ヴィルデラルト6
「……好きです」
「うん、そうだね。でも違う。分かってるだろうけど、僕は「女の子として好きか」と聞いてる」
即座にヴィルデラルトに逃げ道を塞がれ、しかしカナメはゆっくりと首を縦に振り頷く。
「はい。俺は、アリサの事をきちんと女の子として好きなつもりです」
「へえ……」
意外そうな顔をするヴィルデラルトに、カナメは真面目な表情でヴィルデラルトを正面から見据える。
「嫌いになる理由も、好きにならない理由もありません。俺はアリサが好きです。でも、それ以前に……俺は、アリサの隣に立つ仲間で居たい」
そう、アリサとはそういう関係でありたいとカナメは願っている。今のカナメはまだ頼りなく、アリサに頼ったままだ。
せめて、隣に立てるようになってから。そういうことを考えるのはそれからだとカナメは思っている。
「……なるほどね。だとすると、その後ろの女の子とかはいいのかな?」
とか、と言っている辺りヴィルデラルトはカナメの事情をある程度把握しているのだろう。
つまり、エリーゼやルウネの事も言っていると考えて間違いない。
カナメはグッと言葉に詰まり……しかし、すぐに口を開く。
「同じです。エリー……俺の事を好きだと言ってくれた女の子もいます。彼女の事も、女の子として好きかと聞かれれば答えは同じです」
まだ情けないばかりの自分を好きだと言ってくれるエリーゼ。何かと気をかけてくれる彼女の事を、嫌いなはずもない。
しかし、やはりアリサと同じ理由で「今答えを出すべきではない」ことだとカナメは考えている。
たとえそれを不誠実と罵られようとも、責任も持てぬままに半端に答えを出す妥協の不誠実よりは余程マシだと知っているからだ。
「誰が一番好きかと聞かれれば、今の俺に答えは出せません。いつか答えを出さなきゃいけないことではあるけれど、今は……それで、精一杯です」
「ふうん、なるほどね」
カナメの答えに、ヴィルデラルトはそう頷く。
優柔不断といえば、今のカナメをある程度は説明できるかもしれない。
しかし「決まらない」と「決められない」は似ているようで全く違う。
「理由があっても選べない」のは愚図だが、「理由があるから選べない」のは慎重だ。
カナメの場合は後者で……「まだ自分は決めてはいけない」という考えがその中心に横たわっている。
その根底にあるのは責任感と、自分への自信の無さなのだろうが……考えなしで根拠のない自信に満ち溢れていたいつかの異世界人とは対極だとヴィルデラルトは小さく笑う。
どちらが良いかと言われると神々の間でも評価は分かれるだろうが……少なくともヴィルデラルトは、カナメの方に好感を持つ。
「まあ、いいさ。僕が口を出す事じゃない。それより、何故それを今聞いたかという話なんだが……その子を治す事は出来ずとも、抑える方法であれば僕も知っている」
「えっ」
「あるのですか!?」
ヴィルデラルトの言葉に、カナメだけでなくイリスまでもが大きく反応する。
それも当然で、
一度
救う事の出来る者がどれほどいるか。そして、治すための研究がどれほど進むか。
それを考えれば、興奮しないはずがない。
「ああ、魔力を混ぜればいい。それが後天的魔力放出障害を抑える方法だ」
魔力を、混ぜる。それは、つまり。
「え、それ……って」
「知ってるだろ?」
「あ、え、いや。でも」
うろたえるカナメに代わって、イリスが「それはキスなどの方法による魔力を混ぜる方法という認識でよろしいのでしょうか?」と問いかければヴィルデラルトは肯定するように頷く。
「その通りだ。では、何故魔力を混ぜれば抑えられるのかということについてだが……そうだな、絵の具を想像してみるといい」
たとえば、ここに黒と青の絵の具があったとして……黒を本人の魔力と仮定する。
大量の黒の絵の具の入った容器の中に青の絵の具を投入した時、黒色の中に僅かな青が同時に存在することになる。
そうなった時、容器の中には「黒」と「青」が同時に存在するわけだが……この容器を人と仮定した時、容器は「黒」と「青」を混ぜ始める。
この時の黒と青の混ざった色合いが「魔力の混ざりあった」状態だが、魔力が絵の具と違うのは「黒」が「青」を自分を消滅させながら同化させていくことにある。
つまり、元々体内にある魔力は体外から取り込まれた別人の魔力を異物として処理しようとするのだ。
有害な「青」ではなく有益な「黒」に染めようとしている、というと分かりやすいだろうか。
これが終わった時に「魔力の混ざりあった」状態が終了するわけだが……つまり、この魔力が混ざっている間、本人の魔力は体内にある別人の魔力を染める為に消費され続ける状態にあると言い換える事が出来るのだ。
「言いたいことが分かるかな?」
ヴィルデラルトは微笑むと、カナメの肩に手を置く。
「闘神を人に戻す方法は……その人を絶対に引き戻すという意思を込めて多量の魔力を送り込むことだ。人を闘神足らしめる、莫大な魔力を消費させるほどのね。それは、好きでなければ出来ない事だろう?」
そう言って笑うヴィルデラルトの言葉を、カナメは受け止めて。
そのまま、カナメの意識は暗転した。
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