影響は大きい3
そのままエリーゼに引っ張られる形で、カナメは町に出てきていた。
未だお祭り騒ぎが続いている……というよりは13階層到達という新記録樹立、そして新しいドラゴンの発見という新事実により「自分もやってやる」という対抗心を燃やした冒険者達が頑張っているのと……今後さらに冒険者が集まってくることを見越した商人や職人達がこの機を逃すなとばかりに様々な事をしているからである。
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい! 新発見に必要なものは心の余裕! 甘くて美味しい煮豆あるよ! 今なら新発見記念の「ドラゴン盛」が大特価だ!」
「どうだい、この剣の輝き! ドラゴンスレイヤーの伝説に映えるのは、やっぱり剣! 魔力伝導率の高い
「銀貨13枚! ここに並んだ商品、13階到達記念で全部銀貨13枚均一! さあ、寄っといで! 今だけの価格だよ!」
何やら色々と叫んでいるのが聞こえるが……やはりドラゴンがどうのこうの、というのが多いように見受けられた。
「やっぱりドラゴンって人気なんだなあ」
「そうですわね。ドラゴンを倒すのが冒険者の一つの目標といってもいいですもの。といっても、そうなれる人は少ないのですけれど」
ドラゴンスレイヤーを自称する人間の中には、
「ふーん。
「そういうことですわね」
そんな事を言いながら二人は歩くが……カナメはなんとなく、不安のようなものを感じてしまう。
クラークに影響されたわけではないが、一緒に出掛ける約束をしてから結構たっている。
それが、こんなブラブラと散歩をするような出かけ方で本当にいいのだろうか?
何かこう、エリーゼに喜んでもらえるような事をするべきではないのだろうか。
そんなことを考えて、カナメは近くの露店に何やらキラキラ光るアクセサリーのようなものが売っているのを発見する。
「エリーゼ、あそこの店覗いてみないか?」
「はい、カナメ様」
笑顔で答えるエリーゼにカナメも笑みを返し露店に近づいていくと、店の主人らしき背の低い男がそれに気づき顔をあげる。
箱か何かに布をかけた即席の机の上に並べられたアクセサリーは……やはりというかなんというか、ドラゴンの顔を模したような銀色のアクセサリーが多い。
しかも目の部分にキラキラ光る石を使っていて、控え目に見ても女の子に贈るものではなさそうだ。
失敗したかな……と口をヒクつかせるカナメとは逆に、エリーゼはそのアクセサリーを興味深そうにじっと見ている。
「……驚きましたわ。これ全部、魔法の品ですわよね?」
「お、分かるか嬢ちゃん」
「これでも魔法士ですのよ? そういうものには敏感ですわ」
言われてみてカナメもアクセサリーを見てみると……なるほど、確かに微弱な魔力が感じられる。
何の魔法がかかっているのかは分からないが、確かに魔法の品であるようだ。
「もう少し万人受けするデザインにすれば、もっと売れるんじゃありませんの?」
「ヘッ、俺はドラゴンの魅力を伝えたくて細工師やってんだ。万人受けなんざくそくらえだね」
「ドラゴンの魅力って……会った事が?」
カナメがそう聞くと、細工師の男は「おう」と力強く頷いてみせる。
「誰も信じなかったけどな。もっと若い頃だったな……俺はダンジョンで、銀と宝石で出来たような身体を持つドラゴンに会ったんだ。俺以外の仲間は皆死んで、俺だけが逃げ帰った……でもそれ以降、そんなものに会ったって奴は出なくてな。散々ほら吹き扱いされたもんさ」
その話を聞いて、カナメとエリーゼは顔を見合わせる。
それは間違いなく、パラケルムと同じようなドラゴンだろう。
「それって……何処のダンジョンの話ですの?」
「おう。連合の西のほうにある……あー、輝きの園っていうダンジョンだよ。まあ、今は行くのは難しいだろうけどな。なにしろ内乱の真っ最中だ」
なるほど、それでは確かにダンジョン探索どころではないだろう。
外部からの訪問者に対しては、特に敏感になる時期だ。
「ま、そんなわけでな。どうだ、一つ買っていかんか? たいした効果じゃないが、硬化の魔法をかけてある。魔法石を仕込んであるから、魔力を注げば多少強化できるぜ?」
「あら、それなら最初からやっておけば高く売れるのではなくて?」
「あ? そりゃあ、ほれ。こういうの買うのは冒険者だろ?」
店主の男は言いながら、カナメとエリーゼを順に見る。
「自分の魔力を注ぎ込んだお守りを大切な相手に、ってな」
「あら」
そういう関係に見られている事が嬉しくてエリーゼは思わず上機嫌になって、思わずカナメの袖を掴む。
「じゃあカナメ様。私から」
「あ、いや。俺からエリーゼに贈るよ。えーと、女の子向けのってありますかね?」
「そうだなあ。サークレットとかあるけどよ」
サークレットどころかヘルムな頭飾りを出してきた店主から視線を逸らし、カナメは一つのペンダントに目をつける。
それはドラゴンイメージなのは他と変わらないのだが、銀のサークルの中にドラゴンの全身のようなものを意匠した、他と比べれば少し控え目で上品なデザインのものだった。
目の部分に使われている小さな青い魔法石も、エリーゼのイメージに合っているだろうか。
そんな事を考えて、カナメはそのペンダントを指差す。
「あ、これください」
「なんだよ。このサークレットおすすめだぜ?」
「そんなゴツいのはちょっと……」
「ちぇっ、まあいいや。銀貨20枚だ」
言われるままにカナメが銀貨を20枚払うと、店主はペンダントを摘み上げてカナメの手の中に落とす。
「魔力の込め方は分かるよな?」
「えっと、まあ」
手の中のペンダントに魔力を流し込むイメージで力を込めると、カナメの中からペンダントに魔力が流し込まれ……一瞬でペンダントがキイン、と鳴って震える。
「おっと」
「ハハハ、勢いつけ過ぎだな。でもまあ、それで満タンだぜ」
先程よりも輝きが強くなったように見える魔法石を見て店主は笑う。
元々おまけ程度の魔法石だから上限は低いのだが、まあ無いよりはマシ程度のものだ。
そんなものでも魔力の少ない一般人であれば魔力充填に時間がかかったりするのだが……。
「じゃあ、エリーゼにコレあげるよ」
「はい! 一生大切にいたしますわ!」
「ははは、それは大袈裟だよ」
「大袈裟なんかじゃありませんわ!」
嬉しそうにペンダントを抱きしめていたエリーゼは……やがて、ハッとしたように顔をあげる。
どうせなら、つけてほしいと言えば良かったと。そんな事に気付いたのだが……今さら言い辛い。
「兄ちゃん、どうせなら着けてあげたらどうだい」
「え? あ、そっか。気が利かなくてごめん」
「い、いいえ! いいえ!」
ぱっと顔を明るくするエリーゼの首に、カナメはペンダントをかけて。しかし、少し困ったように笑う。
「なんていうか、今更だけど……もっと色々気が利いたりセンスがあったりすればいいのになあって思うよ」
考えてみれば、その辺りの露店で贈り物を買うというのもどうなのか。
今更そんな事をカナメは考えてしまうが……エリーゼは、クスクスと笑う。
「そういう殿方には飽いてますわ。機嫌をとることしか知らないつまらない方よりも、カナメ様のほうがずっと素敵ですわよ?」
無神経でも困りますけど、と。そう言って笑うエリーゼにカナメは「努力するよ」と……そう言って、笑い返した。
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