呪いの逆槍12階層

 飛び込んだ先の12階層。

 そこに広がるのは……広い空間。

 ゴツゴツとした岩肌の地面と、同じ壁面。そして天井。

 そんな中に、一つの巨大な山がある。

 広大な12階層の中にあるのはその山一つ。わざわざ登らなくとも回避できそうな分、他のどの階層よりも楽に思える。

 ……まあ、それがただの山であれば……の話だが。


「……巨大岩蜥蜴ロックリザード? いえ、それにしては……」


 イリスはそう呟きながら、慎重にソレを眺める。

 岩のようにゴツゴツとした表面。

 地を這う蜥蜴を巨大にしたような姿。

 かつて下級デルムドラゴンに分類されていたこともある巨大岩蜥蜴ロックリザードに似ているが、違う。

 まず、大きさが違う。

 巨大岩蜥蜴ロックリザードは過去に確認された最大の個体でも二階建の建物程度の大きさ。

 通常の個体であれば精々が大人三人分程度。

 だが、目の前のコレは山と呼んでも差し支えない程だ。

 そして何より、体格自体が違う。その身体を持て余し動きの鈍い巨大岩蜥蜴ロックリザードとは違う凄まじい筋肉が、その身体にはある。

 

 ならばこれは、何なのか。

 巨大岩蜥蜴ロックリザードの上位種なのか、それとも別の何かなのか。

 それとも、まさか。


「……まさか、ドラゴン……」

「いかにも」


 イリスの呟きに答えるように、目の前の岩山が目を見開いた。


「まさか本当にこの階層に辿り着く者がいるとは思わなかった。それが幸運とは思わんが、ひとまずその実力を称えよう」

「しゃ、喋りましたわよ!?」


 驚いたエリーゼが思わずカナメに抱き着くが、それを見て自称ドラゴンは面白そうに目を細める。


「くふふ……我が喋るのがそんなに不思議か。まあ良い。試練を受けるのは誰ぞ」

「試練……このダンジョンの試練を設定したのは」

「我ではない。我はその試練とやらに駆り出されたに過ぎぬ。腹の立つことではあるがな」


 カナメの言葉を途中で遮ると自称ドラゴンはそう言って目をぎょろりと動かす。


「見たところ、突出して魔力が高いのは貴様だな。しかし忌まわしきかな、貴様のその弓はレクスオールの弓。今回の試練には合わぬ。隣のレヴェルもまた然り。となると杖持つ青髪の娘よ。貴様ということになるが」

「わ、私ですの!?」

「然り。受ける気がないというのであれば、来た道を戻るが良い。此処は通さぬ故にな」


 指名されたエリーゼはオロオロしながらカナメを見るが、そのエリーゼを庇うようにカナメはその前に立つ。


「待った。こっちは何も分からないのに試練がどうとか言われても困る。そもそも、その試練とやらを仕組んだのは誰なんだ?」

「答えられぬ。試練を乗り越えたならば、自然と知れることである」

「……なら、試練の内容っていうのは」

「簡単な事だ……我に魔法の力を示せ。それが期待値を超えるものであれば試練突破となる」

「示すっていうのは」

「攻撃魔法だ。我に撃つが良い。それが一番分かりやすい」


 それは自分の防御に対する自信の表れなのだろうか。

 まさか「戦え」ではなく「魔法で攻撃してこい」と言ってくるとは思わず、カナメは思わず「えっ」と声をあげてしまう。


「何を驚く」

「いや、だって……意味が分からない。破壊力だけでいいなら、魔法士にこだわる理由は何処にあるんだ? いや、それ以前に……此処に来るまでの階層は」

「此処までの階層は、振り落としである。此処に至るに足る「知」や「技」を試したと聞いている。だが此処から先に至るには「魔力」を示す必要がある。つまりはそういうことだ」


 言いながら自称ドラゴンは竜鱗騎士ドラグーン達に視線を向けるが、何も言わずにカナメに視線を戻す。


「忌まわしきレクスオールの弓持つ者よ。貴様であれば、あるいは我を試練など関係なく粉砕できるやもしれぬ。押し通ってみるか? 己が力を法と信じるならば、それも良かろう」

「……っ!」


 それは明らかな挑発。「そんなものに従う理由なんかない」という反論を封じに来たのだ。

 カナメが理性的であると知り、力ではなく言葉で枷を嵌める。

 それは自称ドラゴンの狙い通り、カナメには非常によく効く。

 エリーゼに命の危険があるならともかく、これではカナメが無理矢理押し通るということはできない。


「攻撃魔法を貴方に撃てばいいんですのね?」

「その通りだ、魔法士よ」

「エリーゼ」

「心配ありませんわ、カナメ様。下がってらして?」


 エリーゼは杖を構え、カナメに微笑みかける。


「罠かもしれないんだぞ。ここで大丈夫でも、この先……」

「だとしても。此処でその罠に乗れば、試練とやらを仕組んだ首謀者を引きずり出せますわ」


 カナメの力で押し通るのも選択肢としてはアリだろう。

 いざとなれば、その手段も捨てるべきではない。

 

「……それに。此処で出来ないようであれば、私はカナメ様の隣には立てませんもの」


 自分を心配してくれているカナメの気持ちは嬉しい。

 エリーゼにとって、何よりの幸せだ。

 だが、それに甘えて「か弱いお姫様」をやっているつもりはエリーゼにはない。

 自分にだって、カナメを支えられる。カナメの役に立てる。

 そのチャンスを捨てる程、エリーゼは受け身ではいられない。


「ではドラゴンよ、記憶なさい。私はエリーゼ。今から貴方を全力でブッ飛ばす、世界最強の魔法士でしてよ……!」

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