ラファエラの冒険
山の中を、ラファエラは行く。
山といっても色々だが、人が入り込まないような山というと限られてくる。
例えば山中に普人の集落が出来るような山は論外だ。
そういう場所は大抵過ごし易く、商人も立ち寄り道が出来るようになる。
そんな場所に戦人が集落を作るはずもない。
故に狙うは人が通ろうと思わないような獣道や崖道の連続するような山であり……それでいて、呪いの逆槍を中心にして「それなりに近い場所にある」山となる。
勿論、フェドリスの語った話が全部嘘であれば探しても無駄だが……それはそれで、そういう報告が出来る。
故にラファエラは本気で地図を吟味し、旅商人を捕まえては金貨を掴ませて情報を得た。
その結果が、今登っている山なのだが……。
「あー、マジできっつ。なんでこんな事してるんだっけ」
思わず、そんな愚痴すら漏れてくる。
元よりラファエラの身体は肉体労働には向いていない。
カナメを参考に会得した
万が一失敗して落ちれば、流石に死ぬかもしれない。
そんなリスクを今許容するわけにもいかず、となると地道にいくしかない。
「気軽に提案するんじゃなかったなあ。一緒に行こうぜ、とかそういうアレにするべきだった」
それなら多少は面白かっただろうか。そんな事をブツブツとラファエラは呟くが、それで状況が好転するはずもない。
だが、希望はある。
この道なき道に見える行程だが……僅かに、人の通った跡があるのだ。
それを希望にラファエラは登り続け……そして、ようやく中腹へと辿り着く。
其処は木々に囲まれた「多少はマシ」な場所だが……。
「ん?」
その木々の奥。見えにくいが、其処に何かがあるのを見てラファエラは近寄る。
すると、そこにあったのはぽっかりと空いた穴で……どうやら洞窟か何かであるだろうことが伺えた。
そんなものは自然に出来る事も珍しくはないが、ラファエラはその洞窟の入口を調べながら笑みを浮かべる。
目立たないように、ではあるが……左端の下のほうに、カブトムシの角を思わせる絵が彫られているのを見つけたのだ。
「……知ってるぞ。これは蟲神アトラスを表す紋章だ。戦人が好んで使うヤツだ」
こんなものが彫られているということは、どうやらこの洞窟が入口ということで間違いない。
ラファエラは疲れた体に気合いを入れて、洞窟の中へと入る。
どうやら洞窟は山を掘って作ったものであったようで、短い通路を抜けると開けた場所へと出る。
偶然出来たのか、それとも戦人が掘ったのか。
四方を崖に囲まれたその場所は、山の外からは決して見えない隠れ里として長らくあったのだろうことが推測出来た。
……そう、そこに確かに戦人の隠れ里はあったのだ。
「やれやれ。徹底してやがる」
そこにあったのは、虐殺の跡。
すでに血の跡も乾き、転がる外骨格達。まだ崩れてこそ居ないが、人が住まなくなった事で傷みが見える建物の数々。
恐らくは邪魔されないようにイルムルイの影が乗っ取ったフェドリスが殺したのだろう。
……まあ、フェドリスが一人でそれを成したとは思えないので、他にも何かが居たのだろうが。
「一応これで仕事は完了だけど……うーん。ついでの好感度稼ぎだ。死体の埋葬でもやっとくかね」
そういうのを人間が好むのは知っているし、カナメもそういう大多数の感覚を持っていると考えて間違いない。
むしろ、感受性が高い分好感度稼ぎにはいいかもしれない。
そこまで考えると、ラファエラはパチンと指を鳴らす。
「よし、やる気出た。スコップは……まあ、その辺にあるかな?」
言いながらラファエラは隠れ里の中へと踏み出す。
寂しげな風の音だけが聞こえる隠れ里に転がる死体達は、ラファエラにとっては単なる残骸に過ぎないが……カナメが見れば、悲しそうな顔をするだろうか。
「しかしまあ、結構綺麗に死んでるもんだ。墓は作りやすいけど」
近くの家に顔を突っ込み中を覗くと、椅子が倒れたりテーブルが割れたりとグチャグチャではあるが……スコップはなさそうで。だが、そこでラファエラはピタリとその動きを止める。
「待てよ……綺麗に死んでる? あのフェドリスの戦闘スタイルでか?」
ラファエラの記憶に残る限り、フェドリスの戦いは戦人の恵まれた体を活かした肉弾戦だ。
そんなもので殺されたら「綺麗」になど死ねるはずがない。
文字通りに潰れた虫のような死体になるか、バラバラになっていてもおかしくない。
……だとすると。
「ヤバいっ!」
考える前に、振り返る。
そこには、ガタガタと音を鳴らしながら立ち上がる、無数の外骨格達の姿。
明らかに生きてはいないソレの示す答えは、ただ1つだ。
「なるほどなあ……
「……戦人の生き残りでも来たのかと思えば、魔人とは。意外な客人ですな」
「あー、そうだよなあ。いるよなあ、上位種。めんどっくせえなあ」
ラファエラが覗いたのとは別の家から出てくる老人の姿が、そこにはあった。
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