第3話 現代での任務
俺の父さんは、人類史上類を見ない程の天才である。それこそ、世界の常識を何度も覆すような発明を両手で数え切れないぐらいの数を量産している。
たがしかし、世間一般には父さんの事を知っている人は数少ない。というのも、過去に一度だけ世間に向けて自信の発明を公表した事があるだけだからだ。その発明とは、ガソリンに代わる代替燃料を効率的に安価で作るバイオ燃料精製法というもの。
この発表は、世界中の研究者達を驚嘆させて父親の名を知らぬ者は居なくなるぐらいに世間を賑わせた。しかし父さんにとっては、自由な時間や生活が無くなり新たな研究を行う暇を無くしてしまう出来事だった。だから父さんは時間を取られるのを嫌がり、発明した技術や権利をすべて売り渡して名も捨てて隠居を決め込んだ。
その時の経験により、父さんは二度と表舞台には立たないと決めてひっそりと研究を行うことにした。もともと名誉欲の薄いらしい父さんは、研究して発明を作り上げるだけで満足してしまい、出来上がった完成品には興味を示さなかったから。けれど俺は、その世間に知られぬまま間放置される完成品を悲しいと思った。
だから俺の役目は、父親の死後に発明品を世間に公表しようと父さんの研究・発明品の記録を取って情報を整理し、発表の準備を進めることだった。父さんの亡くなった後になら研究の邪魔にもならないだろうし、世間に公表することによって父さんの偉大さを知る人が増えるだろう。
俺は父さんの研究の手伝いをしながら発明品の発表をスムーズに行うための計画を立てていた。と言っても、その計画が実行されるのは後何十年も後のことになるだろうが。
***
「父さん、用って何?」
「あぁ、来たか」
学校終わりに話があるとの事で、急いで帰ってきた俺は真っ先に父さんの研究室に向かって話を聞くことにした。
ごくごく一般的な一軒家の中にある、六畳一間程度の広さしか無い部屋の一室が父さんの研究室だった。こんな小さな場所で様々な世の理が解明されていて、世界を変えてしまうような発明品が量産されているとは誰も思えないだろう。
俺を呼んだ父さんは、何やら手元の資料に目線を向けながら眉をひそめて難しそうな表情を浮かべていた。
普段は温和そうな表情で過ごす父が、あんなに険しそうな顔をしている事は少なく非常事態だということを理解させられた。
「こっちに座って、これを読んでみてくれ」
「ん? これは?」
近くに座って渡された資料を読んだ俺は、すぐに違和感に気がついて父さんに問いかけていた。その資料に記されている日付が未来を示していたから。
「実は限定的な未来の観測を可能にする装置が、ついに出来上がったんだが気になる事が分かってな」
「その気になる事って、ここに書かれている事?」
どういう仕組みか分からないけれど、父さんは未来を予知する装置を作り上げてしまったらしい。あっさりとした言葉で告げられた事実はトンデモナイ事だと思うけれど、父さんなら可能かもしれないと思えてしまうぐらいには、今まで数多ある発明品を見せられてきた経験があった。
つまりは、この手元に書かれている出来事が実際に起きる可能性があるという事を素直に納得してしまった。
「召喚? 異世界? どういうこと?」
「観測した結果によれば、非常に高い確率で近々お前が今居る世界の外側、つまりは異世界へと突然召喚されるらしい」
「はぁ……?」
未来の観測が可能となったことは理解したけれど、ソコから新たに理解しがたい事実が発覚していった。異世界? 召喚?
「それって、小説やアニメとかによく題材とされるあの異世界召喚ってこと?」
「そうだ」
「えぇ……? 事前に知れたって事は召喚されないようにする方法ってのは無いの?」
「回避する方法を考えてみたんだが、お前が今見ている未来に召喚を回避しょうとしても別の機会にズレるだけで、お前の異世界召喚は確定された未来のようだ」
回避するための方法はないか期待せずに問いかけたけれど、やっぱり召喚からは逃れられないらしい、という無情な答えが父さんから告げられる。
「安心してほしいのは、お前が無事に帰還できている未来も観測できている。向こうに行っても、コチラの世界に戻ってくることは可能なようだ」
「それは良かった」
父さんの言葉に、俺はホッと一息ついていた。戻ってこられるかどうか分からない状態だったならば、全力で回避する方法を父さんに考えて貰えるようにお願いしているところだっかが、戻ってこられるという保証があるのならば幾分か気持ちが楽である。
「そこで、相談なんだが世界の向こう側の情報を集めてきてくれないか? きっと、新たな世界には私の知らない未知の知識があると思うんだ。もちろん、危険のないように十分な準備を用意する」
「えーっと……。うん、わかったよ父さん」
少しだけ考えたけれど、異世界に召喚されることを了承する。父さんが色々と用意してくれるのならば、どんな場所でも安全に過ごせるように支度してくれるだろうと信頼していたから。それに何よりも、父さんの役に立てるという気持ちが大きかった。
こうして、俺は異世界に召喚されることを知りながらも異世界からの召喚に抗わず受け入れた。見知らぬ世界の情報を手に入れるために。発明家である父さんの用意してくれた、準備万端の装備の数々を携えて。
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