第三十一話 圧倒的黒歴史
「あ……」
「……えと、おはよう、美空ちゃん」
「ん、おはよ」
冬休みを明日に控えた終業式の朝。何となく一人で登校したくて一時間も早く出発したのに、偶然いつもの場所で愛と出くわしてしまった。
お互いが気まずくて上手く目も合わせることが出来ず、ぎこちない挨拶をした後は黙って横に並ぶ。原因はあの時の戦闘後にした仲直りの話し合い。思い出しただけでも恥ずかしくて頬が熱くなる。
あかりを交えての話し合いは、みんなが解散した広い公園のベンチでする事になった。通り雨は過ぎ去り、風利が乾かしたベンチは少し生暖かくて何とも居心地が悪くて堪らなかった。
あたしを真ん中に両側に愛とあかり。あかりは一緒にいたのにほとんど喋らず、あくまであたし達で仲直りしなさいといった姿勢だ。詰まるところ夜間外出の保護者。ずっとコーヒー片手に星空を眺めていた。
「私が抜けるって話……」
長い沈黙を解いたのは愛。というか、今回は愛の気持ちを聞くという目的でここにいるのだからそれもそうなのだけど。
愛はもじもじと恥ずかしそうな嫌そうなどっちとつかない仕草で言葉を続けた。
「ちょっと考える、って言うか……」
「……ほんと?」
「えっと、何か不安とか、んん、気持ちが一緒だってわかって……」
「??」
取り留めがない。つまりどういう事だろう。
「あかりさん……」
「え、そこであたしに投げんの?」
「だって……」
「いや、いいけどさ」
いきなり話を振られたあかりは、少し頭の中を整理してから愛の気持ちを代弁し始める。
「あんまり詳しく知らないけど、愛がお前らのチーム抜けるって言ったんだっけ? まぁそれは絶対無いってことだ」
「ど、どういうこと?」
「前に美空に魔法少女として生きていく話ししたの覚えてるか? ほら、何を守りたいだとか」
「そそそその話は今いいわよ!!」
戦いのさなか本人に向かって『あなたを守るのがあたしの根源』みたいな超恥ずかしい告白までしてしまったのに、それを掘り返されては光の速度で帰りたくなる。いや、雷の速度で。
「で、それって愛とか風利とも話してんだ。あの時はお前らがどんな性格なのかもイマイチ分かってなかったから、面談みたいな?」
「そうだったのね」
「愛の答えを簡潔に言うと『突っ走りがちな美空を支えられるような心の強い魔法少女』。大元の信念がお前の隣にいたいってわけだよ。そりゃ抜けられるわけないよな」
「は……へ?」
「美空、お前が愛を弱いだのなんだの煽って愛が暴走したんだって? 愛からすれば支えたい相手から存在理由を傷つけられたんだから流石にキレるだろ。どんどん力も離されてく焦りもあっただろうし、綺麗にトドメを刺したって事だ」
「…………」
つまり、あたし達はお互いを守りたいって宣言してたってことだ。
それって……それってもはや……。
「両想いで痴話喧嘩とか仲良いな」
「あぁああああああああああ!!!!」
なんだこれなんだこれ!!
ヤバいくらい恥ずかしい!!
やめて愛!! ほっぺ赤くして黙りこまないで!!
「ああああなたそんなこと一度も言ってないじゃない!!」
「言えるわけないもん!! 美空ちゃんだって何にも言わないで私のこと弱い弱いって馬鹿にしてたし!!」
「してないし!! あたしが一番強いって言ったけど愛が弱いなんて全然!! ほとんど!! 少ししか言ってない!! と思う!!」
「言ったのー!!」
「言ってないー!!」
二人の胸の内を二人とも知ったせいで変なテンションになってきた。手汗が止まらない。
そこまではまだマシだった。お互い声を荒らげながら話があっちへこっちへしてるうちに、この後エラい問答が始まってしまう。
「愛は普段大人しいしあたしの前ではずっとニコニコしててそれが何だか可愛いって思ったから守るって決めただけよ!!」
「美空ちゃんの方が可愛いもん!! 前しか見えてないのに出来ますアピールするすまし顔のわんちゃんみたいで時々自信満々に変なこと口走るからちゃんと横にいて支えたいなってなったの!!」
「あたしの方が愛のこと守りたい!!」
「私の方が支えたいの!!」
何を口走っているのだろう。
最終的にどっちが相手の事を好きかをお互いが聞き出す言い争いが始まってしまい……。
「お前ら……チューでもすんのか?」
「「しない!!」」
見るに見かねたあかりが終わりどころを作ってくれて何とか収まって強制で帰ることになった。
そんな告白大会の後では、ぎこちなくなるに決まってる。どんな顔してどんな話をすればいいかわからない。前にあかりが言った『お前愛のこと好き過ぎるだろ』が鏡になって跳ね返っている気分だ。
だって愛も、その、あたしの事……あぁ。
「美空ちゃん、冬休み何するの?」
「へ? あ、あたしは〜、訓練とか?」
ここで一歩踏み出してくる勇気すごっ! 神器出てないわよね? く、訓練って答えるのも今や恥ずかしい。強くなる理由バレてるから何だか『君を守るために強くなるよ』って言ってるみたいでもうやだ帰りたい!
多分愛はそんな風に受け止めていないのだろう。感心するように少し声を上げて別の話を持ち出してきた。
「あのね、訓練はもちろん私もするんだけど、たまにはあかりさんにお休み貰って遊びに行かない? ほら、隣町に大きなイルミネーションがあるみたいだから行ってみたくて」
「遊びね……うん、たまにはいいかもね」
デートのお誘いかしらぁ!?
あたしはもう駄目なのかもしれない。一発殴られて正常に戻るなら十発は殴られたい。
愛はふわっとタンポポのように笑うと、両手を合わせて喜んだ。
「良かったぁ。じゃあみんなで行こうね」
「み、みんな?」
「うん、風利ちゃんとイブちゃん。それに雪ちゃんも来てくれるって行ってたからみんなで遊ぼうね」
「……いいわね」
デートじゃなかった……。何を期待してるのだあたしは。病気かしら?
こんな(あたしだけ)歪んでしまった結末を迎えたチーム【THE ONE】は比較的平穏に冬休みを迎えた。
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