ラファエラの冒険3
……そして、かなりの時間がたった後。隠れ里には無数の墓らしきものが出来上がっていた。
まあ、墓といっても盛り土をしただけの簡素なものだが、朽ちるに任せるよりはマシだろう。
肝心の「墓の中」に関しても、パッと見で分かる程度には仕分けをしてある。
バラバラの粉々にし過ぎたので混ざっているかもしれないが、その辺りは仲良くやってくれればいいとラファエラは適当な事を考えながらスコップを地面に突き刺す。
ここにあった戦人の隠れ里は滅び、現代において魔人よりも数が少ないと言われる彼等の数が、また減った。
それは「いつかの戦い」とやらを考えれば非常に大きな損失と言える、のだろうか。
「どうでもいいけどね。蘇らせるつもりなんて、微塵もないんだ」
そんな事を呟き、ラファエラは周囲の建物を見回す。
この場所は、確かに良い隠れ里として機能していた。
……だが、今となっては守り人はなく、盗賊の類が見つければ絶好の隠れ家と化すだろう。
といっても、こんなところに来る根性のある盗賊がいるとは思えないのだが……騎士団に追われれば、一縷の望みをかけてやってくるかもしれない。
「んー……まあ、私が気にする事でもないんだが。うーん……まあ、一応ヤバそうなものだけ回収か破壊しとく、か?」
万が一盗賊連中が太古の
となると、壊してしまうのが一番早い。
ラファエラは早速手近な家に入って棚やら床やらを探るが……調理用の包丁や狩の道具といったもの以外は何も見つからない。
まあ、戦人の性格で
アレがイルムルイの意向で動いていたのなら、
ラファエラは目的の家へと近づき、開けっ放しになっていたドアから中へと入る。
すると、その中は意外に綺麗で……生意気にも生活の真似事をしていたのが理解できる。
家の中にはラファエラの考えた通り、大小様々な武器が積まれているのが見えた。
「察するに里長の家かな。どれどれ……」
壁に立てかけてあった剣を鞘から抜くと、鋼色の輝きが現れる。
幅広の刃は特に変わったところはないが、僅かな魔力が感じられる。
柄の宝石は魔法石のようで、どうやら魔力を流すことで何らかの効果が得られる「魔法の品」のように見受けられた。
「……無価値とは言わないけど、普通だな。つーかどう見ても現代の品だ。本当に隠れ住む気あったのか?」
ラファエラは剣を鞘に納めると無造作に放り投げ、続けて短剣もチラッとだけ見て放り捨てる。
積んであるものを確認するべく、どっかりと座り込んで。
幾つかの武器や道具を投げ捨て……やがてラファエラは大きな溜息をつく。
「……もう全部吹っ飛ばそうかな。確認するだけ色々無駄な気もしてきた」
どの武器も防具も現代で普通に手に入るものばかりで、「それなりのもの」しかない。
それも
これを全部売ればそれなりの財産にはなるだろうが、逆に言えばその程度。
「おっかしいなあ。絶対に何か「ヤバい」ものがあると思ったんだけどな。私の勘も鈍……」
言いかけて、ラファエラはフェドリスの事を思い出す。
そういえば、あのフェドリスの着ていたものは。
「そうだ。アレは確かに鎧だった。こいつらは、自分達の外骨格を鎧に加工してやがった……ということは、その工房か保管場所が何処かにあったはずだ」
探さなければ、と考えて。しかし、それが此処にない理由にもラファエラは思い当たる。
フェドリス……というよりも、フェドリスに憑りついていたイルムルイの影は当然それに気づいていたはずだ。
だというのに、この場にそれが無いという事は……戦人達の最後の抵抗で、破壊された可能性が高い。
「……まあ、確認はしなきゃだけど。そうなると残されたのは此処にあるものだけか」
破壊しようと思っていたが、戦人達がイルムルイに一泡吹かせたのかもしれないと考えると、ラファエラにも慈悲の心のようなものが湧いてくる。
そういえば墓に宝物を埋める風習があったな、そんな感じで墓の近くにでも埋めておこうか……などと考えて、量が多すぎて面倒だな……という身も蓋も無い事を呟いてラファエラは残りの未確認分の山を蹴る。
すると、そこからゴロリという音を立てて大きな水晶玉のようなものが転がり出る。
それはやはり魔力を感じる魔法の品らしきもので……しかし、かなり大きい。
ラファエラの頭よりも大きいその水晶玉をラファエラは真顔で見つめていたが……やがて、それを静かに抱え上げる。
他の魔法の品と比較して特徴的なものがあるわけでもないし、持ち運びにも不便そうだ。
……だが、ラファエラはそれを見て抑えきれなくなったように笑いだす。
「は、はは……はははっ! アハハハハ! なんだよ、あるじゃないか! とびっきりヤバいものがさあ!」
水晶玉を抱きしめたままラファエラは笑い……やがて、笑い疲れて「はあー……」と息を吐く。
「でも、これは壊せないし埋めとくわけにもいかないな。そうだな……しばらく私が預かっておこう」
そう言うと、ラファエラは水晶玉を自分の荷物袋へと突っ込む。
ヤバいという割には扱いが無造作だが、それでも構わないようだった。
「さてっと。残りを埋めたら帰るとしようか。どうせカナメ達は足止めされてるはずだし……間に合うだろ」
そう言って、ラファエラは魔法の品を埋める作業へと入る。
この後、戦人の隠れ里の入口であった洞窟はラファエラによって破壊され……歴史から、その姿を永遠に消す事となった。
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