燃え盛る闇
森の奥深く、木々に囲まれた場所。
カナメ達が最初に居たプシェル村からは徒歩で半日ほどの距離に、その場所はあった。
突然地面が盛り上がってできたかのような、不可思議な穴。
硬質のつるりとした触感の何かで内側が覆われた、如何にも「入口です」といった風情のそれこそがダンジョンの出入り口だ。
その上部には入口が出来るまでそこに生えていたであろう木々がそのまま載っているが、実に驚くべきことにそれらは枯れる事も倒れる事もなくそこに在る。
大人よりもずっと大きいその高さからしてみれば、木の下には相応の大きさの根があるはずだというのに、ダンジョンの入口は木の根で覆われているわけではない。
まるでそこからどこか知らない場所に木の根が消え、そのまま問題なく木が木としての生命を維持しているかのようなその様子は、気付いてしまえば実に不気味な光景だ。
一体これはどういう理屈でこうなっているのか。
似たような事例は数あれど、それを解いた者は今まで居ない。
ダンジョンとはこうして、知らないうちに其処に突然できている。
そういうものである、としか分かっていないのだ。
ともかくこのダンジョンは此処に在り、その前には武装した騎士らしき男達が二人焚火を囲んで座っている。
この二人はクラートテルランと戦った帝国騎士達のうちの二人であり、今カナメ達と話している二人の仲間でもある。
まあ、つまり……ダンジョンの見張り役であり留守番役というわけだ。
適当に切り倒した木を椅子代わりにして干し芋を炙っていた二人だが……そのうちの一人が芋を火からどけると、ふうと息を吐きダンジョンの入り口に視線を向ける。
「町でならともかく、こんな場所で留守番とはな。羽目も外せやしねえ」
「町にいたって同じさ。むしろはぐれモンスター共が襲ってくる分暇潰しは出来るだろ?」
「それが面倒なんじゃねえかよ……なんでこんな場所で寝ずの番なんかしなきゃいけねえんだ」
二人の周囲には
「まあ、そう言うな。流石に今夜はもう来ないだろうし、それ食ったら寝ていいぞ」
「言われなくたってそうするっつーの」
焼いた干し芋の香ばしい香りも、何度も食べれば飽きた味でしかない。
しかも食べれば喉の乾くおまけつきで、水袋の水で喉を湿らせて深い溜息をつく。
「あーあ。ルドガーの奴、今頃リーダーと上手い飯でも食ってやがるんだろうなあ」
「僻むなよ。カードで負けたお前が悪い」
「僻んでねえよ」
そんな事を言い合いながら二人は干し芋を齧り……しかし、同時に何かに反応し立ち上がる。
「……おい」
「ああ。今の感覚……よく分からんが、突然出てきたぞ」
腰の剣を抜き放ち周囲を注意深く見回す二人の感覚に引っかかったものは、何かの気配。
それが一体何なのかは分からないままに、しかし「敵である」という前提に辺りの気配を探って。
二人の視線は、積み上げた
言葉を交わすまでもなく、二人はもう片方の手で腰の後ろから魔石のついた短杖を取り出す。
「
「
放たれる無数の氷の槍と、風の刃の群れ。それらは
そこから何かが飛び出してくるわけでもなければ、死んだ振りをしていた
なのにまだ、感じた気配が消えていない。
「……どういうことだ?」
「分からん。だが近づくなよ。今度はもっと大きな魔法で消し飛ばす」
「様子見ってか。初手で殺しにこねえのは、人間の悪いクセだな」
それは死体が燃えたからではなく……その燃える死体の山から、
「な、んだアレは……」
二人が言葉を失ったかのように見つめる中で、「それ」は次から次へと立ち上がり……そうなると、二人にも理解できてしまう。
あれは、死体の山が燃えているわけではない。
燃え盛る死体が寄り集まって、ああなっているのだと。
「死体が動く……
燃え盛るゴブリンの死体の肉が消え、骨に変わる。
まるで肉など不要というかのように「燃え盛る骨」となったその姿となって初めて、二人はその正しい姿を理解する。
それは、炎の肉を持つ
「こけおどしを……!
再び放った無数の氷の槍は炎の
……が、その骨の山を別の炎の
たとえば、腕が二倍の長さの炎の
たとえば、頭が三つある炎の
たとえば、胸の前にも手が生えている炎の
「嘘だろ……」
「現実だよ、帝国のクソ共が。俺が自殺して終わったとでも思ったか? あめぇんだよ」
炎の
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