闇社長跡部

星野フレム

そこに在る闇を知るから

この世の犯罪の多くは、衝動的なものだと誰が気付くか?


理由の無い犯罪は多く、失われる命も数を数え切れない程だ。生きる意味の無い死に方は、誰も好まない。しかし、誰しも殺意を用いている。犯罪は犯された時点で犯罪に成るのだ。そんな風に成立する世の中だからこそ、犯罪も消えないのだろう。


人は犯罪を行う事を、正当化しようとしている場合も有る。それは非常に愚かな事だ。


 俺が、私が、やらなければ誰がやった? 誰があいつを止められた?


そんな比較的に終わらない人間の断続的欲望を止める手段で、犯罪に手を染めてしまう者も居る。それでも思い留まれないだろうか? こうでは無くこうだ。と、思うのが余りにも後ではないだろうか? そんな意味の無い事を繰り返し、人は生きている。


さて、闇がある。人には闇がある。それは酷く深遠か醜いか? 違いはあれど人は心に闇を育てているのだ。その闇はある日、突然自分を狂気に変えてしまう。狂気と言う言葉を、錯乱状態であると捉える者も居るだろう。狂気とは感覚の一線上に在るものなのだ。それが解らないものは、狂っている事を解釈するのにおかしくなっているとしか言えないだろう。


一概に狂うという言葉をおかしくなっている。と、捉えるのは、まずおかしな話だ。狂うとは即ち、自分の平常心を損なう事だ。意味の解らないものはそこで躓き、考え込むだろう。

 

大よそ狂っている事を明確に狂気と定めた人間は、須らくそれを解っているものだ。犯罪は犯したものにしか解らない物が有る。それは理解なんて超えてしまっているのだ。


人をただ責める事なんて、誰だって出来ることだ。だが、その罪を犯した者に対し、どこまで冷血になれるか? それもまた、必要だろう。まず自分の家族が殺される。それで軸が崩れない人間はいない。直ぐに復讐してやると考えるだろう。しかし、そこには冷静さだって伴われるのだ。犯罪は犯した時点で犯罪。それを解ってやる者がここ最近多い。


こんな小説を読んでいる者が、そう言った行動を起こしやすいか?


否、それは無いのだ。


 むしろ、犯罪を冷静に分析するものが読むだろう。それはどの時代になっても同じなのだ。世の中には理屈馬鹿が多いのは当たり前だが、その一線を越えた新たなる考え方さえある。


 それが、この私。跡部あとべ脩一郎しゅういちろうの考えだ。


時刻は既に昼に差し掛かる、秋の空が綺麗だ。そんな事を考えながら僕はいつもの日課を行っていた。小さなデスクワーク用に間取られた、机の上にノートパソコンを置いてある。そして、それは二台ある。社長の持ち物だ。僕は目の前で同じように資料に目を通しいる社長に話しかける。社長は手を「待った」というような感じで上げ、それから数分してからようやく話を聞いてくれた。

「私の文を読んだのか。ああ、それは大分古い。だが、いい。そこに書いてある事の大よそは世間に反感を食らった文面だ。君が読んでも別におかしな事は感じないだろう? 武田」


 目の前に居る人物は、跡部脩一郎、三十八歳。この会社の社長であり、業界では闇社長と呼ばれている。雰囲気もそれは確かに納得いく風貌だ。黒い長い髪に真っ黒なベスト。青の掛かったネクタイ、少し堀のある顔。目つきは鋭く丸眼鏡をしていて、身長は高いほうだ。こんな人物が淡々と喋っている所は、そこに核爆弾一つある位の存在感だ。僕はこんな人と共に仕事をしている。だが、実務は無い。あるのは情報収集、僕は社長の補佐なのだ。そして社長は実行者なのだ。


 僕は面接の時の事を良く覚えている。確か、春だった。そう、四月一日。世の中で言う『嘘が許される日』だ。


「君は面白い」

最初に言われた一言がそれだった。面接にはちゃんとスーツでやってきた。しっかりネクタイも締めて、髪も短めで髭も剃ってあり整っている。履歴書にもちゃんと今までの経歴を書いてある。一般の大学も大学院まで行き卒業した。卒論は当時、大学の教授から「素晴らしい」と、評価された。

そして、ちゃんと真っ当に表の会社の社員として暮らしてきたのだ。確かに面白いのかも知れない。こんな真っ当な奴が裏社会に手を出すのだから。


武田孝司たけだこうじ、二十五歳。港晴こうせい商業しょうぎょう大学だいがくを卒業、日原情報技術所に社員として入社、か。……何故退社したんだ?」

僕は即座に答えた。

「道が違うと思ったからです」

僕は当時から技術の仕事は素晴らしいと思っていた。だが、それはただのマヤカシだと気付いたのだ。

 

……あれは、僕の恋人が死んだ日だ。ただの事故じゃない。彼女は故意で車に撥ねられ死んだのだ。胸部の複雑骨折、並びに頭蓋骨の損傷。内蔵破裂の箇所まで酷くあった。

そして彼女を轢いた人間はこう言った。

「一度人を轢いてみたかった」

 殴り殺してやりたかった。だが、こいつは死刑され、この世にはもう居ない。こんな理不尽な理由は無い。何故「轢いてみたかった」と思ったのか? そんな理由が僕を裏の社会へと引き擦り込んだ。そして、ネットのアンダーグラウンドを検索中、この会社を知った。


合法ごうほう処理しょり 神艶しんえん


社長は僕に質問を投げかける中、僕が信用に値する人間だと言う事を確信してくれた。正直嬉しかった、この世には犯罪が山ほど転がっている。僕はそれを一つずつ確実に潰している人を発見した。それが社長だ。僕が来てから二年間。社長は現場へ僕を連れて行くことが無かった。

「情報を知るものは常に安全な所に居なければならない」

正論だ。しかし、社長は絶対に公的な場所や僕の自宅や自分の自宅、そして会社等に僕を置かない。信用している者を置く場所は、さらに信用できる場所ではないといけないのだ。社長はいつもそう言っている。だから僕は毎回とある毎に施設の精神病院に入れられる事があった。


そこは社長の仕事が済むまで、絶対に出してはくれない。精神病棟の患者との接触も禁じられ、個室にいつも入れられる。その場所は生活できる最低限の設備が整っている。食事も不味くは無い。美味いほうだ。

 

しかし、つい最近その信用できる場所も放火に遭った。情報屋と言うのは、どんなに頑張っても居場所を突き止められる場合がある。それは僕だって例外ではない。前の病院の死者は少なかったが、お年寄り等の被害は酷かった。


 呼吸困難になり死に至る事など誰でも予測できることだ。だが、僕はそんな時でも表立って助ける事が出来ない。最優先はお年寄りのはずなのだ。僕を安全に逃がす事を優先する事を頼まれた、専門の看護師が僕だけを直ぐに誘導した。「これが裏か」そう思った。


犯罪とは、起こした者が百%の確率で悪いと言う事が世間の常識。しかし、最近だが妙な動きがある。犯罪を作り出す事を目的とした、ネット掲示板への書き込みだ。巨大な規模の掲示板ではそれがさらに悪化している。書いてある内容は非常に無責任であり、犯罪を助長する事など平気で書いてある。それを管理しているはずの掲示板管理者側も最近黙認しつつある。言わば、事後だ。酷い話だ。そこで、社長に言われた事を良く思い出す。


「犯罪に理由は無い。純粋に理由があるならばそれは犯罪の域を越した異常な事だ」

僕もとっさにだが、答えていた。

「犯罪は犯した時点で犯罪ですよね。その時点で辞められるものは居ない」


社長は「そうだ」と、言って自分の仕事を話す。社長の仕事は体力が居る。だが、社長は犯罪予備軍である者達に対し、暴力を振るった事は無い。あるとすれば『言葉による金縛り』跡部脩一郎と言う人物はかなりの裏を観てきた人だと聞いている。実際に本人もそう言っている。だから躊躇無く言葉を発する。それに対して犯罪予備軍は怯む。社長はさらにそこを心理的に責める。そして本性を言わせる。本当は何がしたかったのか?

本当の目的は何なのか? それを気付いた犯罪予備軍は直ぐに冷静さを取り戻すのだ。だが、ほとんどが社長に狂気の牙を剥く。社長のやっている事は非常に合法的だ。だが、社長は自分自身の危険性を解ってやっている。だから、一度言った事がある。

「社長が居ない世の中は大変になります。死なないで下さい」

社長はそれを聞いて少し嬉しそうに言葉を放つ。

「お前はやはり面白い」


 過ぎてゆく時間の中、人はどれだけ自分の心を抑えられるのか? どれだけ犠牲を、命の犠牲を払わずに生きれるのか? 僕は常にそれを考えている。



 いつものデスクワーク。比較的働き易い環境を選んだ彼女は、いつも気に掛けている事があった。会社の同僚の事だ。迷惑メールと言うものがこの頃は頻繁に来る。と言うのは何処でも同じなのだが、会社のセキュリティを持ってしてもそれは中々対処できない。安請け合いな会社ではない自分の会社なのだが、それでも迷惑メールなんて一般的だ。だが、同僚の女性社員はとあるメールが来てから、ずっと何かに監視されているような面持ちだった。


個人的な事だったが聞いてみると、彼女は「誰にも言わないで下さいね」と、言って見せてくれた。 貴女を見つけました、会いに行きます。 私だけが貴女の味方です。だから会いましょう。


何て事は無い、ただの奇文だ。そう言ってやったが何故か彼女は怯えながら体を震わせていた。「何かあったの?」と聞くと「……いえ」ハッキリして欲しい。

嫌なのならこんな物見なければいい、私はそう思った。だが、彼女は思い当たる事を一言言った。

「……飼い猫が……玄関の前で何かで刻まれたみたいに……死んでいたんです」

流石に尋常な話ではない。それから彼女はもう一言。

「……あの子、オス猫だったんです」


 まさかとは思っていた。しかし、彼女はその事を聞いた瞬間最近の事件を思いだした。当時結構な話題な訳ではなかったが、少し印象に残っていた。ある男が想い人に意中の事を告白し、告白された女は喜んで交際を受けた。しかし、それから男の異常さを知る事になる。女は飼い猫であるオス猫をよく可愛がっていた。男は最初は全く気にならなかったが、とある毎に猫に彼女を独占されると思った男は段々イラつき始める。

「俺とその猫どっちがいい?」

その時、女はこう答えた。

「猫にヤキモチなんて焼いても仕方ないじゃない?」

男はその後、女と言い合になり猫を女から奪うと、キッチンに向かい、包丁で滅多刺しにした。女はそれを見て警察に連絡した。男は程なく捕まり動物虐待事件としてニュースに取り上げられた。


そんな事を思いだした彼女は会社帰りのネットカフェで、情報通の知り合いから教えてもらった一つのキーワードを検索していた。アンダーグラウンドでのみ表示される強固なセキュリティさえ何も無いその場所には……『合法処理屋 神艶』と、名前が載っていた。仕事中では検索出来ないし、自宅からでは何かに巻き込まれるかも知れない。そう思ったからこそ公共の場をあえて利用した。幸いにもアクセスが出来た事に安堵する。だが、これからが本番だ。依頼内容を素早く打ち込むと、彼女は直ぐに店から出ずに食事をとってから出た。

 

これならいくらネットから自分の会社にアクセスする者でも、発見は出来ないだろう。見つからないだろう。そう思っていた。しかし、思ったようには行かなかった。

 

店内のパソコン全てが真っ暗になったモニターに一文。


お前は邪魔だ!


店内に居た若い男の客が迷惑そうに憤りと共に言い放つ。

「てめぇが邪魔だって! 人の時間奪うんじゃねーよ!」

その日、この店は予想外の事故だったとし、店内放送で「本日は当店にお越し頂き、真に有難う御座います。一時的にセキュリティエラーを起こしました。後、十五分程で回復致します。尚、復帰後の時間は無料とさせて頂きます」

店内から「ラッキー」と言う声も聴こえれば、「ゲーム途中だってのに!……何かやる気無くした」と言って、帰ってしまう客も居た。彼女はとにかく自分はやるだけの事はした。気持ちが動転する中必死に意識を保った。そうだ、あの『神艶』なら何とかしてくれるはずだ。そう願い、彼女は帰宅した。


 深夜の時間帯、武田はデスクでこっくりこっくりと眠そうにしていた。だが、何とか目を覚まし仕事を続けていた。どうにも今回の犯罪者になる者は、ネットに関してかなりの知識を持っている。いや、主に言えばセキュリティだ。


自分のワード。


つまり自分の名前等を転載されているページへ行くと、全てシャットアウトされ、ブラウザークラッシュをされる。ブラウザークラッシュとは簡単に言えば、閲覧中のサイトのウインドウが多重に開かれることだ。

それが故意に行われる場合、間違いなくハッキングを受けたサイトであるか、クラッシャー。ハッカーとは別の意味でパソコン自体を壊してしまう。プログラム=ウィルスを組み込み、送り込む者達による、パソコンの心臓プログラムさえ破壊すると言う。


通常、ハッカーとはパソコンの機能をより良く使える人を指す。


世の中誤解が多いが、そんな予備知識が無いのは、パソコンやネットを学ぶ事をしない、初心者達の間では当たり前である。


 武田は、再びメールを読み返す。


別に大した意味ではないのだ。ただ、そうしただけだった。すると、気が付かなかったのだろうか? 依頼者の送信した文面に一箇所。気になる点があった。武田は気付く、リンクの貼られたものだ。そのリンクを開くと、チャット画面に出た。武田は「Enter」と表示された場所をマウスをすぐさま動かし、クリックした。そしてSと入力しチャット内部に入室する。すると、このチャットルームの主なのか? Uと表記された入室者が話を振ってきた。


 Sさんって私がメールを送信したSさんですよね?


 そうです。と、武田は答えた。用心しているのは仕方ない。

『もしも何も情報が得られなかったら、リンクされた場所からチャットルームに飛んで下さい。そこではSと入力して下さい』

それがあのドットマークだったのだ、深夜だった。故に武田は急ぎ確実に依頼主から情報を提供してもらう。事件の話を聞き終わった武田は直ぐに跡部に連絡した。携帯を取り出す手が一際早く動く。

「社長、依頼人と間接交渉が出来ました!」

 跡部は武田が滅多に声を荒げない事を知っている。二年の付き合いは伊達ではない。

情報によれば男の名前は反田はんだ健二けんじ。二年前から後、行方不明になっていて捜索願いが出ていた。そして、自分の情報操作を巧みにしている事。何よりも依頼者が、かなりのリスクを冒して、自分のプライベートチャットに誘っている時点で、依頼主の安否が一刻の猶予も無いかもしれない事。そして、依頼者の住所を聞くと跡部は仕事用に使っている単車に、要領良く乗りヘルメットをするとキーを入れエンジンをふかす。依頼者のマンションへ急行した。


 激しい轟音のような打撃音が依頼人を襲っていた。


 依頼者の彼女の部屋の玄関前には既に反田が訪れ、ドアを叩いている。夜中の音は良く響く。マンションの住民は余りにもうるさい音に目を覚まして、ドアを開けると音は止んでいた。代わりに女性の悲鳴が聴こえてきた。「なんだ、彼氏とでも喧嘩か」と、思った住人だったが、彼女の隣で暮らしていて静かな時やロック等の音楽が流れたり、電話での会話が妙に大きい時があったりしたが……男の声などした事がない。「―ひょっとして」と心配に思った住人は彼女の部屋の開け放たれた玄関を見て、次に中の様子を伺う。


 すると何やら声が聞こえてくる。

「動くな!動けばお前を殺す!」

危ない! そう思った住人はポケットの携帯を探る。するとポケットから軽快な音楽が流れる。住人の携帯着信音だ。反田は気付かれた事を苦にもせず彼女の部屋の玄関のドアを閉めた。


そこからは一方的な展開だった。

リビングまで誘導され髪を引っ張られ体中を殴られ蹴られ、彼女は死にそうなほどに苦痛の顔をしながら、時々呻く。思い知ったかと言うように彼女を見て彼女のパソコンの画面を見る。この地帯の把握はしていたが、ハッキングするのには時間が掛かった。かなりのセキュリティの高い中を外部のIPアドレスの表示で誰かと接触を図っているのが解った。それ故の襲撃だった、直ぐに警察は呼ばれるだろう。立て篭もりだが人質は居る。そしてここはマンションの5階だ。


反田はニヤリと笑うとパソコンの前に座り、操作を始めた。まず彼女は武田との通信後、全ての情報を削除していた。だが、みるみるとデータを復元する。そして、Sと言う人物に反田から守ってくれるよう、頼んだ後までで終わっていた。


裏業者に依頼した事を察した反田は、彼女に「よくやってくれたよ!」と、腹に一撃蹴りを入れる。依頼主は気絶してしまう、さらに手を加えようとするその時だった。玄関のドアが開く。馬鹿な!反田は心の中で叫んだ。自分でも三十分は掛かったドアのセキュリティを、破った者が目の前に居た。


「『合法処理屋 神艶』貴様も名前ぐらいは知っているな」

反田はその瞬間大笑いを始めた、跡部はその様を良く知っている。自分の会社の社名を聴いた者は決まって笑うか身構えるか。この男は前者のようだ。跡部は深いため息をつきながら、大笑いする男に言った。

「貴様の狂った脳内は犯罪を犯した。物理的な損傷もありではこちらの取り分は少々上がるな。

だが、今回ばかりはレディだ。サービスしておこう」

反田は笑うのを辞めて今度は失笑している。まるで馬鹿な奴を見る様な目と、笑い方だ。そこへ跡部は言葉を繋げる。

「お前は馬鹿だ、大馬鹿だ、究極に馬鹿だ。天才でも無い、貴様には何の才能も無い」


何の才能も無い。

この言葉を聴いて反田は笑うのを辞める。そして明らかな敵意の目で跡部を見る、跡部は間を縮める。反田は動かない。判っているんだろう? という顔で身に羽織っているジャケットに手を忍ばせた。その瞬間、跡部の蹴りが反田の手を忍ばせた所を強烈に突く。


 バキッ!


一瞬の衝撃で飛ばされた男は、懐に手を入れたまま蹴られた箇所の手を確認し、数本折れている事を見て、そんな馬鹿なと言う顔で跡部を見ていた。      

 何故なら神艶と言えば暴力沙汰な事は絶対にしない。と、聞いていたからだ。必ず説得される馬鹿共が居て、そいつらは皆馬鹿な説得で自身を喪失してしまう。つまり、言葉の説得でしか出来ないことなら自分は絶対に該当しない。それだけの心得だって持っていたのだ。


自分の別れた女の時の事件も適当に誤魔化した。女には危害を加えなかったが、猫を殺された事での精神的苦痛を与えたとして、女の親から告訴されていた。程なく解決して近寄らない事を条件に、同地域から追放された位だからだ。


 だから、自分はこんな事になっている事態に対して、パニックを起こし始めていた。懐にはナイフが入っていた。跡部の蹴りの威力で曲がってしまったナイフを、さらに接近して半屈みで反田の懐から取り出した。

「こんな物はお子様の道具だ」

と言ってリビングの床の靴元に落とし踏み壊した。


 目の前に居る男は化け物か?反田はそうとしか思えなかった。余りにもあり得ない。跡部が足を少し上げ、バラバラに成り果てたナイフを靴元で横へ払うのを見て、こんな異常な力を持った者を自分は相手にしよう。と思っていたのだと落胆した。

こんな奴には勝てない。そう思った反田は立ち上がろうとしたが、ガックリとした目で跡部を見ている、彼は説明をしてやった。


 通常、合法処理屋なんて名前を張っていれば、合法的に処理すると思うだろう。だが、それは虚をつくモノでもなんでもない。今やった事は合法なのだ。依頼主をこれ以上の状態から守る事。それも仕事なのだと、そして跡部は語る。


「お前には本当に才能が無い。人を愛する才能は、お互いの心の融合によって行われるものだ。一方的な感情で相手を貶める時点でお前の価値は無くなったのだ。そして、有効手段が限られた上でのネットでの情報操作に至った。そうだ、お前に才能なんて無いのだ。ちゃんと生きて行く才能があるのなら共存意思を持て。猫とも仲良くなれただろう。……可哀相に」


跡部は「フゥ」と、ため息をついた。

何を言われているのか反田には判らなかった。

自分は何故こんな急に現れた男に説教されなきゃならないのか?

何でこの男はここまで正論なのか?

その答えは警察のパトカーのサイレンの音で解った。

「……ああ、またやってしまった」

 自分は刑務所で教育を受けなければならない。頭の良い反田は警察に自首しよう、そう思った。しかし、跡部は一言止めを刺す。


「お前はもう何処へも逃げられない」


 後日、反田健二は依頼者の回復後。起訴されて全ての容疑を認めた。そして、跡部は武田に怒られる。

「銃だったらどうしていたんですか!」

全く心配性な奴だ。そう思いながら跡部は煙草を銜えライターで火をつけ、煙を吐き武田に言葉を投げた。

「お前もいつか解るさ、どうしたって守らないとならないものが在る」


それから一週間、大体の平和が流れた。だが、事件はまた起ころうとする。人が自分と向き合わない限り犯罪は起こるのだ。だからこそ、跡部の合法処理屋は存在する。

「出来れば存在しなければいい」

 とは、跡部の良く言う言葉だ。


 終

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