新しい依頼

「隊商っていうと……なんか商人がいっぱい集まってるとかいうアレだよな?」

「あ、それは知ってるんだ」

「え? あ、まあ……ハハ」


 実際に見たことはないが、そういうものだという事はカナメも色々な本の知識で知っている。


「そんなものが出るということは、まさか大規模な盗賊団が?」

「そういう噂もあるって段階らしいね。ほら、人と物がたくさん流入するってことは」

「狙い時……ということですわね」


 三人が頷きあうのを見て、カナメも状況を理解する。

 このミーズの町は今、ダンジョンという「鉱山」の開通を前にして色んな人間が集まる場所だ。

 ハロが言っていたようにそれ狙いで商人達が色々な商品を持って町を訪れ、そうして稼いだ金を持って町の外へと行くのを繰り返すような状況だ。

 馬車が宝石箱に見えるというならば、まさに「今」が宝石箱にたっぷりと金銀財宝が詰まった好機であるのだろう。


「あれ、でもさ。乗合馬車はともかく商人は護衛雇うんだろ? それで前にこの町から冒険者が居なくなったって」


 そう、ミーズの町がダンジョン決壊で存続の危機になった時に冒険者達はそのほとんどが行商人の護衛という形で町から居なくなった。

 しかし、ダンジョン決壊の危機が収まった事で冒険者が帰ってきたり、更に流入したりしている。

 つまり護衛を雇うならば冒険者は今ならば選び放題のはずなのだ。


「あー、うん。つまりね、今ミーズにいる冒険者は「ダンジョン狙い」なんだよ」

「ああ」

「商人の護衛っていうのは、別の町に行くわけでしょ?」

「そうだな?」

「時間かかるじゃん。ダンジョンに早く入りたくて来てるのに、出遅れるじゃない」


 つまり、開店待ちをする客のような心境なのだろうとカナメは理解する。

 並んでいる最中に何処か遠くに行くのと同じだと考えれば……なるほど、あり得ない話だ。


「でもそうなると、その間お金稼げないんじゃないか?」

「今は復興期だからね。近場で依頼は幾らでもあるよ。それにダンジョン探索しようって連中はお金をたくさん抱えてるから、安宿での宿泊を維持するくらいの資金は余裕で持ってるよ」

「そんなもんなのか……」

「この宿にも問い合わせは多いらしいですよ。紹介制だとか予約済だとか言って断ってるらしいですけど」


 普通の宿に見せかけて神官の秘密基地的な側面のある銀狐の眉毛亭だが、こういう状況でもそれを貫いているようだ。


「実際、今後それなりの役職の者が聖国から派遣されてくるはずですから此処もそれで手一杯になりますしね」

「へえー」


 カナメが感心したような声を漏らすと同時に、アリサが咳ばらいをする。


「で、本題に戻すけど。大規模な盗賊団が出る恐れがあるから、行商人達が隊商を組んでお金を出し合い冒険者を雇う事にしたわけだね」

「んー……でもそれって、盗賊にとっては宝石箱が集まってるようなもんじゃないのか?」

「いい視点だね。でも、盗賊も自分達の戦力を上回る相手は襲わない。大護衛団がいれば、自分達が殺されるだけで終わる可能性もあるからね」


 そのあたりの損得計算は連中得意だよ、と言うアリサにカナメはなんとなく納得する。

 そして、今の話からすると護衛はカナメ達だけではないのだろう。


「そうなると、他にも護衛がいるんだろ? 冒険者ギルドにだって依頼出してるんじゃないか?」

「そうらしいね。でも集まらなかったらしい」


 それはやはり先程の理由からなのだろうが、問題はそこではない。


「あ、いや。そうじゃなくて。冒険者が冒険者ギルド通さずに仕事受けるのって」

「問題ないよ。ギルドのはあくまで「仲介料」って体裁だしね。それにそもそも論で言えば、管理される謂れもないし。冒険者と冒険者ギルドの関係は、あくまで仕事を仲介する方とされる方だから」

「まあ、そんなわけで隊商が護衛を募集する場面に居合わせまして。向こうから声をかけてこられたわけですね」


 ハインツがそう締めると、アリサも「そういうこと」と頷く。


「というわけで、他にもちゃんと「戦える奴」が集まってるしお金もキチンと出る。場合によっては追加報酬も出るし、いい事尽くめだよ」

「……まあ、妥当ですわね」

「そうですねえ。出発はいつなんですか?」

「夕方らしいよ。途中で野営を一回するつもりらしいね」


 言いながら、アリサは「荷物取ってくる」と言って身をひるがえす。


「じゃあ、準備終わり次第下に集合ね。忘れ物しちゃダメだよ?」


 言いながら、アリサは部屋に戻っていき……気が付けばハインツが、カナメの鞄に残りの荷物を詰め閉めている。


「さて。これでカナメ様は準備完了ですね」

「あ、ああ」


 後はベルトとマントを着け、弓を背負えばいつでも出発できる。

 いつの間にかベルトにもナイフがついているし、本当にバトラーナイトというものは仕事が物凄く出来るらしいとカナメは再確認する。


「さて、ではお嬢様もお召し物を整えましょう」

「そうですわね。ではカナメ様、また下でお会いしましょう?」

「私も一端部屋戻って荷物とってきますか。ではカナメさん、また下で」


 出ていく三人を見送るとカナメはベルトを腰につけ、マントを纏い弓を背負う。


「……そういえば、アリサ以外の冒険者と一緒になるって初めてかもな」


 色々と頑張ろう、と。そんな事を呟きながらカナメは部屋を出た。

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