詩音の砂の城

 ぶつぶつと不満を言い続ける夜の横で、詩音は砂の城を建てていた。夜の話を聞いて同意しつつ、たまに自分のことも言う。

 夜の海辺はさざ波以外の音はなにもしなくて、星はちかちかとまたたいていて、それなのに胸は不安と不満でいっぱいだった。

「夜のお母さんと詩音のお母さんを足して二で割ればいいのに」

「どういうこと?」

「詩音のお母さんは詩音に興味なくて育児放棄中だから、過干渉の夜のお母さんと足して二で割ればちょうどいい」

「そうかも」

「なんで詩音のこと産んだんだろう」

「そんなのぼくが聞きたい」

 いくら考えても子供である二人に大人の考えなどわからない。親とは一番近い他人であり、他人とはいくら考えても分かり合えない部分がある。そういうことを学ぶ場面を二人は与えられていなかったこともある。

 しかし普通の子供がどういう環境で育てられるのか、そもそも普通とはなんなのか、答えられる人間はこの場にいない。

「なんで誰からも連絡こないのかなとか思うと泣きそう」

「ぼくがする」

「じゃあ今度メールアドレス教える。夜はメールできるの?」

「家のパソコンにぼく専用のアカウントがある」

「そういうのは許されてるんだ」

「ぼくが使った後は母親が履歴を全部調べるけどね」

「それは……ちょっと――」

 親にかまってほしい詩音でもちょっと引く夜の母親である。詩音の両親はいくら暇でもそのようなことはしない。そもそもアクセス制限付きのスマートフォンをわたしてくる。

 気を遣っているようでまったく遣っていないのだ。そういうことは子供にはわかる。親に構われたい詩音には余計に一目瞭然だ。

 詩音の手元ではそれなりに大きな砂の城が建設されつつある。最初はただの山だったのが、徐々に塔が現れ窓ができ、ディティールが細かくなっていく。暗い中でも星明かりでそれっぽく見えてくる。

 夜と詩音の不満はまだまだあった。今までお互いに気を使って言っていなかったこと、暗いさなかで互いの顔がよく見えないことなどが、ますます口を軽くする。

「結局ぼくはなんなんだ。母親の都合のいい子供でしかないのか」

「それ言われちゃうと夏休みだからってばあちゃん家に預けられた詩音は都合の悪い子供ってことに……」

 方向性は違えど親に不満があるということで意見が一致している夜と詩音の愚痴はとどまるところを知らなかった。

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