喚びたいのはアンタじゃないっ!
琴猫
第1話 天竜召喚!
「クトゥオア……シェラ……ズエレ……〈結合〉……ゼラス……ヴァイ……〈新約〉…ズーアニアカ……セレルス………」
窓を閉め切った薄暗い一室。
部屋中に散らばった書物や薬品の入った瓶を隅に押しのけ強引に作った空間に、複雑な紋様の円陣が刻まれていた。
その端で、召喚士見習いを意味する無地の黒いローブを纏い、フードを目深く被った赤髪の少女が、魔導杖を高々と掲げ、静かに詠唱している。言葉の一つ一つが魔力を帯び、円陣……俗に〝召喚陣〟と呼ばれるそれに刻まれた紋様・文字の一つ一つに染み渡り、召喚陣は輝きを増す。
光の高まりにつれて、少女の詠唱の声音も高まっていく。そしてさらに注がれる魔力が増しさらに召喚陣は力を強めるのだ。
「ディエカ! シャラ、ズオ……〈解釈〉……デレール……イルシヴィカッ!! ヴァレル! ラ、クラロール………我は求む、真実の牙を! 世界の力を! 魂を呼び覚ます栄誉をッ! 我が喚び声に応え、枷を解き放ち我が前に来たれ………〝天竜〟ッ!!」
その瞬間、召喚陣から光が爆ぜ、その閉ざされた空間の何もかもを飲み込んだ。
少女の視界はしばし閃光に閉ざされる。
「やった! 今度こそ………」
伝説の〝天竜〟を召喚できた!
召喚陣は今までで一番完璧。時間も、最も召喚術が成功しやすいと言われる午後8刻時。詠唱も全て暗唱し、途切れたりどもったりすることも無かった。魔力も十分。特に今回の詠唱は、召喚学の権威バーサルード教授の新理論に基づく新約言語を含めてみたのだ。これで詠唱は今まで以上に格段に安定し、ここではないどこかの異世界の狭間で眠りについているだろう〝天竜〟を呼び覚まし、目の前に………
目の前に……………
目の……………
「よっす。天竜竜人でーす。お疲れさん」
この召喚術式で失敗した時に必ず現れる〝アイツ〟がにこやかな表情で目の前に現れ、少女……召喚士見習いのアリゼ・ヴァンシエラは思わず目の前が真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます