第2話

「揚羽っ」

「胡蝶か。私達、失業したな」

 揚羽は私の家に勢いよく入ってきた。それも当然のことだろう。だって私たちは失業したのだから。私たちはつい一時間前までは紙本作家だった。

「よく冷静でいられるね」

「冷静じゃない」

 そうこれでも、私は焦っている。何せ急に失業に追いやられたのだから。

「それで冷静じゃないのってさすがだね」

「うるさい。でも、これからどうするか決めるしかないでしょ」

 そう。忌々しいつい一時間前に成立した法律のせいで私たちはもう本で稼ぐことは出来なくなってしまった。

「あの忌々しい法律をなくすしかないでしょ。私達は紙本を守んなきゃいけない。このままじゃ紙本はなくなってしまう」

 私たちはこのネット社会に残ったたった二人の紙本家。タブレット端末化に伴い、紙から作られた存在のある本を紙本と呼び、電子書籍のことを単純に本と呼ぶようになった。

「で、どうやるの」

「それは……」

「あのステラ様が決めた法律なんだよ。覆されるわけがないでしょ」

 ステラ様は私たちの国の英雄。貧困層問題で困っていた政府に代わって、一瞬で問題を解決した男。今では政府をたった一つの問題も解決できない無能な手段として解散させ、自分が国政を握るようになっている。彼は、二十五歳とまだまだ若く、彼が国政を握ったときは、富裕層から多くの批判があった。が、今ではそんな人々も納得している。

「確かにな」

「私たち、のたれ死んじゃうってこと」

「お前はともかく私は貯金がある。しばらくは何とかなるだろう」

「え……ねえ、助けていただけないでございましょうか……」

 また……スランプになったときも知人に金を貸して自分の食費が足りなくなったときも頼って。今まで私には仕事があった。だが今は違う。いくら無二の親友だからと言って助けるわけにはいかない。

「無理。早く帰って」

「そんな……ひどいよ」

「ほら、早く」

 私は胡蝶の背中を押して、家から追い出した。貯金があるとは言ったものの、あの法律が無くならない限り私の収入はゼロ。明日からどうしよう……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る