事情聴取3
「恨まれる覚えはありません」
「聖国でなくてもいい。他の国で何か恨みをかったことはないか」
エリオットの問いに、カナメは少し考え込む。
まあ、ないことはない。
レシェドではチンピラみたいな冒険者からシュルトの護衛依頼を奪取したし、この前の護衛依頼ではアリサが他の冒険者の股間を蹴り抜いた。
もっと古い話でいえば、プシェル村の村長はどうなっただろうか。レシェドの街の騎士団長にも恨まれていてもおかしくない。
「ない……ことはない、ですけど。一応冒険者ですし」
「だろうな。その中で、この聖都に居る可能性のある奴はどれだけいる」
「え……さあ。一人いるはずですけど、流石に暗殺がどうのこうのって話にはならないと思いますし」
「それはこちらが判断する。名前は? 職業は? 体格などもだ」
聞かれて、カナメはあの「股間を蹴られた冒険者」についての知っている限りをエリオットへと答える。
流石にあの程度が暗殺の理由になるとは思えないが……まあ、確かにそこはカナメが判断する事ではない。
「……ふむ。この男については可能な限り早く見つけて聴取を行う。他にはどうだ?」
「えっと……ちょっと判断できません。どうなってるのか分からない人も居ますし」
「それもそうだな」
カナメの返答にエリオットはアッサリとそう頷くと、隣でカナメの言ったことを書き留めていたイルゲアスの肩をトンと肘で突く。
「ちょ、書いてるんですけど。なんですか、エリオットさん」
「お前からは何かないのか」
「え? 何かって……えーと、そうだなあ。犯人の使っていた魔法の品について何か思いつく事は無いかな。
言われて、カナメは自分が見たものを思い出す。
「えっと……確か爆発する円盤みたいなのは見ました」
「円盤、ってことは」
「
「そのセンから調べられそうですね」
頷きあう二人に、カナメはマントのことをどう話そうかと迷う。
カナメが直接見たわけではないし、もし違っていたら捜査の邪魔になるかもしれない。
と、そこにルウネがすっと現れて全員の前にお茶を置く。タイミングとしては少しばかり遅いが……ルウネは全く気にした様子もなく「
「うわっ……報告じゃ聞いてたけど本物だよ……」
「メイドナイトか。
なるほど、禁制品が多く出回っているかもしれないなどという状況は俄かには認めがたいものもあるのだろう。
それでも、「そんな可能性はない」と言い切らないだけマシなのだろうか。
その後も聴取は進み……ある程度の事を聞き終わると、エリオットは「ふむ」と頷き立ち上がる。
「このくらいだな。これ以上は何も出まい」
「そうですね」
イルゲアスも続いて立ち上がり「ご協力ありがとう」と言って頭を下げる。
「不安もあるとは思うけど、僕達も巡回を強化するし……犯人はきっと捕縛するから任せてほしい」
「は、はい。よろしくお願いします」
「行くぞ、イルゲアス」
「はいはーい! あの人も不愛想で性格悪くて口も悪いんだけど、真面目な人だからさ。悪く思わないでね?」
「イルゲアス」
「じゃ、そういうことで!」
イルゲアスはエリオットの後を追って扉から出ていき……扉が閉められた後には静寂が残った。
「……ふうー……なんか疲れた」
「本当に失礼な聖騎士でしたね。後で苦情を入れておかねば」
「あんなのにお茶だしたくなかったです」
遅れたのはそれが理由か、とカナメは苦笑する。恐らくはカナメが喉が渇くタイミングが限界だったのだろう。
「でも、こっちが疑われる可能性は無くなったわけだし」
「そうとも限りません。そう言って油断させて……というやり方の可能性もありますし」
「あー……」
イリスの言わんとする事を理解して、カナメはげんなりとした顔をする。
「そういう意味ではさっきのもグッドコップとかそういうアレっぽかったなあ」
「コップ、ですか?」
「うん。えーと、なんだったかな。友好的な人と敵対的な人を置いて、友好的な人を「いい人」と思わせるみたいな?」
「ああ、なるほど。ルヴェルレヴェルの二人のうち、ルヴェルが善神でレヴェルが悪神だと子供が勘違いして怯えるようなアレですね」
親もそれを分かって「悪い子はレヴェルが迎えに来るよ」とか言うんだから困りますよね……などとイリスが呟いているのを聞いてカナメは苦笑する。
死を司るという権能上仕方がないのかもしれないが、本人が聞いたらどんな顔をするだろうか?
カナメはそんな叶わぬ事を考えながら、クスリと笑った。
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