第二十六話 むしろどうやって気付いたのよ?
あの事件以降、優香は少しだけ優しくなった。戦闘で失敗すれば相変わらずゴミ屑のように言われるものの、普段顔を突き合わせると割とまともに接してくれる。命を救われた感謝もあってか、あたし達三人も優香に対して心を開きつつあった。
そんなある日、優香の家で魔法少女についての座学が執り行われることになったのだが……。
「えぇ!? 自分が使ってる神器についてなんっっっにも知らないのかい!? 」
「いや、そんなに驚かなくても」
「驚かずにはいられない! あぁ、やっぱりキミ達はまだまだぴよぴよガールズだよ全く恥ずかしいったらありゃしない」
動かない時計だらけの散らかった部屋の中。神器の有効活用の話をするはずが、あたし達は誰も神器の名前すら知らなくていきなり弄られ倒している。だいたい、どうやって突然降ってきた刃物の名前を知ると言うのだ。
「普通、手にした時に分かりそうなもんなのに……」
「だからどうやってよ!!」
「仕方ないなぁボクが代わりに見てあげるよ。お手本を見せるから今後は自分たちでやりなよ?」
「え、他人でも分かるの?」
「魔法少女ならね。早く神器出す出す」
優香が急かすものだから、あたし達三人はそれぞれの神器を召喚して順番に優香に渡していく。
「まずは雷大鎌からだね。まずこうして神器に寄り添いながら心を開く……」
「んっ……」
優香が大鎌に触れ魔力を這わせた途端、あたしは身体の中を優しく撫でられような心地よさと恥ずかしさを感じた。
なんだこれ……。
「語りかけるように、それと一つなる……」
「んひっ……!」
「うるさいぞ美空ちん? 少し静かにして」
「だって……んぅう……」
心が丸裸にされているような感覚。気持ちいいのに気持ち悪いよく分からない恥ずかしい!
「よし終わり」
「ふぅ……ふぅ……」
「自分でやらないからそうなるんだよ馬鹿だねぇ?」
「……うるさい」
「さ、後の二人もまとめてやっちゃうね?」
あたしの大鎌を手放し、愛の槍と風利の短刀を抱き抱えた。
「あ、あっ、ふぁああ何これぇ!」
「……ひぐぅ……っ! く、くすぐったいぃ」
二人もあたしと同じく心の中を弄り回されているようだ。これは自分ですることを覚えないと大変危険だ。たまったもんじゃないもの。
「よしよし、じゃあアイアイちゃんから順番に発表しちゃおっかなぁ!」
優香は全ての神器を手放すと、どこからか小さなホワイトボードを取り出してペンを走らせた。
「まず槍だけど、名前は『護宝アマンダ』。って言うみたいだね。守りの魔法が得意みたいだよ? 特殊能力は精神を安定させたり集中力を上げるってとこかな?」
「アマンダ……特殊能力って何ですか?」
「うぇ、そこからかい……特殊能力ってのは、神器それぞれに付与されている個別のスキルさ。あかりは『魔力増強』。ボクは『物理攻撃増強』みたいに全員が色んな力を持ってるんだよ。一人一つって訳でも無いね」
「おぉ、すごい! 私のは戦いに使えるんですか?」
「結構やべーでしょこれ? どんなピンチでも落ち着いて考えられるなんてそんな奴はいないからね。ブレイン向けの……まぁいいか。次〜」
つまり、リーダー向けの能力ってわけね。打ち解けてきてもまだ愛のことをリーダーと認めたくはないようだ。
続いての発表は風利だ。
「ニンジャーの忍者刀の名前は『龍宝フェンリル』。能力は魔力を完全に消せる事と、神器の形をどんな武器にでも変えられるみたいだね? そう言えば初めはクナイだったって?」
「……うん。刀がいいって思ったら刀になってた」
「自然に使いこなしていたタイプもなかなか稀ってもんだよやるじゃんニンジャー?」
「……へへ」
滅多に褒められないからか、風利は随分嬉しそうな顔をしている。いや、神器の名前が気に入ったのかな? 風利はたまに男の子みたいな感性を見せるからなぁ。
いよいよあたしの番だ。なんだかワクワクしてしまっている自分がいて、まだまだ大人になれないなと笑ってしまう。
「名前は『我宝 リンドローグ』。能力は……ぷふっ!」
「な、なんで笑うのよ!」
「ううん、え〜能力は! 『自我の強さに比例して成長速度が変化します』」
「…………どういうことよ?」
「ワガママな方が強いってさ。キミにピッタリだよね? ぷふふっ!」
「どういうことよ!!」
優香どころか神器にすら馬鹿にされてる!!
愛と風利にも何か心当たりがあるのか、我慢出来ず笑いだしていた。
「愛!! 風利!! 笑うんじゃないわよ!!」
「あはは! だって美空ちゃん我が強いもんね? 今も一番強いんだからそれってつまり……あははは!」
「……んくくっ、わがまま姫がご乱心よーくくくくっ!」
なんて辱め! 二人とも絶交してやる!
「はぁ〜おかしいおかしい。ただ、この能力笑えないほどハイスキルなんだよね?」
「馬鹿にされてる……」
「違う違うよお姫様ガール? よく考えてみなよ魔力増強も物理増強もつまりはただのドーピングでそこから最大値が上がる割合なんて緩やかなもんだ。成長に影響してしまうってのは、全ての能力を異常な速度で強く出来てしまう言わばボクらの上位互換って取ればいいのさ? 一度追い付かれれば誰もキミに着いて行けなくなるのわかる?」
「……難しいこと言わないで」
「あっはっは! ごめんごめんそう言えばまだ小学生だったね? とりあえずボクでも羨ましいってことさ!」
なんだか理解力の低い駄目な子扱いされた気がする。仕方ないじゃない勉強は別に得意ってほどじゃないし好きでもないんだから。
「んーお腹減ったね減ってない?」
「なによ突然。まぁ減ってるけど」
「たまにはお姉さんとランチでもどうだい後輩達! 寿司でも肉でも好きな物食べさせてあげようボクはお金持ちだからね?」
「そうなの? お金持ちのイメージとは程遠いように見えるわ」
「歯に衣着せぬマン! ふふん聞いて驚け凡人諸君ボクは世界レベルの一流職人だからあかりん達とはレベルが違うのだよレベルが? ネットで調べたらすぐ出てくるのさ調べてミソラシド♪」
あたしの頬にグイグイと携帯を押し付けてこられては断りようもない。仕方なしにと名前を打ち込んでみると、優香の言葉通り検索の一番上にダブルピースの写真付きで出てきてしまった。
「『稀代の天才』『デザインの既成概念を突き抜けた未来の先駆者』……これ自分で書き込んだんじゃない?」
「美空ちゃん本当に物怖じしないね」
「だって優香よ? 普段なんてお風呂にアヒル浮かべてそうな感じじゃない」
「分からなくもないけど……」
コソコソと愛と話すあたしを見て、優香は珍しく不機嫌に頬を膨らませて席を立つ。すぐに戻ってきたかと思うとその手には黄色い何かが握られていた。
「アヒルじゃなくてヒヨコだし!」
「どっちでもいいわよ!!」
そのやり取りを最後に、あたし達は速やかに外出した。
「ちょっと待って」
「ん?」
「本当にここに入るつもり?」
電車に乗って大きな駅に来たかと思うと、豪華絢爛という言葉が似合い過ぎるキラキラした店構えの建物へと連れてこられた。テレビで何度も見たことがある世の有名人御用達の有名店だったはず。
「ちょっと安っぽ過ぎたかな?」
「あたし達普通の小学生なのよ!? こんなとこ入っても追い出されちゃう!」
「あははっ発想が子供だなぁ? お金あるとこ見たいのかと思って?」
「ファミレスでいいわよ! 見て! 風利なんて入口の空気でお腹壊しちゃってるから!」
極一般家庭のあたしと愛ですら冷や汗だらけなのに、いつもギリギリでご飯の心配をするほどの家庭で育った風利はもはや嘔吐いてしまっていた。身の丈に合わなすぎて中に入ると気絶するかもしれない。
「ワガママはこんなところでも発揮するんだね?」
「神器の煽りはやめなさい」
「はいはいじゃあそっちのファミレス行こうかせっかくブラックカード持ってきたのにぃ」
「ブラック?」
「クレジットだよこれこれ」
優香は胸ポケットから裸のカードを取り出した。確かに色は黒いけどそれがなんだと言うのだろう。そもそもクレジットってのがよく分からない。
「これがお金になるの?」
「……まぁ子供にはわからないか。んーとね、なんとこのカード見せれば一人で三千円くらい食べてもいいのさー!」
「す、すごい!!」
ファミレスで三千円も食べたことない。そんな魔法みたいなカード持ってるなんてやっぱり優香はお金持ちなんだ。
「反応が可愛いなぁ♪ キミ達の家もそろそろお金持ちになってるはずなのにね?」
「え、なんで?」
「だって魔法少女は国から……あそっか、そう言えば家とかバレないようにしてるんだっけ? まぁ正しい判断だよねぇ」
「??」
今日の優香は本当にわからないことばかり口走る。もう一回一回詮索するのも疲れてきた。
悪魔も出なくて訓練もない久しぶりにゆっくりしたこの日は、みんなでドリンクバーで遊んで楽しく過ごした。不味いドリンク選手権の優勝は優香が作り出したオロナミンタバスコ紅茶。結局こっちでもお腹を下した風利がオチをつけてくれた。
「……残すの良くない……うぅ……」
彼女が『下痢忍者』と呼ばれるようになったのは後の話である。
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