4
寝台の中で小さく伸びをし、身体を横向きにしてから考える。
父との会話、渡された指輪、昨晩みた夢。
そして巫たちはみな、色調に差はあれ銀色の瞳をしている。
ユストゥスの瞳は銀灰色だ。
これらのことが指し示す事実はただ一つ。
「まさかな」
少ないが、男の巫がいないわけではない。
そのほとんどは神官となるから、巫と呼ばれることがないだけで。
巫は幼いころにその力をあらわし、その力が認められると神殿に引き取られ養育される。だがごくごくまれに長じてから力に目覚める者もおり、過去には、成人してから力が現れ、
昨晩のことは、何も不思議なことではなかった。
言動に気をつけてさえいれば、そのことは周囲に知られることはないだろう。
とりたてて気にすることではない。
それよりも気にかかることが一つある。
彼女はユストゥスの顔を見て気づいた。
なら、王は?
おそらく気づいているだろう。
王が近衛師団長としてユストゥスを重用する意図は何か。
巫王は先の王太子の娘だ。先の王太子は現王よって殺された。
現王は本来、王位からは遠い位置にいた。それを今の地位に就くため、自分の他に王位継承権を持つ王族を皆殺しにしたのだ。そして、当時幼く、政情をなにも知らない巫王に、自分を指名させ王となった。
今は、声を大にして言う者はいないが、王の正当性に疑問を持つ者は少なからずいる。そしてアルフィーナの血統に疑問を持つ者は多い。
ユストゥスの考えが正しければ、どちらにとってもユストゥスの存在は好都合なものとなる。と同時に、王とアルフィーナにとっては脅威となる。
王がユストゥスに目をかける理由、それは、ユストゥスを側に置いて動向を監視しようとしているのではないか。
「親父に訊けば、ある程度はわかるのだろうが」
少なくとも、ユストゥスの出生については知っているだろう。だが、言葉にしてしまえばそれは真実になる。真実を知れば、知らなかった時と同じではいられない。だから訊いてはいけない。今はまだその時期ではないのだ。
父はきっと、巫王から直接ユストゥスのことを託されたに違いない。
その父に、巫王がアルフィーナの養育を任せたのは、ユストゥスとアルフィーナが友誼を結び、二人が将来敵対することがないようにするためだろう。
全ては巫王の思惑通りとなった。
だが、あともう一人は。
彼女と約束した以上、彼の人にもいずれは真実を伝え、絡まってしまった、彼女と彼の人の間に渡された心の糸をほどく手助けをしなければならない。
それがユストゥスが生まれた理由の一つなのだろうから。
「まったく、面倒なことを押しつけてくれる」
ユストゥスは苦笑して起き上がった。
近衛師団と王都軍は国王直属の軍組織だ。近衛師団長の定期業務として、王への報告がある。定例的なものであり、大抵は簡単な文書と問題なしとの口頭での上奏で終わる。
いつものように報告を終え、ユストゥスが挨拶をして王の執務室を辞そうとすると、王に呼び止められた。
「待て、あれが王都に戻ってきたが、王都を出て行ったとの話は聞かぬ。まだお前の屋敷にいるのだろう」
「はい」
ユストゥスは頷いた。
「巫王に呼び戻されたと聞いたが、お前はあれをどうするつもりだ」
執務卓に座った王が、ユストゥスのことを探るように見上げている。
王とアルフィーナの不仲は有名だ。
その王がアルフィーナのことを訊ねてくるとは、息子の身を案じてということではないだろう。
どう答えるのが正解か。
ユストゥスは、当たり障りのない回答をすることにした。
「殿下のことは昔、父が巫王様から託されたときいております。巫王様から父に新たな言をいただけないのであれば、我が家で殿下のお世話をさせていただくのは当然のことかと」
「ふん」
と王が鼻を鳴らした。
「テオドールの奴も昨日来たが、お前と同じことを言っていた。だが、あれがいては何かと騒動に巻きこまれ、厄介なだけだろう。
あれももう大人だ。自分のことは自分で何とかさせればいい。
それにしても親が親なら子も子だ。二人とも巫王の言に素直にしたがうのだな。適当な理由をつけてあれをさっさと追い出せばよいものを」
「陛下のお心遣いはありがたく頂戴いたしますが、我が家の当主は父です。
「よく言う。だがお前は、婚約者を殺されあれのことを憎んでいるのではないか? 王宮で王族が害されたとあれば、儂も国王として、王族に危害をくわえた者を罰せねば示しがつかぬが、王宮外となるとその場にいた者の話を信じるしかない。事故だった、急病だったと言われればそれまでだ」
言外にアルフィーナを殺しても、罪には問わぬと王は言っていた。
だがそれを信じる気は、ユストゥスにはなかった。
ユストゥスの怨みにつけこんで、アルフィーナを殺させ、それを理由にユストゥスのことを処断し、自らの王位を脅かす存在を断つという方法もある。
王であれば、それくらいのことは平気でするだろうとの予感がユストゥスにはあった。
もし、グイードのように復讐のために生きているのであれば、王の言葉にのせられたふりをして、アルフィーナのことを殺してもよいが、そもそもユストゥスにアルフィーナを殺す理由はない。
国王の提案を首肯する気はなかった。
「殿下の身をお預かりしている立場といたしましては、我が身に変えても、殿下の安全を護る所存です。武門の者として、またこの国の臣民として、父も同じ考えであると思います」
「ふん、面白くない」
鼻を鳴らして、王が不機嫌そうに言った。
「あれは素直でないだけだが、お前は腹黒い。父と巫王に従順にしたがうふりをして、お前は何を考えている? まさかあれを後ろから操り、この国を手に入れようと考えているわけではあるまいな」
いくら国王とは言え、臣の忠誠を疑うような言葉を口にすべきでない。普通ならここで怒るなり、悲しむなりすべきなのだろうが、国王には人を愚弄することを楽しむようなところがある。国王の調子にのせられてはいけない。
ユストゥスは冷静に応える。
「恐れおおいことではございますが、
「はっ」
と国王が吐き棄てるように言った。
「あれもお前も可愛げがない。少しは動揺して見せればよいものを。どうやって教育したら、お前たちのようにふてぶてしく育つのか。ディーデリヒは、お前たちと違って素直で可愛げがあるというのに。テオドールは子育てに失敗したな」
国王が嘲るように笑った。
ユストゥスは少し首をかしげ、微笑んだ。
「陛下がおっしゃられるのでしたら、そうなのでしょう。ですが、画家に肖像画を依頼したとして、不出来な作品が仕上がったら、その責は絵ではなく作者にあるもの。
「ふん」
国王はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「もうよい。去ね」
「はい」
ユストゥスは一礼し、王の執務室を後にした。
前日とは違い、順調に仕事が進んでいく。
理由は簡単だ。エトムントがいるからだ。
執務卓に座ったユストゥスは、積み重ねられた書類を上から順に確認し、決裁していけばいい。
ユストゥスが直接関わらなくとも問題ない事案は、エトムントがユストゥスに代わり、担当者の割り振りと指示を行う。順調に進む仕事を見ていると気分がよい。
エトムントと知り合ったのは、王都軍においてであった。運動能力については、軍に入るに十分なものをもっているが、特筆すべきほどのことはなかった。だが、頭の回転は速く、作戦立案や事務処理の能力は抜きんでている。実務において、エトムントの存在は大きなものであった。
気づけば執務卓の上に積み上げられた書類が、今日一番多かった時の三分の一程に減っていた。ユストゥスは大きく伸びをした。
「お疲れですか?」
部屋の隅に置かれた机に座り、昨日ユストゥスが走り書きした来期の団員編制の骨格案を確認していたエトムントが、紙面から目をあげて言った。
「少しな。それより俺の案に問題は? それを基にお前の方で、編制書の草案をつくれるか?」
「八割がた。いくつか気になる点がありましたが、まず担当に確認したいので、その後相談させて下さい」
「わかった。明日には着手できるか?」
「はい。大きな問題がなければ」
「五日後には陛下に上奏したい」
地方領主の監視や国境警備を任務とする王帥軍は兵部省が管理するが、王都軍と近衛隊はだけは特別で、兵部省を介さず国王が直接管理すると定められていた。
「今日を入れて三日いただければ、草案は出来上がると思います。それで間に合いますか」
「それでいい。任せる」
「では少し、担当に訊きにいってきます」
エトムントは立ち上がり、部屋を横切り、扉を開ける。そのまま出て行くかと思ったが、取っ手を握り、足元を見たままじっとしている。
「どうした?」
「これを」
足元から何かを拾い上げると扉を閉め、エトムントはユストゥスの執務卓の前までやってきた。
「団長は、これにお心当たりはございませんか」
エトムントが執務卓の上に何かをおいた。
薔薇の形が彫り出された紅珊瑚の首飾りだ。
見覚えがある。母の形見として、アレクシスがいつも身につけていたものだ。
繊細に彫られた花弁の所々には、乾いて塊になった血がこびりついている。
ユストゥスは、目を大きく見開く。
――その結果何が起ころうとも決して後悔なさらぬよう
昨夜、別れ際にグイードに言われた言葉が、頭の中に響いた。
アレクシスはまだ帰っていない。
アルフィーナに会うのが嫌で、街道の途中の宿場町で、無駄に日を過ごしているのだろうと、特に心配していなかったのだが。
「まさか、な」
これだけで、アレクシスの死を決めつけるのは早急にすぎる。だが、アレクシスがよくない状況にあるのは確かだろう。
グイードの目的は、フィネを殺したアルフィーナとそれに味方するユストゥスの命だけだと思っていた。
こんな形で、ユストゥスに宣戦布告してくるとは考えていなかった。
自分の甘さに腹がたつ。
手を伸ばし、首飾りを取り上げた。
胸の前で拳を作り、掌の中の首飾りをしっかりと握った。
今日は、部下から持ちこまれる書類の数は少なかったが、その分、王宮に泊まりこみ、例年の資料を漁って、来期にむけての計画の骨子を練ろうと思っていたのだ。
アルフィーナを巫王の下に連れていったり、グイードに呼び出されたりで、ここ数日時間をつくれなかった。今日中に始めないと間に合わないものがいくつかある。だが少し、予定を変えなければ。
こんな時にも、仕事のことを一番に考えるのは、自分が冷酷な人間だからなのか、それとも今の現実を拒否しようとしているだけなのか、ユストゥスには分からなかった。
拳をつくった手が震えていた。胸におさえつけて震えをとめる。エトムントにむかって無理やり笑顔をつくった。
「夕刻、一度屋敷に戻ってもいいか。殿下に話さなければならないことができた」
父は今日、王都軍の駐屯所ではなく、王宮に出仕していたはずだ。
「ひとまず親父のところに行ってくる」
「大丈夫か? ユストゥス」
ユストゥスが己の補佐として近衛師団に引きぬいてから、普段二人きりの時でも丁寧な態度を崩さなかったエトムントが、敬称を使わずに呼んできた。
「ああ」
動揺のあまり気持ちを周囲に隠しきれなくなっているのが分かる。
エトムントが、気遣わしげな表情でこちらを見ていた。
「少し面倒なことが増えただけだ。親父と殿下に話したら、お前にも教える」
いつものように笑わなければ。意識して口角を引き上げ、なんとか作った笑顔をエトムントにむける。
「無理はなさらないでください」
「ああ」
エトムントに頷き、ユストゥスは父の執務室にむかった。
父の執務室へいくと、人払いをたのみ、首飾りを父の執務卓の上においた。
ユストゥスが昨夜グイードに会ったこと、それを見つけた事情を話し終えると、父は執務卓の上に肘をつき、組んだ手の上に額をあてて、大きくため息をついた。
ずっと巌のように思ってきた父の肩が落ち、小さく丸まっている。
軍に入ってからは、あのテオドールの養い子と、常に人からは言われ、父以上の実力を示すことを求められた。
ユストゥスにとって父は目標であり、越えなければならない障害だった。
その父が、落胆している。
初めてみる父の姿だった。
アレクシスは父の血を分けた唯一の子だ。
自分がアルフィーナへの伝令を頼まなければ、アレクシスはグイードに捕らえられなかったではないか。
自分のせいでアレクシスが傷つけられたと、父は自分のことを責めるのではないか。
ユストゥスは怖かった。
わずかな動きも見逃すまいと、ユストゥスは父の姿をじっと見つめた。
知らず知らずのうちに体中に力が入ってしまう。ユストゥスは父の執務卓の前で、緊張して立っていた。
「あれは」
吐息とともに吐き出された父の声に、ユストゥスはびくりと体を震わせた。
次にくる非難の言葉を予想して、ユストゥスは全身に力を入れる。
「私とアデーレの子だ」
やはり、とユストゥスの口の中に苦いものが広がる。父は、巫王からユストゥスを預かり、育てたことを後悔している。
だからと言って、アルフィーナに味方することをやめる気はない。これにより、父との間に断裂が生まれ、それが修復しえないものになったとしても。
今は、
「だが、どちらにも似なかった」
ゆっくりと息を吐き出し、父が顔を上げた。
そこにはユストゥスが予想していたような怒りや怨みの表情はなく、父は苦笑まじりに静かに微笑んでいた。
「容姿はな、私の生き写しといってもいいくらいよく似ているが、性格がな。アデーレはあれを生んですぐ、肺の病にかかった。そのせいで、アレクシスを自分で育てることができなかった。それを不憫だと思って、私はアレクシスを甘やかしすぎたのかもしれない」
ユストゥスは、父の言葉にどう応えてよいかわからない。父が何を話したいのか、父の話しを聴くことに集中する。
「お前は、殿下への伝令としてアレクシスを選んだ。それは適当な人間がアレクシスしかいなかったからだ。
お前は殿下を信頼していた。殿下であれば無事に王都にたどりつけるだろうとな。だが、アレクシスのことは信頼していなかったのではないか?」
自分の考えを的確に読んだ
「ええ。アルフィーナであれば、追っ手がかかろうとも問題ないと思っていました」
「それはお前が、殿下の剣の腕を信頼しているからだろう?」
「ええ」
ユストゥスは頷いた。
テオドールはこの国一番の、ユストゥスはそれに次ぐ剣豪と言われていたが、それは軍籍にあるため、二人の剣の腕が多く人々の目についただけだ。実際は、アルフィーナこそがこの国一番の剣の実力を持っているだろう。
「私も、お前と殿下のことを信頼している。だから七年前、殿下が王都を出て行った時もとめなかった。いずれ時が、すべてを解決していくれるだろうと思ってな。時間はかかったが実際そうなった。私は殿下とお前のことを誇りに思っている」
「それは……」
父に認められるのは、喜ばしいことだった。聞かされるのがこんな場面でなければ、手放しに喜べただろう。アレクシスと比べるように、語られるのは
「もちろん、お前もアレクシスも私のアデーレの子だ。お前たち二人とも息子として深く愛している。だが違う人間だ。生まれ持った器量は異なる。お前はあれと同じ年のころ、何をしていた?」
「王都軍で中隊長の任を努めていました」
「うむ」
テオドールが頷いた。
「私は、お前が私の息子だからその任を与えたわけではない。お前であれば、その職務を十分に果たしえると思ったから任せた。私はアイゼンフート家は武門の家だと思っている。だがアレクシスには未だ軍に入ることを許していない。なぜか分かるか?」
貴族の子弟は、軍学校を卒業するか選抜試験を受けるかして、士官候補生として軍に入る。半年間の基礎教育の後、分隊長に任命され十名前後の部下がつく。少数でも部下がつくのだ。その責任は重い。父は、アレクシスに軍で務めるだけの器量がないと言いたいのだろう。
「私の口からは……」
明言することはさけたくて、ユストゥスは語尾をにごした。
「人の上に立つからには責任が生じる。あれはまだそのことを分かっていない。お前がアレクシスのことを信頼しないのもその辺りが原因だろう?」
「ええ」
ユストゥスはぎこちなく頷いた。
「お前は、アレクシスに殿下を護って王都へ連れてこいと言った。その責任を果たそうという考えがあれば、アレクシスは殿下から離れなかったはずだ。いや、そもそもそれが分かるだけの器量があれにあれば、お前は最初から、殿下に護ってもらえとアレクシスに言っただろうな」
「ええ」
それが最善であることはユストゥスも知っていた。だが、アレクシスの性格ではそれは無理だと思ったから、アルフィーナを護るようにとアレクシスに責任を与えた。
それで二人がともに王都に戻ってくればよいと思った。
だが、アレクシスの性格では、アルフィーナとともに行動をするのは難しいと思ったのも事実だ。
そう判断したアルフィーナは、アレクシスの安全を護るため、アレクシスとわかれ、刺客を自分の身に引き寄せようとした。
それは、ユストゥスが期待した通りの行動だった。
「お前の判断が間違っていたとは、私は思わない。私もお前と同じようにしただろう。
お前とアレクシスと殿下、私はそれぞれに大切に思っている。そこに差はない。
だが、お前と殿下は信頼できても、アレクシスは信用できない。
あれは自分の感情を優先しすぎる。お前達と違って、自ら責任を負い、それを果たすことを知らない。
お前に殿下の身の安全を任され、それを引き受けた以上、殿下のことをどう思うと、あれは屋敷に戻るまで、殿下の側を離れるべきではなかった。そうしなかったから、グイードにつかまり利用される結果となった。
今回のことは、全てあれが自分自身でまねいたことだ。お前が気に病む必要はない」
「ですが……」
その先の言葉を制するように、テオドールが首をふった。
「親はな、いつまでも子を守ってやることはできない。私はお前と殿下のことを信じている。だからお前たちの自由にさせている。だが、アレクシスのことは信じられない。だからと言って、いつまでも守ってやるわけいにはいかない。親としてはなさけないことだが、あれを軍に入れず、他人に迷惑がかからないようにするのがせいぜいだ。
今までの成り行きと私の権限を持ってすれば、エーファ殿に抗議し屋敷を調べることもできるが、我が家以外にこれといって味方のいない殿下の基盤は盤石とは言い難い。私は今、エーファ殿と事をかまえたいとは思わない。
幸いあれは公職についていない。あれの不在はいくらでもごまかすことができる。あれが勝手に家出したことにして放っておく」
「よいのですか?」
ユストゥスの問いに、テオドールが首を振った。
「いかに息子が可愛くとも、いつまでも尻拭いはしてやれない。お前ももう、このことは気にするな、といっても無理だろうが、アレクシスを助けようなどと考える必要はない。お前は殿下のことを一番に考えろ」
「はい」
ユストゥスは頷いた。
夕刻、一度屋敷に戻り、アルフィーナに父にしたのと同様の話をした。
話を聞き終えたアルフィーナは絶句し、一言だけ言った。
いいのか、と。
アレクシスのことだけでないのはわかった。
アルフィーナを擁立すること決めたことも含め、すべてのことをだ。
「俺も親父も決めたことだ」
「今なら引き返せる」
アルフィーナが、蒼氷色の瞳で真っ直ぐに見つめて言った。
ユストゥスは緩く笑って首をふった。
「俺と親父はな。だが、お前はどうするんだ?」
アルフィーナは目をふせ、少し考える様子を見せた。
「この国を抜け出すさ。傭兵にでもなれば、俺なら一人で生きていける」
「グイードがいなければそれでいいだろう。だが俺はフィネでなくお前を選ぶと決めた。グイードにとっては、俺も復讐の対象になった。お前がいなくなったからと言って何も解決しない。
フィネのことは俺に責任がある。フィネのことも王位のことも、お前一人に背負わせはしない」
アルフィーナが顔を上げた。道に迷って途方にくれた子どものような、心細そうな表情をしていた。
「大丈夫だ、フィー」
ユストゥスはアルフィーナの肩を叩いた。
「俺はお前を見捨てない」
アルフィーナは、何か言おうとでもするように唇をわななかせ、だが言葉を発することはせず、唇をひきむすんだ。
ユストゥスはアルフィーナに笑いかけ、王宮へ戻った。
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