ダンジョンを目指せ2
「順調ね」
竜鱗騎士に抱えられて飛ぶダリアは、そう呟く。
決壊の影響を最初に受けて滅んだ村までの道程は、本当に順調だ。
歩くよりも早いのは勿論、ヴーンや
問題があるとすれば、自分を抱えている竜鱗騎士が自分では動かせない「いざという時に制御できないもの」である点だが……それを含めても快適であると言えよう。
……そう、快適なのだ。
飛び始めてすぐに感じた強い風も、今は感じていない。
そしてそれが何故かというと……信じられない事なのだが、この竜鱗騎士が
どうやらこの竜鱗騎士は不可能と言われた「魔法を使用する
ひょっとすると風を防ぐ事前提の弱い障壁なのかもしれないし、主人であるカナメから魔力を供給する機能があるのかもしれないが……どちらにせよとんでもない事だ。
出来ればカナメ共々帝国に持って帰りたいが……カナメの様子からすると、無理矢理連れ帰ろうとしても反発を招くだけだろう。
しかし王国にこのまま残しておくのも悔しいのだが……と、そんな事を考えていると竜鱗騎士が地面へと降下していくのに気付く。
「……え、嘘。もう着いたの?」
歩けば丸一日、馬を全力で走らせてもこんなに早くはあるまい。
精々鐘が一回鳴るかどうかという程度の時間しかたっていないはずだ。
しかし空の月の位置はほとんど変わっておらず、ダリアは自分の時間的感覚がおかしいわけではない事を確かめる。
そのまま地面に降りたダリア達は周囲を見回し、確かに此処が目印の廃村「プシェル村」であることを確認する。
「……流石に、ちょっとは片付いてるな」
言いながら、カナメは久しぶりにも感じるプシェル村を見回す。
焼け落ちた物も崩れた建物もそのままだが、転がっていた死体は全て片づけられたのか此処には無い。
更に奥に行けばドラゴンの骨が転がったままのはずだが、ひょっとするとそれも片づけられているだろうか?
少しだけほっとしたような……そんな気持ちを抱くカナメの横で、ダリアとルドガーは周囲を訝しげに見回す。
「……おかしいわね」
「ええ、妙です」
二人の言葉の意味が分からず、カナメも周囲を再度見回すが、おかしい場所など何処にもない。
だが二人は騎士……戦いのプロであるわけだし、カナメには分からないものが見えているのかもしれない。
そう考えたカナメは黙って二人を見ていたが……やがてルドガーが振り向き、カナメに「よろしいですか」と話しかけてくる。
「この二、三日の間に……この村に王国騎士団、あるいは自警団が向かうといったような話を聞いていますか?」
「え? いえ。あ、いや。聞いてないけど」
調査はこちらに向かっている王国騎士団が到着してからのはずだ……という話を聞いたのをカナメは思い出す。
だが、それがなんだというのだろうか。カナメがそれを聞くより前にルドガーは「そうですか」と言ってダリアに向き直り、再び難しい顔をする。
「……どういうことでしょう」
「私が知りたいわよ。まさかあいつ等がやったってわけでもないでしょうし」
「えっと、ごめん。俺状況がよく分からないんだけど」
流石に我慢できなくなったカナメがそう問いかけると、ダリアは「ああ、そうね」と言ってカナメに向き直る。
「簡単に言うと、この辺にあったはずの死体が全部消えてるのよ」
「え」
「王国の正式な調査を待たずして埋葬されるわけもないし、そうなると死体を持ち去るような何かがこの辺にいることになるってわけ。幾つか可能性はあるけど、あまり現実的でもないわ」
たとえば、ヴーンや
……となると、「有り得る可能性」は「今は起こり得ない」事になってしまう。
だからこそおかしいのであり……それ故にダリア達は頭を悩ませているのだ。
聞いていたカナメはドラゴンの鱗を回収したハインツの事が浮かぶが……ダリア達が死体を見ているのであればハインツがこの村で鱗の回収をした時点では死体は埋葬していなかったことになる。
それは少しばかり非人情的な気もするのだが、ダリアの今の言葉を聞く限りはそれが「普通」であるようだと考え口にするようなことはない。
「えっと……クシェルはどう思う?」
「確かに不可解な現象ではありますが、ダンジョンへ急いだほうが今の目的には沿っているかと」
カナメの問いかけにクシェルはそう答え、ダリアが小さく溜息をつく。
「……そのメイドナイトの言う通りね。先を急ぎましょう」
確かに、ダリアの目的からすれば「死体が消えた」ことは些末な事に過ぎない。
その謎を解くのは王国の仕事であって、帝国騎士のダリア達の仕事ではないのだから。
「急ぎましょ。ダンジョンは此処から徒歩で半日程度。カナメの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます