ゲーテスの街5
子供のフリが出来るどころか、子供そのもので超強い子を連れてきている……などとは言えない。
「あー……心当たりがあるといえばある、けど」
「あら、言ってみるものね。で、どのくらいの実力なの?」
ダリアに聞かれて、カナメとエルは顔を見合わせる。
ルウネがどのくらい強いかと聞かれても、正確には知らない。
相当強いのは知っているが、子供を誘拐するような連中相手の囮に使っても大丈夫などと言う程薄情ではない。
「あー……強い、とは思うけど。でもまずは本人に聞いてみないと」
「それもそうね。じゃあまずは貴方達の……」
ダリアがそこまで言いかけた時、宿のドアがコンコンと叩かれる。
満室と書いてあるし、この街には宿が幾らでもある。
それでもわざわざやってくるというのはどういうことか。
ダリアが何かを指示する前にダインが立ち上がり、ドアを開ける。
「悪いな。此処は貸し切り……だぜ?」
ドアを開けたダインが見たものは、小さな少女。
仕立ては良いものの地味めの服。
太く緩く編んだ紫の髪と、同色の眠そうな瞳。
何処からどう見ても町娘なその少女に、ダインは強面の顔を困惑の色に染める。
「……オズマ様が此方にいらしていると、伺っているです」
「あ? そんな奴ぁ……って、ありゃ?」
今目の前にいたはずの少女を見失い、ダインは周囲を見回して。
「迎えに来たです」
「うおっ!?」
自分をすり抜けて宿の中に入ってしまっている少女に気付きダインは驚愕する。
一体、いつの間に。
体全部を使って入口は塞いでいたはずなのに。
混乱するダインに、椅子に座ったままのダリアが呆れたように溜息をつく。
「この子、貴方が馬鹿みたいに周囲を探してる隙に入ってきてたわよ。でもまあ、貴方を騙すんだから相当に優秀ね」
「たいしたこと、してないです」
「そう言えるのが優秀なのよ。成果を誇る奴ほど、実はたいした事をしてないわ」
ダリアの言葉に、カナメは頬を掻く。
そういえばダリアは王国に来た時に「成果を誇って」交渉に来てたんだよなあ……と。そんな余計な事を思い出していたのだが、まあアレは外交の話なので別なのだろうか。
「ちょっと、何か妙な事考えてたでしょ」
「いや、何も……」
「つーかカナメ。帝国の特務騎士なんかとどういう経緯で知り合ったんだよ」
「……どういう状況です?」
「え? あー……」
ダリアに睨まれたカナメはエルとルウネからほぼ同時に質問を投げかけられ、悩んだ後にルウネに向き直る。
「簡単に言うと、王国で起きた騒動の時に知り合ったダリア……帝国の特務騎士なんだけど、そのせいで俺がカナメだってバレた。で、彼女もあの騒動を追ってて、作戦に協力要請されてる」
「……なるほど、です。そこの特務騎士が潜入するですか?」
「そうしたかったんだけど、身分設定を間違えたわね。だからもうちょっと「いなくなっても問題の無い」行商人一行に使える人材がいないか聞いてた……んだけど」
そこでダリアは何かを言いたげにクスッと笑って。ルウネはそれにいつも通りの表情のまま「大体理解したです」と呟く。
「つまり、そこの特務騎士と私が潜入できれば問題ない、ですね?」
「いや、だから私は」
「大丈夫です。行商人の小間使いが何人かなんて誰も覚えやしないです。重要なのは攫いやすいか、と。攫っても問題無さそうか、です」
行商人であれば、どうとでも処理できる。
適当に追い返してもいいし、「処理」してしまってもいい。どういう風にでも偽装できる。
「……確かに私が潜り込めれば理想的よ。でも、出来るの?」
「私はメイドナイトです。その手の技能は誰より上です。とりあえずこの付け毛外すです」
「うわっ、ちょ……っと!?」
「すでに知られている印象を消すには、男っぽく……丁度髪短いです」
ダリアの化粧を落として何か弄り始めていたルウネは、思い出したように呆然と立っているダインへと振り向く。
「そこの大きい人、予備の服出すです」
「そ、そんなもんどうすんだ? ダリア隊長には大きすぎると思うが」
「小間使いっぽい服作るです。針も糸もハサミもあるです。さっさと持ってくるです」
「お、おう……なんかすげえな」
言いながら上の階へと上がっていくダインをそのままに、ルウネは今度はカナメ達へと振り向く。
「……今のうちにエルさんは、お爺ちゃんにこの話を伝えてくるです」
「え、俺か?」
「もう戻ってきてるですから。あと「先に領主の城に乗り込むのはダメ」と言ってたとも伝えるです」
「お、おう」
答えて宿の外に出ていくエルに視線を向け、ダリアは「領主の城に乗り込むって……どんな奴連れてきたのよ」と呟く。
「どうせバレるですから言うと、
「ブレ……って、まさか
「あ、やっぱり有名なのか?」
「有名どころじゃ……ああもう、なんて危険人物連れ込んでるのよ! 数十年前に帝城を帝都と大地ごと真っ二つにした伝説級の奴よ!? まさかカナメ、アンタこの街を滅ぼそうとしてるんじゃないでしょうね……流石にそれは看過できないわよ」
「いや、大丈夫だよたぶん。今は結構落ち着いてる人だし……」
言いながら説得力がないなあ……などとカナメは思う。
しかし、そう言うしかない。
まあ最悪、
確実とは言えないのがどうにも恐ろしい。
「おう、お嬢ちゃん。これでいいか?」
「ちょっと臭いです。でも私が着るんじゃないから、いいです」
「気にしなさいよ!」
「く、臭くねえ!」
何やら騒ぎ出す場をそのままに、カナメは遠い目をしていた。
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