異世界でも仁義を忘れる訳にはいかない
一文字たこはち
第1話 Daily Works
本当にこの街はごみごみしている。
今にも死にそうなホームレスと、とても食えたもんじゃない不衛生な飲食店と、その手の団体の事務所で溢れかえっている。
俺も、その"ごみ"の一人だ。この街に事務所を置く暴力団
『春江組』
の構成員だ。
すれ違う奴らは皆目が死んでいる。
この街の雰囲気そもそもが死んでいる。
そんなことをぼんやり考えているうちに今日の仕事場についた。今日は兄貴達と借金の徴収をしていた。
今日訪問するのはこの地区でも屈指のボロアパートの一室。俺もここに来るのは今日で3度目だ。
兄貴が乱暴に扉を叩く。
「笹山さん?後藤ですわ。約束通り2週間待ちましたよ。借りたもん、返してもらいますよ!!」
しかし反応はない。
ちなみに兄貴は後藤などという名前ではない。本名は 鯖江 だ。
俺達は仕事のときいつも決まった偽名を使っていた。
俺も野川と名乗っているが本名は 敦賀 だ。
「居るのはわかってんだ!出てこんかい!ええ加減にせんと内臓売り払ってしまうぞ!」
俺の同期の丸岡が追い打ちをかけ、弟分の高岡が扉に蹴りを入れた。
やっとの事で扉が開いた。
「あぁ、…ど、どうも後藤さん…その、お…お金のことなんですけど…っ」
笹山がやっと出てきた。
そしてここで俺の出番
「笹山ちゃ〜ん。お金の事がどうしたんだい?まさか…無いなんて言わないよね?」
と少し圧をかけてみる。
笹山がオロオロし始める。
「は、ははっ…いや、まいったな」
顔に無いと書いてあるようだった。
「じゃあ、笹山ちゃん。肝臓、売ろうか!」
というと笹山が 待ってくれ!
などと甘ったれたことを言うもんだから笹山の腕を引っ張ってそのまま事務所に連れて行くことにした。
が、
「明後日…明後日に一つ仕事が入ったんだ!その金を事務所に渡しに行くからさ!だからお願いします!野川さん!」
しかたなく笹山を開放して明後日に絶対事務所に来るように釘をさした。
そして俺達はアパートをあとにした。
「明後日事務所に来なかったらどうしやす?」
と兄貴に聞いてみたところ
「バラす」
と返ってきた。確かに一応バラして内臓を海外に売れば笹山分の金にはなる。
事務所に近づいたところで高岡の同期、つまり俺からしたら弟分の米原に会った。彼は8歳くらいの男の子を連れていた。
「米原、お前さんそのガキ誰や?」
と丸岡が尋ねると
「わしにもわからんのですわ。いきなり事務所に来たさかい。あそこにガキがおるのもあれやおもったんで外に連れ出してたところですわ。」
と米原が答えた。
ここからは丸岡の質問攻めだった。
「自分、名前わかるか?」
少年は無反応
「おとんやおかんはどないした?」
やはり少年は無反応
「わしらのとこに何しにきたん?」
と聞いた瞬間、
俺達は眩い光に包まれた。
異世界でも仁義を忘れる訳にはいかない 一文字たこはち @taco8
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