迷路のオウカとレヴェル
イリスとルウネが進むその場所から、少し離れた場所。
しかし、二人の戦闘音どころか歩く音すらも決して届かない場所。
そこでは今、少しばかり不思議な光景が展開されていた。
「……ちょっと、いい加減下ろしてくれないかしら」
「だ、だって! 下ろしたらまた私を置いていこうとするでしょ!?」
そう、そこにはレヴェルを抱え上げて歩くオウカの姿があった。
オウカとレヴェルを並べればオウカのほうが身長が高いとはいえ、抱えて長時間歩くには結構な疲労があるはずだが……オウカの腕はがっちりとレヴェルを捕まえたままだ。
「別に置いていこうとしてるわけじゃなくて、貴女が遅いのよ」
「それを置いてくっていうんでしょ! ひどいじゃない、ひどいじゃない!」
「置いてくつもりなら走ってるわよ。ていうか、これじゃ戦えないじゃないの」
「魔法使えばいいじゃない!」
レヴェルは半目になると、オウカに無言で肘を突き入れて腕から逃れる。
「……まったくもう。情緒不安定にも程があるでしょう。しっかりなさい」
「う、うぐう……だって、私の
「その腰の短杖は飾りなの?」
レヴェルがオウカの腰の後ろについている短杖を指差すと、オウカは小さく呻く。
「わ、私、
「それでもいいから構えてなさい。苦手なりに使えるんでしょう?」
「う、ま……まあ」
「私は別に貴女の保護者になるつもりはないのよ。フォローくらいはしてあげるから、生き残る気概を見せなさい」
レヴェルに睨まれて、オウカは短杖を取り出すが……震えるその手に、レヴェルは再度の溜息をつく。
「……はあ。たかが
「
「そう。歪んでるわね」
立ち止まるオウカを全く気にしないままにレヴェルはスタスタと歩いて。その後をオウカが必死で追いかける。
「あー、ほら! 置いていこうとしてる!」
「してないわよ」
「絶対してるわ! なんなの、私の事嫌いなの!? 神様なんでしょ!?」
「神が博愛主義者だなんて誰が言ったのよ。私は言ってないわよ。あとウザいわ」
「ひどい!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐオウカの言葉を聞き流しながら、レヴェルは歩く。
それなりの距離を歩いたはずだが、ここまでモンスターの類は一体も出てきてはいない。
他の仲間達の誰かと出会えるかとも思ったが、それもない。
グルグルと右へ左へと曲がっているせいで分からないが、現在地は元の場所から比べてどの程度離れているのか?
そもそも、このまま進む事が正解なのかどうか。
「どうしたの?」
「ちょっと、ね」
足を止めたレヴェルにオウカは疑問符を浮かべるが、それを気にしないままにレヴェルは考える。
もし、自分がイルムルイならどうするか。
わざわざ分断して、その後どうするのか。
イルムルイの目的は、エリーゼ。ならエリーゼを狙ってイルムルイは動くはず。
つまり、それを前提に……。
「……まって。おかしいわ」
「え? 何が?」
「イルムルイが、エリーゼの身体を狙う? あれだけの舞台を整えて?」
エリーゼは、確かに普人にしては魔力が高い。魔法に関しても、才能も努力も感じさせる。
魔法の開発力も大したものだ。
……だが、そんな後天的な能力は関係ない。
イルムルイが身体を乗っ取るというのであれば、関係するのは「現在の肉体の能力」だけだ。
具体的に言うと筋力、体力、魔力といった単純なスペックのみ。
その点で見た場合、エリーゼの身体は魔法に関するもの以外では低めと言わざるを得ない。
そんなもの、と言ってしまうとエリーゼに失礼ではあるのだが……「そんなもの」でイルムルイが満足するのだろうか?
思い返す。レヴェルは不完全な記憶の中から、イルムルイの事を思い出す。
正気と狂気の二面神イルムルイ。
彼は、一体どんな神だったか?
「……あの男の台詞と行動を、信じてはいけない」
「え?」
「エリーゼを狙っているのは本当かもしれないし嘘かもしれない。きっと考えるだけ無駄。狙われているかもしれないという前提で考えたとして……他に狙うとしたら誰?」
イリスはどうか。
身体能力に関しては文句のつけようがない。
しかし魔力に関してはエリーゼのほうが高い。
カナメは除外していい。
スペック的な話はともかくカナメの能力を考えれば、イルムルイは出来るだけ近寄りたくないはずだ。
アリサはどうか。
ハンデを背負ってこそいるが、あの中では一番秘めた能力が高い。
もっとも、そのハンデがかなり大きいという弱点はあるが……。
ラファエラはどうか。
恐らく魔人であろう彼女もまた、狙われる可能性は高いように思える。
「……」
振り返って、オウカを見る。
魔力はそれなり。身体能力は重たい鎧を背負っていたせいか、それなりに力と持久力はある。
だが、飛びぬけているというわけでもない。
「ないわね」
「え、何がよ!?」
「やっぱりラファエラ、かしらね。抜け目なさそうだったから大丈夫だとは思うけど」
「ちょっと、何の話? 教えてよ!」
絡むオウカをスルーしながら、レヴェルは歩く。
心配ではあるが、合流出来ない以上どうしようもない。
打開策を考えながら、しかし今は迷路を進むしかないのだ。
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