週末提督の閃撃艦隊《エクスフリート》
ながやん
第1話「プロローグ」
春、
短い春休みの終わりを前に、街は鮮やかに色付き始める。
そんな中、
高校二年生への進級を控える七海は、知っていた。
春は出会いと別れの季節。
そして、今の自分が直面するのは後者だ。
「ごめんなさい、七海さん。どうしても、お話したくて」
夕日を浴びて
あまりにも現実離れした容姿は、美少女という形容すらも物足りない美しさだった。
「いや、大丈夫だよ。でも、どうして?」
「どうして、とは」
「家じゃ、駄目なのかなと思って」
その少女の名は、トゥアンナ・レキシントン。
詳しくは知らないが、外国から来た
そして、その時間が終わろうとしていた。
「もう、学校に来るのも最後だから……わたくしのわがままですわ」
「……
「ええ。だから……七海さんにはちゃんとお別れを言いたくて」
トゥアンナは笑っている。
それは、長らく日常を共にした笑顔ではなかった。
悲しみや喜び、そうした気持ちのずっと向こう側……年頃の乙女が浮かべるには、とても残酷にさえ思える
突然、トゥアンナが遠くなってしまった、そんな気がした。
そして実際、もう遠くへ行ってしまう。
だが、七海にそれを引き止める権利はない。
「七海さん、今までわたくしと仲良くして下さって、ありがとうございます」
「いや、そんな……
「ええ、とても」
「手紙、書くよ。電話もする」
「……ごめんなさい。とても、嬉しいですわ。けど……わたくしの国は遠過ぎるから」
七海はトゥアンナの生まれた国を知らない。
彼女達双子の姉妹は、一度も故郷のことを語ったことがなかった。
「姉様のこと、よろしくお願いしますわ」
「ああ。彼女は残るんだよね」
「はい。姉様は……姉様だけは、巻き込みたくないから」
遠くで、野球部のランニングが聴こえる。息を合わせて掛け声を
徐々に
真っ直ぐ、七海を見詰めてくる。
とても強い輝きを
「七海さん、お別れです……できれば、わたくしの
「……艦?」
「いいえ、それは
それは妙な会話だった。
七海は、
でも、トゥアンナの望むことは痛い程に伝わってきた。
だから、気持ちを
「任せて、トゥアンナ。忘れたのかい? 僕達はいつも三人だった。いつでも、そしていつまでもね。約束、覚えてる?」
「ええ……いつでも三人は、お互いに助け合う。いかなる時も、支え合う」
「それは僕の
言葉にできぬ胸騒ぎが、思考を挟まぬ声になった。
「トゥアンナ、一つ聞いていいかな? ……急な帰国、だよね」
「ええ」
「手紙も電話も届かない場所、か。何だろう……少し不安かな。だって、今のトゥアンナもそういう顔をしているから」
「わたくしが、ですか?」
「うん。多分、僕と一緒さ。怖い、のかな? 何かが。だから、あの約束を果たすよ。君を、守る。だから、言って……君の心配の原因を教えてよ」
その時、その瞬間だった。
それは、いつもの見慣れたトゥアンナの表情と
だが、すぐに彼女は仮面を
「……いけませんわ、七海さん。ふふ、だって」
そして七海は、我が耳を疑った。
同時に、その言葉に
直感がトゥアンナという人間の全てから、疑いようのない真実の確証を引き出していた。
「だって……これからわたくし、戦争ですもの」
――戦争。
確かに彼女はそう言った。
そして、それが彼女の学校での最後の言葉になった。
二年生へと進級することなく、トゥアンナは故郷へと去った。
最後まで七海を安心させようとする笑顔が、どこか切なくて胸に残る。その理由としては、戦争という言葉はあまりにも物騒で、奇妙な説得力を抱かせた。
全く
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