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「お待たせいたしました。チキンのローズマリーソテー、ペスト・ジェノヴェーゼ、フレッシュタイムサラダ、ミントティーになります」

「どうも」

 ガーデン向けに作られたカウンター席に座った俺の前に、ドドン、と料理が並べられる。本当は【シェフおすすめのミックス香草パン粉焼き】とか【アサリのレモングラススープ】とか他にもいっぱい頼みたい料理があったが、一人では食べきれないので断念した。

 今日訪れていたのはハーブ料理専門のカフェだ。ドリンク、フード、デザートまでほとんどのメニューにハーブが使われている。しかもハーブは全て自家製。

「うま」

 ド平日にもかかわらずほぼ満席の店内に男の客は自分しかいない。が、そんなことは気にしない。次々と料理を口に運んで行った。どれもこれもハーブが効いていて美味い。そりゃハーブ専門店だからってのもあるけど、今まで食べたハーブ料理とは確実に一線を画している。ハーブ一つ一つを正確に丁寧に料理していると言うか、ハーブがあるからこそ食材が際立ち、さらにハーブも主役になっていると言うか。本物のハーブ料理、ハーブの事を本当の意味で知っているからこそ出せる味、と言った感じだ。 

 俺もこんな風に酒を作れたら。

 どんなにいいだろうと思う。本物に出会えた時、いつもそう思う。まだまだ自分はダメだ。精進しないと。

「お待たせいたしました。チョコミントアイスです」

 追加で頼んだデザートが目の前に運ばれる。淡い緑のアイスだ。口に運ぶと甘く、爽やかな空気が抜ける。文句なしに美味い。

「レシピ教えてくんないかな」

 これくらいのデザートなら店でも出せると思うし、受けも良さそうだ。モヒートカクテルも結構出るし。

「・・・」

 アイスに添えられていたクッキーを掴む。ローズマリーが練り込まれたクッキーだと説明書きされていたそれは、教会で見るマリア像をデフォルメした形のものだった。

 こうやって大人になってからは日常生活でマリア像を見る事なんてそうそうないが、昔は良く見ていた。というより、いつも身近にあった。

「あいつ、今何してんだろ」

 ローズマリーはマリアとの結びつきが強いもので教会でも沢山育てられていた。幼い頃は何度もその話を聞いていたのに、今久しぶりに思い出した。

「ん」

 口に運ぶと、驚いた。甘いと思っていたのに、クッキーは意外と大人の味だった。

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