怪異が棲む学園 ~呪われた血族~
玄野ぐらふ
第1話 銀の首輪
いつの頃からだったか、僕の首には首輪が嵌められていることに気がついた。
初めの頃、それはとても希薄な存在だったので、いつからあったのかさえ覚えていない。
希薄な存在だったそれは、薄っすらと見えるだけだったのだが、歳を重ねる毎に存在感を増し、今では手で触れることができるほど実体化している。
それは只の輪っかで、銀色をしている。
それ以外に特徴らしきものが見当たらない。もちろん外そうと思ったのだが、取り外す部分さえも見当たらないのだ。
誰かに相談しようにも、その首輪は他人には見えないし、触ることもできない。
そのことを周りの大人達に話すと頭のおかしい子だと思われるのも嫌なので、放置していた。自分さえ我慢すればいいと。
実際、無視していれば実害はなかった。
そして僕が高校一年生になってしばらくしてからのことである。
クラスメートの首輪も見えるようになっていた。
僕は勇気を出して、隣の席の女子に訊いてみた。
「その首輪、どうしたんだ?」
「なんのこと? 首輪なんかどこにもないけど?」
「あっ、ごめん。勘違いだった。寝ぼけてたみたい」
「変なの……」
それ以上追求してはいけない。やはり他人には見えないのだ。もうこれ以上謎の首輪に関わるのはやめよう。自分さえ我慢すれば済む話だ。
その時、斜め前の女子が話しかけてきた。
「あなた……。見えるのね?」
抑揚のない話し方だったので、隣の女子が幽霊の話だと勘違いして騒ぎ出した。
「ちょっと、ちょっと、怖い話なら止めてよ! 私は怖いのが苦手なの!」
「どうしたの?
「怖い話をしようとしていたのよ」
「それは誤解だろ。僕は何も話してないよ」
それから数人の女子が集まってきて、僕一人が
結局女子の中では、僕が隣の女子の気を惹くために怖い話をしようとしたことになってしまった。これも僕だけが我慢すればいいことなのだろうか? 理不尽極まりない話だと思う。
そして、一週間が過ぎた。
僕が我慢した成果が出た。月曜日の今日は平穏無事に過ごせた。何事もない平凡な日常を愛している僕にとって、この幸せがいつまでも続くことを願って止まない。
「神夜くん、ちょっと話があるの」
幸せは長く続かなかった――
斜め前に座っている女子だ。あの時、僕を見捨てて逃げてしまった女子だ。今更なんの用があるというのだろう?
「
「いいから付いてきて」
僕は藤崎さんに屋上まで連れて行かれた。ここはいつも鍵がかかっていて、入れないはずだ。
「やっと、二人切りになれたね」
「えっ、もしかして……」
僕は態と彼女の目を覗き込む。彼女の顔はみるみる赤くなっていく。
「か、勘違いしないでよね。一週間前の話をしようと思っただけよ」
「それなら勘違いしてないよ」
藤崎さんは勝手に自爆してくれた。少しだけ溜飲が下がった思いだ。でも、彼女は僕から見ると美少女だし、健康な男子の僕としてはとても嬉しい状況のはずなのだが……。いやな予感がする。
「同じクラスの遠野さんが自殺したのを知ってるよね?」
「えっ?」
遠野涼子のことは知っている。でも、自殺したのは初耳だ。
「知らないな。ホームルームでも話に出てなかったと思うけど」
「そうなの……。まだ騒ぎになっていないようね。でも、警察が来ていたのは知っているでしょ?」
そう言えば、授業中に警官が廊下を歩いているのが見えた。
「それは知っている……。どこで自殺したんだ?」
「昨日の夜。この屋上から飛び降りたみたい」
「僕は帰ることにするよ」
「ちょっと待って。あなた、見えるんでしょ?」
「何が? 怖い話は苦手だから止めてくれ」
「坂上さんみたいなこと言わないでくれる。あなたが見えることは判っているのよ」
「だからぁ、見えるって何をだよ!」
「あなたって、サイキックとかミディアムと言われている能力者なんでしょ? 違うとでも言うの?」
なるほど。藤崎さんは僕が心霊的な能力の持ち主だと思っているわけだ。
「なんでそう思うんだろう?」
「だってあなたは先日、坂上さんに首輪が付いているって言ってたじゃない。学校に首輪を付けてくるような人いないでしょ。ということは、見えないものが見えているんじゃないの?」
そうだ、僕はあの時、坂上さんの首に巻き付いている物を見た。
でも、あれは首輪と呼べるような物ではなかった――
「私の首にも何か付いてるの?」
「いや、付いてないよ。あっ……」
「あなたって、単純なのね」
藤崎さんにはまんまと嵌められたけれど、彼女に首輪は嵌っていない。
今思い出すと、坂上さんの首についていたのは首輪ではなかった。
僕は自分の首輪と重ね合わせて首輪と言ってしまっただけなのだ。
あれは確かに蛇だった――
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