第21話

「本日より、勇輝戦隊テラブレイバーズの二代目ピンクに就任しました! 向坂晴香です。よろしくお願いいたします!」

 ビシッと敬礼を決めた少女が、やや硬くなりながら名乗った。その初々しさに、年配の男達は揃って鼻の下を伸ばし頷いている。その様子に呆れながら、誠は必要事項を書き込んだ書類を向坂に手渡した。

「はい。これで技術四班で必要な書類は全部です。何かわからない事があったら、その都度訊いてくれればわかる範囲で答えますから、遠慮せずに」

「わかりました」

 頷きながら向坂は書類を受け取り、そしてジッと誠の顔を見た。

「……あ、あの……何か?」

 見詰められる居心地の悪さから、誠は視線を逸らしつつ問う。すると、向坂はパッと目を輝かせた。そして、ずいっと身を乗り出してくる。

「あの! 初瀬誠さんですよね? 半年前のあの事件の時に、一人であの数の巨大化した雑魚怪人を片付けてしまった、技術班の!」

「え、その……たしかに、初瀬誠は僕ですけど……」

 あの時活躍したのが誠だけであるように言われるのは、心外だ。あの時は、皆が活躍した。技術四班も、それ以外の技術班も、管制室も。勿論、中花達、戦士も。

 皆が自分にできる事を、全力でやった。だからこそあの騒動は収まったし、今こうして平和な日常を過ごす事ができる。

 相変わらず怪人は出るし、最近はどれだけの期間で襲撃してくるか、というパターンもわからなくなってきた。おまけに、相手はどんどん強くなっている。それでも、普段はこうして平和な時を過ごす事ができるのは、皆があの時も、あれからも、自分にできる事を懸命にやっているからで。

 そういった事をたどたどしく説明すると、向坂の目は増々輝く。

「それはそうですけど、それでもあの時一番目立ってたのは真っ先に現場に駆け付けた初瀬さんですから! 格好良かったですよ!」

 そこで一旦言葉を切り、向坂は「実は……」と言葉を繋ぐ。

「あの時、私、既に次のピンクにならないかってスカウトをされていたんです。けど、怖いし、自分にできるか自信が無くて、受けるべきかどうか悩んでました」

 そんな時、あの事件が起きた。そして、あの絶望的状況から立ち直った戦士達や、いの一番に救援に駆け付けた誠の姿を見たのだと言う。

「あれで私、スカウトを受ける事を決めたんですから! だから、やっぱり技術四班の皆さんの中でも、初瀬さんは特別に格好良いという認識を改める気はありません!」

 きらきらした視線で、逆に居心地が悪い。誠が困った顔をすると、同僚達はニヤニヤと笑いながら誠の脇腹を小突いた。

「いやぁ、困ったな初瀬ぇ。どうするんだ?」

「こんなとこ、彼女に見られたら修羅場以外の何にもならないよなぁ?」

 その言葉に、誠は「うわぁぁぁぁ……」と静かに叫ぶ。

「やめてくださいよ! そんな状況、冗談じゃない!」

 悲愴な顔をする誠に、同僚達は「だよなぁ」と笑う。そして、誠の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、向坂に向き直った。

「向坂さん。幸か不幸か、こいつには既に相手がいるんでなぁ。悪いけど、こいつを狙うのだけは無しにしといてくれるか? 技術班の平和のためにも」

 すると向坂は、一瞬だけきょとんとした。そして、すぐさま目を輝かせると、頷く。

「知ってますよ! 先代ピンクの世良さんですよね? 世良さんも格好良い女性ですから、お似合いですよ!」

 その言葉に、誠を初めとした技術班員全員がホッとため息を吐く。どうやら、修羅場は回避されたようだ。誠は安心して、思わず左の腕で額をぬぐう。その手の薬指で、シンプルな指輪が輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る