ヴィルデラルト3
夜。寝ていたはずのカナメは、また「あの場所」に立っていた。
「此処、は」
だが、前回とは違い目の前には石造りの建物がある。
どうやら街であるのか、周囲には似たような建物が並んでいて……しかし、人の気配は一切感じられなかった。
石畳の敷かれた道は綺麗に整備されていて、しかし道の端に並ぶ建物からは声一つしない。
扉がなく、広々と入口を設けたそれは、いわゆる店舗にも似ているが……何か商品が並んでいるわけでもなく、覗いてみてもガランとした空間が広がっているだけだ。
寒々しささえ感じる其処には、人がかつて居たのかどうかすら感じることはできない。
「市場、だったのかなあ」
言いながら、カナメは石畳の上を歩く。
此処は前回見えていた建物のあった場所ということで間違いないだろうが、こんなところだとは考えもしなかった。
そうして歩いていくと、今度は神殿のようなものがあるのを見つける。
扉の閉ざされたその場所をカナメは軽く叩いてノックするが、反応はない。
「そこはディオスの神殿だよ。まあ、今は誰もいないんだけどね」
「うわっ!?」
突然かけられた声に驚いて振り返れば、そこには笑顔を浮かべたヴィルデラルトの姿がある。
「君が来た気配を感じたから急いで来てみたんだけど、邪魔だったかな?」
「い、いえ。そんなまさか!」
「だったら良かった。僕も君と話したいことがあったからね」
「え、俺と?」
「ああ、君も僕に聞きたいことがあるはずだ。恐らくはそれと同じだと思うよ」
だとすると……カナメが最初にしたい質問は、決まっている。
「あの、それなら。ダンジョンの件なんですが」
「うん」
「もしかして……ゼルフェクトが復活する兆候とかじゃ」
「それは無い。ゼルフェクトが復活するには、もっと大規模な混沌を取り込む必要があるはずだ。それは安心していいよ」
断言するヴィルデラルトにカナメはほっとした顔を浮かべ……そんなカナメを見て、ヴィルデラルトは少し寂しそうに笑う。
「外れてしまったね」
「え?」
「僕は、君が
「それは……」
この後に聞こうと思っていたことではある。
しかし、カナメがそれを言う前にヴィルデラルトは「分かっていたことではあるんだ」と語る。
「君とレクスオールは同じだが違う。その事を、僕はまだ受け入れきれてないのだろうね」
呟きながら、しかしヴィルデラルトは気を取り直すように手を叩く。
「さて、時間もそんなに無い。
頷くカナメに、ヴィルデラルトは自分を指差す。
「ではカナメ君。なんでもいいから、僕を攻撃してみてくれ」
「え? でも」
「いいから」
さあ、と促すヴィルデラルトにカナメは迷いながらも拳を握り……肩のあたりを軽く叩こうとして。
「うわっ!?」
触れるか否かというその瞬間に、障壁のようなものに弾かれて吹き飛ばされる。
ごろごろと転がったカナメが起き上がると、ヴィルデラルトは「これが
「魔力で自分を覆い、他者の干渉を退ける力。それが
「え? で、でも。俺は普通に痛かったですし、そんな弾くみたいなことは」
「うん。それはね、君が神ではなく人だからだよ」
全てのものには、魔力放出限界というものが存在する。
魔力が生き物の内部でのバランスの一部を司っている以上、身体は一定以上の魔力を放出することを拒否する性質がある。
それは体内での魔力バランスを調節するためであり、魔力不足による身体の不調を防ごうとする防衛本能でもある。
それを超えて無理矢理魔力を放出すると変調を招いたり、最悪死に至る可能性すらある。
「僕達神は、その限界値が極めて高い。というよりも、存在しない。だから魔力が
「な、るほど……」
そういえばレヴェルも、カナメが使おうとした矢を「使うな」と止めたことがあった。
あれは、そういうことだったのだろう。
「それって、その限界値を高めることって出来るんですか?」
「出来るよ。そこは修行だね、頑張って限界を超えるといい」
軽く言うヴィルデラルトにカナメは苦笑するが、文句を言っても仕方のない事だ。
「あれ? でも俺、
「当然さ。
まあ、ディオスの受け売りだけどね……とヴィルデラルトは呟いて。
「でも、気をつけるようにね。
「う……気をつけます」
「是非そうしてほしいね。僕としても、君が早々に死んでしまうのは少しばかり寂しい」
身の回りにも、常々気を付けたまえ。
そんな言葉を最後に、カナメの意識は暗転した。
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