魔法『少女』だった頃⑦ 〜どっちが強いんだろうな〜
「タン、タン、タン♪」
影が一つ消える。
「タン、タン♪」
影が二つ消える。
その様子を目で捉える度に、みくりに纏まりつく熱は膨張していく。いくら生み出しても、いくら熱くしても、目の前の壊れた仲間には効果が薄い。次第に思考の時間が長くなっていた。
佳珠を失い、優香が壊れてから数ヶ月。ようやく全員が違和感を取り払うことが出来た頃、七海は優香に訓練に参加するように言った。コアの損傷もあり、ずっと個人練を命じられていた優香はみくりとの試合で復帰を遂げる。
それが、以前とは真逆の一方的な流れになったのは誰もが驚いていた。
「【アポロンフール】」
時間稼ぎにしかならないとわかりながら、みくりは再び黒炎の擬人を生み出す。半自律型召喚魔法はあたしのゴーレムと似た動きで優香に襲いかかるも、彼女が時を止めると一度に五体から十体が霧のように消えていく。以前は止めた時の中でも熱は変わらないと言っていたが、恐らくそれに対応した新魔法を編み出している。それも、彼女にしかわからないことで打つ手がない。
「優香! 今で半分くらいだからね!」
「わかるわかるよ七海♪ せっかく楽しくなってきたけどそろそろ終わりかな? 終わりだね!」
七海が口を挟み、優香はのらりくらいの戦い方から前傾姿勢に切り替わる。
七海いわく、優香の魔力コアはひび割れた状態で今以上の成長はありえないらしい。魔法少女が魔力切れを起こすと軽い目眩や身体のだるさ、人によっては眠気が襲うものだけど、優香の場合は症状が酷い。全身を襲う強烈な痛みに立つことすらままならず、しかも回復も異常なまでに遅いときたものだ。強大な力でも、これからまたチームとして復帰するのであれば魔力コントロールを完璧にしなければならない。
「さぁみくみく! 行くよ構えてホームランだい!」
「…………はぁ」
優香のテンションが最高潮に達する時、みくりのテンションは地の底まで落ちていた。つまり、お互いに最大出力だ。
みくりの鉄羽が完全に黒炎に呑まれ、唸るように周囲が熱を上げる。その形状が禍々しく地を焼き空を刺す様子は、まるで炎の神が顕現しているかのような威圧感。
みくりの両腕を大きく広げ、今にも大魔法が放たれようとした時、優香も同時に魔法を唱える。
「【ヘルノーツ・ファルコ】……」
「【アンコール・フェス】♪」
みくりが七海を海の底に沈めた最大魔法。巨大な漆黒のフェニックスとなっての突進だ。この技は炎属性でありながらあたしの消滅魔法に匹敵するほどの高威力。優香の次元割りでも崩せるか怪しいほどの魔法なのだが、彼女は最も攻撃力の高い次元割りを使わなかった。
何だこの魔法は……。
優香の目の前に、アフターパーティとは違う魔力空間が発生する。それは妹の仙見とよく似た翡翠色をしていた。
そこに正面から突っ込んできたみくり。持ち前の魔力量でゴリ押しをするつもりだろう。攻撃手段がことごとく潰された彼女も後がないのだから。
「……ん?」
「「「え?」」」
みくりの疑問の声に合わせるように見学組もまた声を出す。優香だけが何が起きたのかを理解してニヤリと笑っていた。
優香の魔力空間に飛び込んだ瞬間、みくりの魔法は解除されてしまった。それも奇妙なことに、打ち消したのではなくてみくりの中に戻っていくような動きだ。
何にせよ、優香の射程圏内で炎を消してしまったみくりは無防備そのもの。次の魔法を唱える間も無くスパナでの寸止めを食らい、風圧で後ろにコロコロと転がっていった。
「そこまで!」
致命傷を与えられるモーションが成功した途端、試合は終了する。七海のよく通る声が二人を止めて、優香の勝利を宣言した。
「どうなってんだこれ?」
「みく、元気になってるわねぇ」
三人でみくりを囲むようにして状態を確認すると、みくりは照れくさそうに下を向いてしまった。最後の攻撃を仕掛ける前に死にそうなほどダルい顔をしていたのに、その時よりも血色が良くなっている気がする。
はははっ、と笑いながら近寄ってきた優香は、謎の新魔法について悠々と語りだした。
「凄いだろーこれ! 今までの戦い方の常識が覆るってもんだよそうだろ? そうだよ!」
「確かに魔法無効化は強いな」
「えぇ!? 横から見ててそれだけしか分からなかったの!? 驚きを通り越して腰が抜けちゃうよまったくもー!」
「…………時間、戻した」
「え?」
ボソッと呟くみくりは、手を握っては広げて自分の体を確かめる。その言葉で、全員がその有り得ない効果に勘づいてしまった。
「魔力……回復させたの?」
「ノンノン七海回復じゃなくて『戻した』が正解だよね。ただ回復させるなら魔力はあんな動きにはならないだろ? そうだろ? 魔法を使う前の状態に巻き戻す魔法だから無効化のような動きをするのさ!」
「いや、だとするとさ。戻すスピードが速すぎるぜ? それに実質あたしらは魔力切れから無縁になっちまうじゃねぇか」
「ふっふっふ、その通りさあかりん! 物質を戻すわけじゃないからアフターパーティーより何倍も速く魔力を戻せる! ま、回数制限はあるけど気にしない気にしない!」
「やばぁ〜」
大威張りで腰に手を当てる優香。だが、そうして然るべき力を手にしていた。
神器によって元々高い攻撃力を保有していたのに、魔力体力と完璧な回復もこなせてしまう万能型の極地。タイマンでも集団戦でも隙のない彼女を止められる奴なんてもういない。
たぶん、あたし以外には。
「優香、あたしと全力でやらねえか?」
「あかりんねぇ〜そうだよねそうくるよね〜残ってるのキミだけだもんね?」
貼り付けた笑顔だが、優香の目は全く笑っていない。
確かに優香はある意味で最強を名乗れるほど強くなっていた。しかし、あたしだって優香の抜けていた間ずっとチームの要として戦ってきたんだ。負けるつもりは毛頭ない。
思えば、優香とはずっと小競り合いばかりしてきたけど、本気でぶつかったことは一度としてない。遅過ぎるタイミングにはなってしまったけど、あたしはいつだって優香をライバルとして見ていたのだ。
「回復してからでいいかな? いいよね?」
「もちろん」
優香の魔力が全快した後、あたし達は初めて全力でぶつかった。あたしの消滅魔法によって時間を操る空間を完封された優香は、それでも巧みな立ち回りで恐ろしいほど接戦を強いられてしまった。結果、優香の魔力が危険な域に達してしまい時間切れ。引き分けとなる。その頃には、どちらもボロボロで立っていられない状態であった。
この模擬戦を機に、あたしと優香は同立で最強の魔法少女となる。まもなくして、魔界から覇王を名乗る悪魔がやって来てそれを向かい打ち、一時の平和を手にしたのだが、それはまた別の話である。
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