事情聴取
意外にも……と言ってしまうとどうにも人聞きが悪いのだが、本当に意外にも聖騎士達は予告した通りに昼……よりは少し前といった時間にやってきた。
人によっては「そろそろお昼かな……」といった時間なので大体予告通りだが、それはともかく。
相変わらず客の居ない流れる棒切れ亭のテーブルにカナメとイリスの二人と向かい合わせで座っているのは先日とは別の聖騎士達であった。
「まずは聴取への協力に礼を言おう。俺は聖騎士団第七分隊長、エリオットだ」
「僕は第三分隊のイルゲアスです。昨日は直接はお話しませんでしたね」
気難しそうな印象のエリオットと違いイルゲアスは人懐っこい笑みを浮かべるが、残念ながらカナメの記憶にもイリスの記憶にもイルゲアスのことはない。
だがまあ……きっと居たのだろう。二人の認識としてはその程度だ。
なにしろ、あの場に居た聖騎士全員の顔など覚えているはずもない。
「えっと、カナメです」
「イリスです。すでにご存知かもしれませんが、レクスオール神殿の神官騎士です」
「ああ。その緑の神官服を見間違えるはずもないし……念の為、確認も済ませている」
エリオットの言う「確認」とはまあ、在籍確認のことであり……イリスが偽神官の類でないことを確かめたということである。
なにしろ、ここは聖国だ。自称神官の怪しい輩が混じっていたのも一度や二度ではない。
聖国で……しかもこの聖都で、そんなものを許すわけにはいかない。
一晩置いたのも、そうした身分確認の時間をとるため……という理由があったのである。
「さて、第三分隊から一応の事は聞いている。第三者視点から今回の事件を捜査する為に私が選ばれたわけだが……」
そこで一端言葉を区切ると、エリオットはギロリとした目でカナメを睨み付ける。
「正直に言おう。不可解な事ばかりだ。付近を緊急封鎖しても引っかからない襲撃犯達もそうだが、人払いの済んでいた状況も不可解に過ぎる。そして、お前が現場に間に合ったのも不可解だ」
「えっと、それは……」
まさか無限回廊のことを説明するわけにもいかないが、どうしたものか。
どう誤魔化したものかカナメが考えるより前に、イリスが咳払いをする。
「たいしたことではないでしょう。移動速度は
「……ふむ」
「まあ、確かに寝間着でしたし……余程慌ててたであろうことは一目瞭然でしたね」
イルゲアスからもフォローが入り、エリオットは机を指でトン、トンと叩く。
それはイリスの言い分について考えているようでもあり、カナメの反応を確かめているようでもある。
カナメとしてはイリスの言ったことは嘘ではないので何も後ろめたい事は無い。
嫌な予感……というのが無限回廊であるというだけだ。ひょっとしたら言ってもいいのかもしれないが、今の状況で言う事がプラスに働くとも思えない。
なにしろ、彼等には黄金弓を見られてしまっている。下手に無限回廊のことを口にして、詐欺師扱いされるのは勘弁願いたいところである。
「レクスオール神殿の神官騎士に恩を売りたいが為かとも思ったのだが……」
「ちょっと待ってください。それはカナメさんを疑っていたということですか?」
「そう考えれば辻褄は合う。魔法の品を相当数持っていたと思われる襲撃犯がアッサリ引いたのも合点がいくというものだ」
「この……っ!」
「しかし、だ」
立ち上がりかけるイリスを制するように、エリオットは低い声で告げる。
「思わず寝間着のまま探すほど深い関係というのであれば、襲撃犯などを用意するのは逆に辻褄が合わない」
「深い関係って……」
「そんな詮索をされる謂れはありませんが、カナメさんが私にわざわざ暗殺犯を差し向ける理由が無いのだけは確かです」
段々とイリスの口調が刺々しくなってくるのも仕方のない事だが、そこにイルゲアスの「まあまあ」という仲裁するような声が割り込んでくる。
「お二人の関係はともかく、こちらのカナメ君があの地域の人払いを出来るようなコネがあるとも思えませんが」
「ああ。それは分かっている」
人払い。そう、あの周辺はほぼ完全に人払いがされていた。当然だが、そんな事がその辺りの暗殺者に出来るはずもないし出来たとしても証拠がゴロゴロと残るはずだ。それ故に、イリスはエリオット達を睨み付ける。
「そうです、それはどうなったのですか。あの辺りはカナン神殿にも近いはず。当然巡回ルートに含まれているはずです。人払いだけでなく、騎士の巡回まで無くなっていたとなると……」
「当然、「その可能性」は疑っている」
「ちょ、エリオットさん……!?」
「黙れ。聖騎士団の巡回ルートに複数の申し送りと命令書によって僅かな空白ができる。しかも、小さな事件の散発的発生によりそれに気付く余裕が無くなる。こんなモノが外部によって意図的に発生させられたのだとしたら、放置すれば我々は聖騎士などとは恥ずかしくて名乗れなくなるぞ」
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