二階層の探索2

「か、勝てた……」


 気が抜けてしまったタフィーはニヤニヤとエルが笑っているのを見て立ち上がろうとするが、それより先にカナメが「大丈夫?」と手を差し出してくる。


「あ、ありがとう。でも大丈夫です」

「そうそう。倒して終わりじゃねーしな」

「エル、そんな言い方……!」

 

 言いかけたカナメを制して立ち上がると、タフィーは不敵な笑みを浮かべてエルと向き合う。


「私を仲間扱いする気になりましたか、エルさん?」

「そうしてほしいんなら、な。お姫様は卒業でいいのか?」

「お姫様になりたいと頼んだ覚えもありませんよ」


 タフィーの返答にエルは「そりゃそうか」と肩を竦めると、再び歩き始める。

 その背中をカナメとタフィーは追うが……カナメはどういう意味か分からず疑問符を浮かべるばかりだ。


「え、えーと……仲直りした、ってのでいいのか?」

「というよりも、この探索の仲間に私が迎え入れられた……というところですね。あの人、さっきまで私を護衛対象として見てましたから」

「んん……それってつまり」

「今後は戦力として数える、ってことですね。冒険者風に言うなら「自分の面倒は自分で見ろよ」でしょうか」

「そっか。でも一応タフィーは雇い主……」


 どうにも複雑な顔をするカナメにタフィーはくすくすと笑いながら、エルの背中を見る。


「報酬の約束を曖昧にしたままなのに? そんな護衛依頼。ありませんよ」

「あー……」


 そういえばこの国に来る前、アリサが護衛を「金をジャブジャブ取れる仕事」と言っていたな……とカナメは思い出す。

 そう考えると、エルは護衛という言い訳でタフィーの希望を叶え、そして今護衛から「仲間」になった……ということなのだろうか。


「なるほど。意外とエル、めんどくさいな」

「聞こえてんぞカナメ!」

「ふふっ」


 飛んでくるエルの怒声にタフィーが笑い、そうして三人は歩く。

 曲がり角を曲がって、その先に進んで。

 未踏破地域を少しずつ潰しながら、何処かにあるかもしれない宝箱を探す。


「ひっ……」

「うわっ」


 そうして進んでいくと、三人は冒険者のパーティと思われる死体を発見してしまう。

 四人組らしき冒険者の死体は驚愕と恐怖に染まった顔で倒れており、目を背けるタフィーを余所にエルは冒険者達の死体を検分する。


「切り傷、だな。刺されてんのもあるけど、それ含めて武器はたぶん……剣だろうな」

「そうなのか?」

「おう。つーかカナメは動じねえな。ほれ、見てみろよ」


 言いながら、エルは落ちている武器を指し示す。

 剣に杖、斧……どれも真っ二つに斬られていて、無事なものは無い。


「どれも切れてるだろ?」

「あ、ああ。でもそれなら斧とか短剣っていうセンもあるんじゃ」

「そだな。これじゃ刃物ってことしか分かんねえが……」


 そこでこいつだよ、と言いながらエルは死体の一つを示してみせる。

 恐らくは魔法士と思われる男の身体は何かに刺し貫かれたような跡が無数に残っており、その凄惨さを感じさせる。


「槍だと、もう少し風通しの良い事になる。斧だとこんな風にゃいかねえし、短剣でやったにしちゃ傷跡がデカすぎる」

「それで剣、か?」

「ああ。といっても木人形ウッドドール程度じゃ、こんな傷にはならねえ。となると他のだが……幸いにも剣使う奴でジェリーや下級灰色巨人デルム・グレイゼルト共と同じ階層に出る奴にゃ、心当たりがある」

「……魔動鎧ゴーレムメイル、ですか」

「そういうこった」


 魔動鎧ゴーレムメイル。それは俗に言う「動く鎧」のことだが、中身が空っぽなのに動く全身鎧、というとイメージがしやすいだろうか?

 魔動人形ゴーレムと同じ原理、あるいは未知の理論で動いているとされ魔法士の研究対象になったこともあるが、最低でも五階層で出現する魔動鎧ゴーレムメイルを研究するよりは二階層の木人形ウッドドールを研究した方が……ということで、あっというまに解明を諦められたモンスターでもある。

 そんな魔動鎧ゴーレムメイルは主に長剣を武器として使用するが、同類とされている木人形ウッドドール石人形ストーンドールと比べると動きが早い。

 きちんと剣を「刃物」として振るう事を理解しており、「防具」になることも理解している。

 それ故に生半可な腕の者が斬り合っても鍔迫り合いが発生したり、逆に押し切られて斬られる事すらもあるという。

 そしてその身体自体も鎧である為、どうにもこちらの攻撃が通りにくい。


「魔法士含めた四人パーティが押し切られたとなると、二体に挟撃された可能性もあるな。たぶん乱戦になって、まともに魔法を撃てなかったはずだ」


 エルの推測に、タフィーは剣を握る片手の力をぎゅっと強くする。

 魔法は強力だ。しかし強力故に、使い方を間違えれば仲間を焼く可能性が常に付きまとう。

 それを恐れるが故に魔法を使えないまま死ぬというのは……本当によくある話なのだ。


「でも、そいつ等はこの場には残ってない……ってことは」

「この階のどっかを巡回してやがるな。出来れば会いたくねえけど、カナメの矢がありゃいけるか?」

「……どうだろうな。たぶん、いけるとは思うけど」

「わ、私だって……!」

「おう。いざって時には頼るけど、無茶はすんなよ。連中、詠唱を理解するって噂もある」


 不満そうな顔をするタフィーにエルは苦笑して肩を叩くと、「行くぜ」と言って進み始めた。

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