ。ふふふっ。そしてさようなら日出 空穂ちゃん。」

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No Face 啄木鳥 @Gun__Romance

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