イルムルイ
「……確かに、この身体は私本来のものではありません。で、それが何か?」
すぐに仮面を付け直したイルムルイに、レヴェルが吠える。
「何かじゃないわよ! 貴方……その
「どうせ放置しても人に仇なす生き物です。何処に問題が?」
「……そう、確かにそれは問題じゃないね」
イルムルイの言葉を、アリサが肯定する。
「問題なのは、その先。あんた、エリーゼを乗っ取る気でしょ?」
「なっ……」
驚きのあまりカナメの袖を掴むエリーゼをチラリと見ながら、アリサは腰の剣に手をかける。
「試練だなんだっていうのは、単なるそれっぽい理由付け。実際には此処まで来ても死なないタフな奴がよくて、尚且つ強い魔力を持つ魔法士であれば良し。自分に相応しい身体が欲しかったんでしょ?」
イルムルイは、答えない。だがアリサは構わず言葉を続ける。
「もっと言えば、このダンジョンは遊びの要素が強すぎる。難易度が高いのは確かなんだけど、どちらかというとギミック的な問題に終始するかな」
「……何が言いたいのですか?」
「此処があんたの実験場なんじゃないかってこと。たぶんだけど……
そう、それは。
「……中身が神に入れ替わる事で、高い魔力と……その恩恵による肉体強化も強くなる、ということですか……」
「あるいは、本当に「強くする」くらいは出来るのかもしれないけどね」
言いながら、アリサは剣を引き抜く。
すでにアリサの中では、あのイルムルイとかいう神は敵だ。
「至上の栄誉っつーのも、つまりはそういうことでしょ? お前は神になる……ってね」
「そんなのごめんですわよ……!」
「そうですね。いかに神といえど、許される所業ではありません」
エリーゼも、イリスも武器を構え、イルムルイに相対する。
そんな中でレヴェルもイルムルイを冷たい目で睨み付け、大鎌を向ける。
「イルムルイ、貴方は変わらないわね。他人を利用することをなんとも思ってない……貴方が死んだと聞いた時には安心してたのよ?」
「おやおや、それは手厳しい。どう思われますか、レクスオール?」
「……俺も、お前は信用できない」
弓を向けるカナメに、イルムルイは肩をすくめてみせる。
その表情までは仮面で分からないが……困ったものだ、とでも言いたげだ。
「なるほど。戦わねば分かり合えぬと? 悲しいものです。さて、どうしたものでしょうか?」
そんな問題じゃないと叫びたいのを、カナメはグッと堪える。
見え透いた挑発。そんなものに一々のっているわけにはいかない。
イルムルイが目の前の
……ならば、目を離すわけにはいかない。隙を作らぬよう、エリーゼを守れるようにカナメはしっかりとイルムルイを見据えて。
「よし、こうしましょう」
そう言ってイルムルイがパチンと指を鳴らすと同時に、床が大きく揺れる。
「うわ……っ!?」
「カナメ様!」
まず、地面から隆起した「壁」にカナメの身体が激突し大きく弾かれる。
慌ててエリーゼの下に戻ろうとするカナメだが、壁は天井まで到達し塞がれてしまう。
次から次へと響く衝突音に、各所で同じ事が起こっているのだとカナメは理解し……焦ったように周囲を見回す。
「分断された……! エリーゼ、聞こえるか!? エリーゼ!」
叫ぶカナメの声に、反応はない。
どういう理屈なのかは分からないが、壁の向こうにいるであろうエリーゼに声は届かないし、カナメの声も届かない。
絶対に壊れないと言われるダンジョンの壁を全力で壊せるか試すのは、少しばかり分が悪い。
ここで全力を使い切っても、イルムルイをどうにか出来なければ意味がないのだ。
……となると、やるべきことは限られる。
そう、イルムルイの狙いはエリーゼ。ならば、すぐにでもエリーゼと合流しないといけない。
カナメは左右の道のうち、迷わず左へと駆け出す。
どちらが正解かなど分かるはずもない。
だが、とにかく動かなくては始まらない。
迷うよりも、走った方が……と。そこまで考えて、カナメは「その手段」を思い出し停止する。
身体を低く。イメージは、アリサ。飛ぶではなく、跳ぶ。
低く、長く。一歩をとてつもなく長くするイメージ。
「
そして、カナメは地面を蹴る。「絶対に壊れない」と言われるダンジョンの壁を次から次へと蹴り、
目の前に出現した巨大なジェリーを
放っておいてもよかったが、万が一エリーゼが出会ったら。そんな焦りがカナメから「無視する」という選択肢を消す。
「絶対に……見つける!」
叫び、カナメは跳ぶ。
壁と通路の先にいるであろう、エリーゼを目指して。
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