意志

ノータリン

第1話

いつからか、我々の身の回りには人工物が溢れかえっている。

人工物とは、人間が人間のために作り出したものであり人と違い弱音を吐くこともなければ決して手を抜くこともなくましてや、疲れることもないというまるで夢のようなもの

それに囲まれて私たちは今を生きている。恩恵など微塵も感じないままに



夏の暑い日の出来事だった。

S市内で、工事現場のクレーン車が工事現場に追突 死傷者10名以上をだす大事故が起こった。これに対して現場監督は「不備は存在しなかった」と発言した。鍵が差しっぱなしだったわけでもなく、なにも全く問題はなかったと答えた。世間からは厳しい意見ばかりが寄せられた。「何の問題がないなら事故が起こるわけねぇだろ!超常現象でも起こったのか?」だが現場監督は一貫して発言を変えることがなかった。「どうして事故が起こったのか分からないだが非となりうるものは何一つなかった。」現場監督は解任され、工事は一時中断となった。


その頃からか、S市内で事故が多発するようになったのは

大手株式会社ビルのオフィス内で男性社員の死亡事故

ビルの階段で男女計六名が重軽傷を負う事故

交差点での衝突事故男女四名が重軽傷を負う、内一名死亡

一日あたりの事故発生件数が例年比で比べると約七倍にもなっていることが判明した。


原因は全て老朽化によるものとして片づけられた。がすでに街の人々は何かおかしい、妙にだるいという感覚を感じつつあった。


次の日の朝、Aさんは時計の目覚ましの音でいつもの様に起き朝の用意をしようとしたときの明確な違和感を感じた。


顔を洗う為に蛇口を捻るが妙に硬いし水もいつもの様に勢いよく出るわけではなくチョロチョロとしか出てこないしょうがないので我慢して顔を洗って髭剃りを使うがいまいち髭がそれにいつもならそれているところに剃り残しが見える。気を取り直してコーヒーを入れるために湯を沸かすが火が弱い


妙な違和感を感じながらテレビの電源を付ける。電源がつくのも遅く何故か画面が色褪せて見える。心なしかニュースキャスターの声にも雑音が混じっている


ニュースキャスターは切羽詰まったような顔でこう言った

「S市内で物が正常な動作を起こさないという異常が発生しています。何故か車が20㎞以上の速度を出せず大規模な渋滞が起こっております。いったいどういうことなのでしょうか一部ではパソコンの画面全体が『疲れた』という文字で埋め尽くされてしまったとの報告もあります。いったい何が起こっているのでしょうか?...」段々と画面は色褪せ音量は下がりいつの間にか画面は真っ暗になっていた。お湯もトースターも一向にできる気配が無い。携帯のロック画面には『疲れた』の文字

こっちまで疲れて来たと思い、ソファーに腰をかける「バキバキバキ」と音を立ててソファーが割れ床に尻もちをつく「勘弁してくれよ」Aさんは嘲笑しながら呟いた。



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意志 ノータリン @bjl

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