提案の検討

 後日返答とフェドリスには返し、カナメ達はクラン三階の部屋に集まっていた。

 なにしろ、他国での活動の話だ。慎重になるに越したことはない。


「……15階層ねえ」

「やっぱり難しいのか?」

「現状、記録に残ってる「最下層」は連合のダンジョンでの30階層だから、それに比べれば簡単だけど」


 カナメにアリサはそう答えるが、その記録は英雄王の残したものだ。

 ちなみに此処でいう「最下層」とは、「人類が到達した最も下の層」をそう呼んでいるだけであり、本当の意味での最下層を見た者は居ない。

 英雄王が到達したのがそこであるから、そこが最下層なのかもしれない……という希望的観測も含んでいる。

 ドラゴンの巣窟と言われるそのダンジョンの30階層は、入り込めば生きて帰れる場所ではないともされており……地上でドラゴンキラーを気取る者達は、それより上の階層に時折出るドラゴンを倒した者達である。


「ちなみに英雄王を除く到達記録は帝国のダンジョンの13階層。ソロの冒険者が達成したとされていますわ」

「へえ……あれ、ということは結構キツいんじゃ」

「事実上、現代最強への挑戦ですわね」


 もっとも、ダンジョンによってモンスターの分布も違うので一概には言えないのだが……どのダンジョンも深く潜れば潜る程モンスターが強くなり、「ドラゴン」と出会う可能性も高まっていく。


「ドラゴンは10階層でも出たって話があるぜ。15階層なら、もっと出る確率は高いんじゃねえか?」

「そうですね。聖国のダンジョンでも8階層で出たという記録が……数十年前のものですが、あります。この時は大討伐隊を組んで退治したようですが」


 エルとイリスの言葉に、カナメは静かに頷く。

 カナメも色々と本を読んで勉強したが……このドラゴンというモンスターは、モンスターの中でもかなり特殊な部類に入る。

 数あるモンスターの中でも最強生物の一角に分類され、あらゆる環境に適応することから「完璧な生物」とも称されるドラゴン。

 その種類も豊富で、主に鱗の色で種類分けされるが……基本的に階層を移動しない他のモンスターと違い、ドラゴンは自由気ままに階層を移動する。

 そのほとんどが30階層から気まぐれで移動してくるとされているが、それ故に見つければ即座に最優先討伐対象として討伐隊が組まれる。

 それだけドラゴンは強く、危険なのだ。


「でも、ドラゴンもそうだけど……問題はそこじゃないんだ」


 そう言うと、カナメは一枚の開封済みの封筒を取り出す。

 それは、連合のとある国からの手紙であり……その国とは、目的のダンジョンのある国なのだ。


「呪いの逆槍のある連合の国ってさ……クランの支部開設を求めてきてるんだよ。俺達が行くとたぶん、その話になる」

「あー……」


 こっそり身分を隠して行くというのは悪手だ。

 お忍びといえば言葉はいいが、その実は違法入国であるしそれをネタに色々と要求される可能性もある。

 かといって、堂々と行っても面倒な事になる。国賓待遇などされても、クラン支部開設の確約など出来はしない。その件で足止めされても、更に困った事になる。


「別にいいんじゃない? そういう目的ってことにしとけば」

「え?」


 アリサの言葉に、カナメは疑問符を浮かべて。そんなカナメに、アリサは指を一本たててみせる。


「だからさ。折角お手紙貰ったし視察に来ました、ってことにしとけばいいんじゃない? ダンジョンの件も、現場調査ってことで堂々と入ればいいし。あとは全部「検討します」でオッケーでしょ」


 歓待されそうなら予定が詰まっているとか公平な視点がどうのこうのと理屈をこねて固辞すればいいし、それで無理強いしてくる程愚かでもないだろう。


「ん……それは、どうだろう。いいのかな、それ」

「構わないと思いますよ?」


 渋るカナメにそう言うのは、ハインツだ。

 全員にお茶を淹れていたハインツは、カナメの持っていた手紙に視線をおとす。


「その手紙に書かれている内容を見るに、「呪いの逆槍」が出来たからこそクランの支部を希望していると思われます」

「あー。冒険者ギルドの連中にダンジョンっつー財布に手を突っ込まれるのが我慢ならないわけだ」

「そういうことです。聖国の組織である「クラン」ならば、妙に高額な中抜きをせずに経済が回ると考えているのでしょう」


 名目上中立を謳う冒険者ギルドとは違い、聖国は本当の意味で中立だというのもある。

 隙あらばダンジョンを奪いに来るかもしれない連合内の隣国からも、聖国の組織であるクランがあれば守れるかもしれない……という目論見があるのだろう。


「クランの支部の是非についてはともかく、そういう現状を見ることが意思決定の一助になるのは真実です。何ら恥じる事はありません」

「んー……まあ、そうか」


 確かに、実際に設立するかはさておいても現場を見るというのは理屈の上でも正しい事だ。

 そういう理論武装で問題はないかもしれない。


「それよりも、その話。お受けするという事でよろしいのですか?」

「ええ、受けようと思ってます。呪いの逆槍とかいうダンジョンの事も気になりますし」

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