作戦会議

「かしこまりました。カナメ様にご満足頂ける数かは分かりませんが、準備しておきましょう」

「ありがとうございます」


 アッサリと頷くハインツにカナメはほっとした顔でお礼を述べ……そこでアリサが「ちょっといいかな」と声を上げる。


「とりあえず騎士団の状況は大体分かった。冒険者ギルドに関しては、あてにできない。職員は支部長から副支部長、その他諸々重要メンバーは皆「出張」してるし、冒険者もほとんど商人の護衛とか個人の護衛になって逃亡してる。たぶん、シュルトさんも増援は連れて来られないだろうね」


 冒険者とは正義の味方ではない。

 どちらかといえば何でも屋とかトラブル解決屋にも似た職業であり、冒険者ギルドも営利組織である。

 元を正せば少々頭の回転のよかった冒険者が「そういう組織を作れば儲かるのでは」と考えて作ったものが冒険者ギルドであり、それが長年をかけて浸透し独占商売となった例である。

 ちなみに酒場などで依頼の斡旋をしていることもあるが、「冒険者は冒険者ギルド」というのがなんとなく暗黙の了解となっているのだ。

 ちなみに支部だの支部長だのとあるが、その経営形態はカナメの世界の常識に照らし合わせればフランチャイズに近いものがあるだろう。

 支部は基本的に独自採算であり、「冒険者ギルド」という実績と信用ある看板を掲げる権利を本部から貰っているわけだ。

 ちなみに地域によっては領主から治安維持のサービスの一環と見做され補助金をもらっている支部もあるが……そうした冒険者ギルドは大抵職員のやる気がなかったりする。


 で、まあ……営利商売である上に身体が資本の冒険者は、基本的に金にならない仕事は絶対にしない。

 自分の身体は金になる商売道具であり、使いたいなら金を払えというわけだ。

 だが、「侵攻」ともなればそうした「権利」よりも「義務」が優先され、「金などいらない。俺には正義があればいい」などというような英雄理論が正しいとされてしまう。

 勿論、それは人としては正しい。「そうあるべき」という理想の姿でもある。

 だが、それで一生戦えない怪我をしたところで誰も補償してくれないのだ。

 戦えない身体を抱えて一生薬草採りでもするような生活など、とてもではないが耐えられるものではない。

 大体の冒険者は物乞いになった自分の姿を想像するだけで自刃したくなるだろう。実際、そうする冒険者も多いという。

 だからこそ、冒険者はこういう事態になった時に逃げるのだ。

 それは決して責められるべきものではないし、責める人間は彼等に金を出してから文句を言うべきなのだ。


「まあ、そうでしょうね。町の人達もそんな空気を感じたのか、他の町に逃げようかという動きもあるようです」


 所謂、沈む船からネズミが逃げ出す理論だが……今からそういう話をしているようでは間に合いはしないだろう。


「で、それを踏まえた上で私達はどう動くのがいいかを考えないと。私達は英雄王とは違うんだから、単騎で敵の群れに突っ込めるほど強くはないよ?」

「そうですね。とりあえずカナメ様をどう守るかが作戦の肝になるのではないかと」

「え、俺?」

「そうだね」


 頷きあうハインツとアリサに、カナメは二人の顔を見比べる。

 弓の攻撃力を期待されているのは分かる、が。正面から言われてしまうとまだ戸惑うものがある。


「ドラゴンをも倒すカナメ様の弓はモンスターの群れに対しても有効な攻撃手段になります」

「そうだね。それにゼルフェクト神殿とかって連中もカナメとエリーゼは要注意と思ってるはず。たぶん、二人を狙ってくるとみていいんじゃないかな」

「問題ありません。私がお守りしましょう」


 イリスがそう言って自信満々に胸を張るのをエリーゼは疑わしそうに見るが、ハインツは頷いてみせる。


「そうですね。というよりも、私達は基本的に全員でカナメ様とお嬢様を守る布陣で良いと思われます」

「ぜ、全員?」

「まあ、妥当だね。一応自警団もいるし騎士団も素人が数人で勝手に戦列を乱すなとか言いそうだし」

「そういうことです。ちなみに自警団とは話をつけて、門の上に登る許可をとってあります」


 ミーズの町を覆う木の壁は砦でもあり、壁の上には道と壁が作られ、全周が見張り台のようになっているのである。

 各所に作られた物見小屋に見張り台と、とにかく「見張る」事に関しては完璧に近いものがある。


「え、でもそれって……俺が矢を撃っても文句つけてこないか?」

「結果を出せば文句を言いようがありません。「英雄」に文句をつけるほど彼等は民衆感情を無視できません」

「……うぅ」


 自分の弓にかなりの期待を寄せられている事にカナメはプレッシャーを感じるが、それを跳ね除けるようにカナメは気合を入れなおす。


「……分かった。なら俺は今からでも矢を作らなきゃな」

「では私は魔力薬と鱗を用意しましょう」

「私はそれを見届けます!」

「出ていきなさいな。カナメ様の秘儀ですわ」

「私はお風呂入ってから寝るよ。明日からは忙しくなりそーだしね」


 睨みあうイリスとエリーゼをそのままに部屋を出ていくアリサを見送りながら、カナメは力なく笑う。

 アリサみたいに「颯爽とカッコよく」は程遠いなあ……と。そんな事を考えながら。

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