ハイロジア王女との会談4
ダンジョン。それはカナメの考えた通り、国や地域における鉱山のような扱いである。
宝物や貴重な素材に各種の
ダンジョンを中心に資材と金が動き、ダンジョンから出てくる品々は富をもたらす。
こんな分かりやすく儲かる鉱山など他にあるはずもなく、管理さえ間違えなければ安全であると誰もが確信すらしている。
もっと言えば、領地を治める貴族は誰もが自分の領地にこそダンジョンを一つでも多く欲しいと願っているのだ。
そしてそれは王族にも同じことがいえる。ダンジョンの多さは強力な
はたして、そこは有望なダンジョンなのか。
一体どんな物が出るのか。
管理は万全か、有能な探索者はいるのか、コンタクトはとれているのか。
そして何より、他の国の動きはどうか。
折角自国で有望なダンジョンが見つかっても、他国の息のかかった探索者が活躍していては意味がない。
それを表立って止めるわけにもいかないが、そうなる前に自国の息のかかった探索者を送り込め……と、こうなるわけだ。
「それって、ダンジョンの入場に制限をかけるわけには……」
「明らかに入ったら死ぬなって人は止めるけど。それ以上は難しいし、やるわけにはいかないわ」
「え、どうして」
「こっちも他国に送り込むからよ。その辺はお互い分かってやってるの」
あまりにも反論しようのない答えにカナメは黙り込むが……そこでイリスが口を開く。
「で、そのダンジョンが今回発見されているわけですが。わざわざそういう話をするということは、管理面で何か問題が出る見込みがあるのですね?」
「見込みじゃなくて、今現在問題が出ているのよ」
ハイロジアの言葉に全員が疑問符を浮かべるが……すぐにハッとしたような顔になる。
「……帝国」
アリサの呟きに、誰かがゴクリと喉を鳴らす。
ダンジョンのある森は、帝国との国境を越えた先まで広がっている広大なものだ。
例のダンジョン自体は王国の領土の内側にあるはずだが、そのダンジョンが決壊したということで問題になる前に帝国側にも通知と協力要請を出している。
これは当然の措置であり、しかし形式上のものでもある。
「一応準備しておいてほしい。でも手を煩わせるつもりはないからよろしく」という暗黙の了解的なものであるわけだ。
「そうよ。「救援の為に緊急措置として国境を越えた」帝国の奴から、私宛にコンタクトがあったわ」
「救援の為にって……この町まで来てるなんて、明らかに違反行為ですわよっ!?」
立ち上がりかけたエリーゼをハイロジアは手の動きで落ち着けと制し、エリーゼは軽い咳ばらいをして座りなおす。
「拡大解釈になるけど、違反はしていないわ」
事の起こりは、ハイロジア王女がミーズに入ってから少し後の事。
この宿に拠点を定めたタイミングで、「使者」がやってきたのだという。
「明らかに町中に諜報員がいるけど、とりあえずそれはいいわ。ここで問題なのは、その報告の中身」
「どんな報告だったんですか?」
「まずはこちらの要請に伴う緊急入国をしたことに対する事後報告。それと……ダンジョンの確保報告よ」
発見ではなく確保。
それはダンジョンから新たにモンスターが出てこないようにある程度のダンジョン内のモンスターの退治を済ませ「通常状態」に戻したということを意味する。
つまり、これ以上の「決壊」によるモンスターの増加はないということであり……もっと言えば決壊が終了したということでもある。
「それは……いいことなんじゃないですか?」
「そうね、カナメ。確かに良い事よ。これ以上民は決壊の恐怖に悩まされずに済むのだから。私達としても帝国の迅速な対応に感謝するべき案件よ……余計な提案さえくっついていなければね」
帝国の使者は、こう言い放ったのだという。
今回の件は明らかに王国の管理責任。
されど帝国に被害があったわけではなく、その件で外交問題にする気はない。
しかし、だからといって今後も何かがないとは言えない。
互いの対応速度の点から言って、件のダンジョンは今後も帝国の管理としたほうが良いのではないか。
「な……それは侵略宣言ではありませんのっ」
「違うわ、あくまで「苦情」から発展した「提案」よ。しかも皇帝からの簡易的な交渉に関する権限委任の書状と、国境を引き直す事に伴う「代わりの土地」の提案までくっつけてきたわ」
荒地だけどね、とハイロジアは吐き捨てる。
要は帝国は今回の件を利用して新たなダンジョンを手に入れようとしているのだ。
帝国は迷惑をかけられた側だし、失敗した王国は信用できないから俺達にやらせろ……と、そういうスタンスなわけだ。
「でも、そんな政治的な話なら……」
「だから、なのよ。私としてはこれを政治的に大きな話に持っていくつもりはないの。この件は王国側の戦力によって迅速に解決できており、帝国の助力には感謝すれど提案の件を審議するには及ばず……こういう方向に持っていくのが、私の用意した答えよ」
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