ジェリーとの戦い
ぞぶぞぶと。ぐじゅぐじゅと。
心を蝕むような気味の悪い音を立てながらジェリーはカナメ達へと向かってくる。
丁度大人一人を飲み込めるような、そんな不気味な津波にも似た姿。
「
手の中に生まれた矢を放ち、再びジェリーを遠くへと吹き飛ばす。
だが、それでは意味がない。吹き飛ばすだけでは、勝てない。
「くそっ、こんな時に限って点かねえ……おいカナメ! この際火じゃなくてもいい。なんか他の魔法!」
「他のって……そうだ、これだけ明るければ光……! って
完全にカナメ達をターゲットにしたらしいジェリーが戻ってくるのをカナメは再び吹き飛ばし、ダンジョンに満ちる光を掴む。
この状況を打破できる矢を求め……カナメの中に、それを可能とするかもしれない矢が浮かぶ。
「う、うわあああっ!?」
「おい、カナメ!?」
「なんでもない……
再びジェリーを風で吹き飛ばしながら、カナメは荒い息を吐く。
光……先程の光。
アレから流れ込んできたモノは、明らかに普通ではなかった。
どの矢も、以前カナメが「光」を掴んだ時にはなかったものばかりだ。
というよりも……なんとなく、触れてはいけないもののような気がする。
だが、他の手段。あれを倒す手段は、他にあるのか。
「エル!」
「んだよ! くそっ、なんで点かねえんだ!」
「逃げるって選択は!」
「絶対追ってくるだろ! 下手すっと騎士にも被害出んぞあれ!」
「
「あんならやれバカ!」
「聞いたぞ、恨むなよ!」
カナメは、再び光を掴む。
全てではないが、この光から出来る矢のリストは分かった。
ならば……どれでもいいから、一番「危なくなさそう」なのを選ぶ。
「
カナメの掴んだ光が、収縮する。
鈍く、低く遠く響く……雄叫びのような音を立てながら、カナメの手の中で黒い矢の形をとる。
それは黒でありながら、光沢のような輝きを持つ矢。
つるりとしたその表面はしかし、美しいというよりも気味の悪さばかりが際立つ。
触れているだけでぞわりとし鳥肌の立ちそうなそれを、カナメは向かってくるジェリーへ向けて放つ。
ヴオン、と。
カナメの手を離れた矢は解けて黒い線となる。
いや、それは線ではない。
文字通りの黒い光であり……それが光速でジェリーを貫いたのだ。
黒い光の線はジェリーに吸い込まれるようにして消えていき……何故か、ジェリーはそのまま動きを止めている。
「な、なんだあ……?」
火を点けようとする手を止めてエルはジェリーを見て……カナメも、すぐに次の攻撃に移れるように弓を構えなおす。
ひょっとしたら、矢の選択を失敗したのか。
そんな想像をカナメがした瞬間、ジェリーの身体から黒い光が溢れだす。
先程呑み込んだ黒い光をすべて吐き出すかのようなジェリーのソレが終わる、その刹那。
襲い掛かるようなポーズだったジェリーの身体が、音を立てて崩れる。
半液状であった身体が、完全な液状に。
まるで氷像が溶けて水になるかのようにジェリーの身体は床へと流れ落ち……そして、そこには何も残らない。
先程の
それ自体は、驚く事ではない。
ない、が。
「すげえな、今の矢……」
「……」
エルの呟きに、カナメは答えない。
どういう矢なのかは見ても分からないが、恐ろしく危険な矢であることは確かだ。
一番危険では無さそうな矢を選んでこれなら、他の矢は一体どんな効果を持つ矢なのか。
いや……そもそも、これはもしかして……破壊神ゼルフェクトの力ではないのだろうか?
あの時、カナメがレヴェルの力を持つ矢を作ったように、これも……。
「なあなあ、カナメ!」
「うわっ!?」
肩を組んでくるエルに、カナメは思わず思考を中断してしまう。
「な、なんだよ!?」
「今ので分かったけどよ、お前の矢の魔法ってあれか。その辺の物を魔法の矢に出来るんだな!?」
「え? あ、ああ」
「なら、その矢売れば大儲けじゃねえか! なんでやらねえの!?」
何故かといえば売る気が無いからだし、ダリアの言っていた事が正しければ……カナメの矢はカナメか、カナメと「魔力の混ざった」者にしか扱えない。
とはいえ、そんな事をエルに説明するのも……とカナメは「いや、色々と面倒があってさ」と適当に誤魔化す。
「ふーん……ま、いいけどよ。まあ、あれだな。お前ならこのダンジョンの壁でも矢とか作れそうだよな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます