もう一つの「ギア」
輝く剣と盾に触発されたかのように炎の化け物達は一斉に包囲を狭め走り出し、クシェルの破壊の魔眼による爆発が一瞬それを押し留める。
だが、それとて一方向のみ。もう片方から迫りくる化け物達の前にはカナメが黄金の弓を構え立ち塞がる。
燃え盛る化け物達という、来たばかりのカナメであれば恐れることしか出来なかったであろう恐ろしいモノ相手に、カナメは怯まず弓を向ける。
カナメの前に展開する二体の竜鱗騎士達の放つ電撃は炎の化け物を近づけず、その間にカナメは使うべき矢を選定する。
「
カナメの放つ矢が着弾と同時に荒れ狂う風を生み出し、炎の化け物達を薙ぎ払う。
だが、それだけでは炎の化け物達は怯まない。
残った炎の化け物同士が対抗するべく融合し、より巨大な化け物と化してカナメを磨り潰すべく走り出して。
ならばとカナメは風を掴み更に強力な矢を作り出す。
「
巻き起こった竜巻は炎の化け物を磨り潰し、巻き上げ、天へと放逐していく。
一方のダリア達の方はクシェルの破壊の魔眼による爆破の乱打で押さえつけているが、対抗すべく吸収合体していく化け物達の前に押され始めていく。カナメが援護にとつけた二体の竜鱗騎士の電撃も、稼げる時間を少し長くするに過ぎない。
だが、そこでようやくダリア達の準備が完了する。
「
その言葉と同時に、剣に、そして盾に青い光の線が走る。
「
続けてその青い光の線は鎧にも走り、まるで武器と鎧で魔力を分け合うかのように輝きを収束させる。
だが、その間にも周りを吸収し不気味な形に成長した炎の化け物がダリアへと迫る。
幾つもの腕を繋げてできた不気味に長く大きな腕を振りかぶり、ダリアを潰そうと風を切る轟音を鳴らす。
燃え盛るその巨大な腕は防ごうともそのまま潰されそうな圧力を備え……しかし、ダリアはそれを避けようともせずに見上げる。
「ダリア……!?」
振り向いたカナメがダリアを助ける為矢を放とうとし……だが、そのカナメの視線の先でダリアの両手の剣から青い光の刃が伸びる。
「せい……やああああああ!」
腕はダリアの振るった剣で切り裂かれ、幾多の骨の塊と化して地面に落下していく。
その骨の雨の中、ダリアは全く怯まずに二つの剣の柄を重ね合わせる。
するとガギンという音と共に二つの剣は繋がり、巨大な双刃剣と化す。
「いっ、けえ!」
気合と共に、まるでブーメランか何かのように放られた双刃剣は吹雪を放ちながら巨大な化け物を真っ二つに切り裂き凍らせ、周囲の化け物をも切り刻み凍らせながらダリアの手元で再び二本の剣に戻る。
そして、それでは終わらない。
ダリアは剣に魔力を宿らせ、青い刀身を緑のそれへと変える。
「
それは、小規模ではあるがカナメの
巻き起こった竜巻が氷像と化した炎の化け物達を砕き、荒れ狂う。
「もう一つ……
もう一本の剣からトドメとばかりに放たれた竜巻が先程の竜巻と合体し、更に大きな竜巻となって氷像を砕き骨をも砕いて天へと振りまく。
「うはあ……って、あだだっ!?」
粉々になった骨の大小様々な欠片が降り注ぐ中でカナメはたまらんとばかりにマントのフードを被るが、それで防ぎきれるはずもない。
そうして一通りの骨の欠片の雨が止んだ後にはもう動く骨の化け物は一体も残っておらず……カナメはふうと息を吐く。
「あれ? そういえばルドガーさんのソレって……」
この戦いの中で起動した盾を使っていないルドガーにカナメが疑問を覚えると、ルドガーは微笑みながら「コレは攻撃用ではありませんから」と言い切る。
「万が一ダリアが取りこぼした際に再度の攻撃まで盾になるのが私の役目です」
「本来は全員が攻撃も防御もできるのが理想だから、本意じゃないわ」
「しかし結果として、相手にほとんど手を出させずに勝利したではないですか」
「全員が画一化された能力を発揮・連携して数倍数百倍にするのが正しい帝国流。いつも言ってるでしょ」
言いながらダリアは剣と盾を交換し、未だ青い光が走ったままのソレにカナメは興味深そうに視線を向ける。
「
「違うわよ。
言いかけたダリアの言葉が止まり、冷や汗がその頬を伝う。
「嘘、でしょ」
がらり、がらりと。
ダリア達の視線の向こうで、巨大な骨が空へと浮遊し積みあがる。
不気味で悪趣味な骨細工のような、ある意味で滑稽な光景。
まるで見えない手に導かれるかのように天を貫き積み上げられる骨は歪な人の姿にも似ていて。
そこから何が出来上がるのかに気付いたカナメは「
「なっ……」
カナメが驚きの声をあげたのとクシェルが矢を弾いたのは、ほぼ同時。
ダンジョンの中からゾロゾロと出てくる火の肉を持つ人間……恐らくは村人達であっただろうそれらは、カナメに矢を放ち、あるいは槍を投げてくる。
やはりダンジョンの放つ魔力の影響か、クシェル以外の誰もそれに気づきもしなかった。
だが、クシェルが気付いてくれた。だから、カナメは再び弓を手に叫ぶ。
「
クシェルが防ぎ、破壊の魔眼で炎の村人達を砕いている隙にカナメは輝く光の矢をその手の中に生み出し放つ。
極太の光線と化した
続けて放つ
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
壊れた肩に、砕かれた胸に、バラバラにされた足を炎の肉で繋ぎ合わせ……巨大な二本足の竜のような、あるいは人のような……そんな、不可思議な炎の怪物が咆哮をあげながら空に浮かんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます