襲撃2
何故自分の額に矢が刺さっているのか。
それを理解する暇もないまま、
ブンブンと玩具のように振っていた斧はその手からすっぽ抜け、背後を走っていた別の
「ギエ!?」
突然の衝撃にその
大きなハンマーが落下した衝撃は槍角イノシシの頭を割るには充分だったようで、槍角イノシシは
「
「
そして、少し遅れて完成したルードの魔法の火球が主人を落として走る槍角イノシシを火達磨にし、別の騎士の放った氷塊が残った一匹の
そうすると当然乗っていた
「……全周警戒! 他の伏兵が居ないか確認しろ!」
「私がやりますわ」
エリーゼはそう言うと、杖を軽く握って集中し索敵魔法を使う。
他の騎士達は気づかなかったようだが、ルードは索敵魔法にピクリと反応しエリーゼに視線を向ける。
「索敵魔法か……随分と高価な魔法を使う。どうだ、反応はあるか」
「ありませんわ。矢を放った奴は索敵が届かないほど遠くへ逃げたようですわね」
「フン、奴等の仲間意識などその程度ということだろうな」
ルードはそう言うと「全員、騎乗しろ!」と叫ぶ。
騎士達はガチャガチャと慌ただしく馬に乗り始め……全員が乗ったことを確認するとルードは号令をかけようとし……しかし、そこで喉に何か詰まったかのように黙り込み咳払いをする。
「……どうやら、少しは役に立つようだ。その調子で励むといい」
「努力させていただきます」
アリサはそう答えると内心で溜息をつきながら御者席に乗り込み、エリーゼから手綱を受け取る。
「……アレは認めてくれたってことでいいのかな」
「さあね。生意気なって思ってるかもしれないし。むしろ、そう考えといたほうが安心かな」
アリサの言葉に「そうなのか……」とカナメが呟いていると「出発!」というルードの声が響き馬車も再び動き始める。
「ま、人としてはともかく騎士としては信用できると思うよ」
「そうですわね」
本当に信用できない騎士であれば、冒険者を捨て駒にする。
一山幾らの道具程度にしか思っていないから、それが出来る。
しかし、ルードは最初からその手段をとっていない。
戦闘においても冒険者ではなく騎士を動かし、アリサ達には命令もしなければ頼ろうともしない。
それは、ルードがアリサ達を「冒険者」ではなく「一般人」と見ているからなのだろうとアリサは思う。
騎士にとって一般人とは守る対象であり、しかしアリサ達はシュルトの護衛を請け負った冒険者だ。
その辺りの妥協点が今の状態であるのだろう。
「ま、私は好きじゃないけど」
「はは……」
カナメが苦笑すると、背後の窓が再び開く。
「まあ、許してあげてくださいよ。彼、神官の護衛なんてものに回されて不機嫌なんです」
「え?」
「ほら、あの宿場町って言わば最前線で、戦場で……まあ、騎士の誉れが乱舞する場所でしょう? そこから一時的とはいえ、外されて神官の護衛ですからね。いわば「いつかの戦い」で一人だけ飯炊き班に回される心境といいましょうか」
必要ないとは言わないし必然性も理解できるが、「俺がしたかったのはこれじゃない」的な心情だろうかとカナメは思い頷く。
まあ、理解できないことはないのだが……アリサとエリーゼは微妙な顔だ。
「……仲間外れにされた子供だね」
「態度に出す時点で騎士としては未熟ですし、たぶんいつも「ああ」ですわよ」
「うわー、女性は評価厳しいなー」
たはは、と笑うシュルトは「どう思います、カナメ君」などと声をかけてくるが、カナメとしては二人のそんな感想の後ではなんとも意見を言いにくい。
「え、えーと……まあ、気持ちは分からないでもないといいますか」
「ダメだよカナメ、そんなんじゃ」
「あら。私はそんな優しいカナメ様も素敵だと思いますわ」
アリサにダメ出しをされ、エリーゼにフォローされて。
どう反応したらいいか正解を見いだせず適当な笑いを浮かべると、アリサにぺしっと軽く叩かれる。
「な、何すんだよ」
「それもダメ。笑って誤魔化すのは、癖になるよ。表に出すか出さないかはさておいて、自分の結論はいつもしっかり持たないと」
「うっ」
見透かされていたと気付きカナメは黙り込むが、同時に恥ずかしい気持ちも湧き上がってくる。
確かに「笑って誤魔化す」というのは結論をうやむやにする常套手段であるし、あまり良い事ではないだろう。
それが癖になってしまったなら……それこそ、いざという時に「笑うしかできない」人間になってしまうかもしれない。
「……カナメ様?」
黙ってしまったカナメをエリーゼは気遣わしそうに見るが、カナメは自分の頭を自分でコツンと叩き顔をあげる。
「ありがとう。アリサの言うとおりだ」
「別にお礼なんかいいよ。これは単なる「私の意見」だもの」
「それでも、ありがとう」
ゴトゴトと揺れる馬車の上で、カナメのそんな言葉が響いて。
少しだけ照れたように、アリサが「うん」と答える。
……そして、それ以降は特に何事もなく。
一行は、無事にミーズの町へと到着したのであった。
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