第2話 異世界での任務

「勇者様、よく召喚に応じてくださった」

「はぁ、どうも」


 学生靴では歩くのに躊躇しそうなほど豪華な絨毯が敷かれた広間。豪華絢爛な内装に圧倒される。そんな場所へと案内された俺は、この国の王様であるという人物と出会っていた。


 彼は、その身分の偉大さを示すかように豪華な衣装を身に付けていて、手には象徴的かつ装飾的な杖を持っていた。極めつけは頭に王冠を載せていて、一段高い場所にある煌びやかな王座に腰掛けている。まさに王様という事が見ただけで分かるような格好だった。


 そんな王様から声を掛けられたが、生まれてきて今まで彼のようなお偉いさんと話した経験が無い俺には礼儀作法も分からず、ただ戸惑い適当に対応してしまった。


「王に向かって、その不敬な態度はなんだ!?」

 案の定、俺の態度が悪かったのか王様の横に控えていた人に指差されて怒鳴られてしまった。


「まぁまぁ、落ち着かれよ宰相。彼は、国民でも何でもないただの人なのだから。しかも、これから我々がお願いする立場なのだから咎める必要もあるまい」

「しかし、王よ!」

「わしが良いと言っているのだから、良い」


 いきなり見知らぬ国に召喚された俺が対応しようもない事だろうと、宰相らしい人物の言葉を不愉快に思いつつ、言い方を少し気をつけたほうが良かったかな、とも思った。


 けれど王様がとりなしてくれたおかげで、それ以上は何も言われる事はなかった。有難かったけれど、目の前で行われたやり取りが何か演技臭く感じた俺は、王様に対する心証を良くしようという立ち回りに感じて、モヤモヤとしたハッキリとしない気持ち悪さを抱いていた。


 状況に対して冷静に判断できているつもりだったけれど、異世界に召喚された事によって自分でも思っている以上に不安や緊張を感じているのかもしれない。その悪感情によって見知らぬ人達に対して悪い印象を抱いてしまうのでは無いだろうか?


 俺は考えを振り払うように一度頭を振って、召喚した理由をストレートに尋ねる。彼らを疑うよりもまずは、状況を明らかにする事を優先した。


「それで、俺に何をやらせる為に召喚したのですか?」


 そう尋ねると、王様は今いる世界の現状についてを語り、俺を召喚した経緯を教えてくれた。


 この世界には今、魔王と呼ばれて恐れられている存在が居るという。魔王は数多くの配下としている魔物に指示を与えて、人間たちを脅かしているという。魔物の勢いは凄まじく、数多の町や村が襲われていて既に滅んでしまった国も何カ国か有るほどらしい。


「勇者様には是非、この世界を破壊しようとしている魔王を打ち倒してもらいたいのです」

「なぜ俺なんですか? この世界で魔王に対抗できる人物は居ないのですか?」

「既に何人かの勇者が挑み魔王の下を目指して旅立ったが、全員が返り討ちにあったのか戻ってこなかった」


 事態は想像しているよりもなお、悪いらしい。既に魔王に挑戦した勇者と呼ばれる人達が居たらしいが、全部失敗しているという。事実を隠さずに話してくれたのは良いのだけれど、その話を聞いて怖気づくとは思わなかったのだろうか……。


「その話を聞いて、より召喚された理由が分からなくなりました。俺は今まで斬り合いなんて人生でしたことは無いですし、戦いの心得だってありません。魔王を倒せるとは思えないです」

「世界を超えて召喚されし勇者には、人知を超えた能力が授けられると言い伝えられている。我々には既に魔王という災厄に対処する為の打つ手が無くなり、古くからの言い伝えに頼るしか方法は無かった」


 俺の弱音に反論するように、召喚の理について説明された。勇者に与えられる能力。異世界召喚のテンプレートな展開に少しだけウンザリとした気持ちになる。しかし、苦渋の表情を浮かべて語る王様の言葉には嘘は無いように思えた。


「頼む、我々の世界を救ってくれないか」


 頭を下げて、誠意を見せて頼み込んでくる王様。なぜ俺が、異世界の事情なんて知ったことか、受ける必要なんて無いという本音は有るものの、それらを飲み込んで仕方なく決断する。


「分かりました、俺に出来得る限りの事はしましょう」

「本当か!? すまない、魔王を倒した暁には成しうる限りの報酬を用意しよう」


 俺が魔王の対処を受諾したことで、難題を解決し終えたようなスッキリとした表情に変わった王様。そんなホッとしている彼に、もう一つだけ尋ねておかないといけない事があった。それは。


「一つお尋ねしたいのですが、俺が元の世界に戻る方法というのは有るんでしょうか?」

 そう聞くと、再び表情を曇らせる王様。そんな表情をしていると言う事は、帰還する方法には期待できそうにないと瞬時に理解できてしまった。


「すまない。我々が今のところ伝えられ知っているのは召喚の魔法だけ。帰還に関しての魔法は失念されてしまって方法が残っていない」

「つまりは、俺は帰れないという事ですね」

「端的にいうと、そうだ。だがソナタが魔王の討伐に向かっている間に帰還の魔法は全力を上げて捜索しておこう」


 本当に元の世界に戻る方法を失念したのだろうか、帰還すると困るから方法を隠しているという理由は無かったか……。なんだか彼らを疑う気持ちがより大きくなってしまったが、俺は落ち着くようにと深呼吸をする。


「すまない、勇者よ」


 俺が息を整えているのを、帰還できないという事を知ってショックを受けたから感情を高ぶったのを深呼吸で落ち着かせるためだと思ったのか、王様は申し訳なさそうに謝ってきた。



 こうして俺は異世界に召喚されて、お決まりに沿うように魔王を倒すという任務を受けることになった。

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