君と百度目の夢をみる

君と百度目の夢をみる

 

「おはよう。うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫。ちょっと嫌な夢を見たんだ」

 

「どんな夢?」

 

「君と二人で公園の遊歩道を歩いてるところから始まるんだけど」

 

「近所の公園?」

 

「そう。駅前のスーパーに晩ご飯の材料を買いに行くために」

 

「晩ご飯を一緒に食べられるなんて、まさに夢ね。最近忙しくて、なかなか時間が合わないから」

 

「夢の中でもちょうどそんな話をしながら歩いてたよ」

 

「現実的な夢ね。他にはどんな話をしたの?」

 

「キャッチボールをする親子やジョギングをする女の人を見て、僕らも運動したいね、って」

 

「確かに。私、お腹周りなんて既に無視できないレベルだもの」

 

「この前買った縄跳びも、結局出来ずじまいだし」

 

「近々しましょう」

 

「ってな会話を夢の中でもしたんだ」

 

「これも?もうほぼ現実じゃん」

 

「うん、それでこの後スーパーに行くんだ」

 

「晩ご飯の材料ね。何を買ったの?」

 

「人参、玉ねぎ、じゃがいも、鶏肉…」

 

「わかった、カレーだ。チキンカレー」

 

「正解!よくわかったね」

 

「私が唯一作れる料理だもの。ってことは私が作るんだ?」

 

「うん。次の日も休みだから、って嬉しそうに張り切ってた」

 

「いいなぁ夢の中の私は。こっちは連日仕事だってのに…」

 

「大変だね、看護師さんは」

 

「家のこと、任せきりにしちゃってごめんね…」

 

「仕方ないさ」

 

「家事もできない、二人の時間もない。私、あなたを不幸にしてる」

 

「とんでもない!僕は誰よりも幸せ者だよ。カレーだってすごく美味しかった」

 

「それは夢の話でしょう?」

 

「この間作ってくれたやつ。美味しかった記憶が残ってたから、夢として出てきたのかも」

 

「この間って、半年以上も前なのに…でも嬉しい。ありがとね」

 

「いえいえ」

 

「でも、すごくいい夢じゃない。うなされてたのが嘘みたい」

 

「ここまではね…」

 

「何があったの?」

 

「僕のカレーの中には、筋弛緩剤が入っていたんだ」

 

「…どうして?」

 

「…僕の不倫がばれたから」

 

「…」

 

「動けなくなった所に、縄跳びを持った君がやって来た」

 

「そして、抵抗できない僕の首に縄が掛かるんだ」

 

「君が縄を引っ張ると、喉が絞まって息ができない」

 

「徐々に薄れゆく視界の端に、怒りと悲しみの入り混じった君の表情が映った」

 

「そこでやっと気づくんだ。あぁ、僕は取り返しのつかないことをしてしまったんだ、って…」









「おはよう。うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫。ちょっと嫌な夢を見たんだ」

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